神秘の森 十五話 お気に入り
-- side you --
「ユウ、コレを着て。何時までもそんな恰好だとアレだから。」
と、ウイがキノコを包んでた学ランを手渡してくる。
そういえば、俺は上はセーラー服だが、スカートが破れたままだった。
今はパンツルックだ。まぁパンツルックといっても、ズボンでは無くトランクスだがな。
何故トランクス派かというと、ウイがブリーフ派だからだ。同じ体格で同じパンツだと間違うからな。中学以降はトランクスに変えている。
「おう、ありがとう。」
と下をみてみる・・・げ!?銀色のパンツ?・・・どこかで見たような・・・
そうだ!マイが学ランの上から着てた銀色のキワドイやつだ!!
ウイが手渡してきて、目の前で消えたと思ってたけど。あの瞬間に俺に着せていたとは!!なんという早業。恐れ入ったぜ。
「ウイ!このパンツどうやって俺に穿かせたんだ!?」
流石にこれは怒っていいレベル。
この言葉にアーズとドワーフ達がウイを変な目で見ている気がする。
しかも良く見たら、銀色のパンツの内側に、薄いピンクの布が見えている!も・・・もしやこれは、マイの・・・いや、流石の長兄でも、そこまでは・・・。
俺の服と、マイの服を交換した犯人はウイだ。まぁ軽いイタズラだったんだろう。しかし下着まで換えるとかするかね。
「その鎧気に入ってくれた?凄い性能でしょ」
また銀のパンツを鎧と言い切るウイ。凄い性能とか意味がわからん。
いや、鎧と言い換えないとアーズ達に変に思われるからか?流石は長兄。カムフラージュかよ。
「え?ユウそのビキニ気に入ってるんだ。に、似合ってるよ」
マイの言葉には真実が1つも無いな。誰か殺されたら真犯人はマイに違いない。
「いや、気に入ってねぇよ。そもそもこのパンツはマイのだろ!」
この言葉にアーズとドワーフ達が変な目でマイを見ている気がする。今のマイは男に見えるしな。
「あれ?そうだっけ?・・・・え?そ、その下に見えてる薄いピンクのは!!」
一瞬、恍けようとしたのに、俺の穿いてるパンツを両手で持ってガン見するマイ。
「お、おいやめろ!」
「やっぱり、これ、アタシのお気に入りじゃない!」
パンツを思いっきり脱がそうとしてくるマイ。狂気さえ感じる。下のピンクごと銀を脱がそうとしてくる。
しかし、銀のパンツはビクリともせず凄い性能を見せ付けた。
この行動にアーズとドワーフ達の目が・・・
「装備解除!!」
-- side my --
「やっぱり、これ、アタシのお気に入りじゃない!」
信じられない!服ならともかく、アタシの下着まで着てるとか!
いや、ちょっとはその可能性を考えなかったわけじゃない。
さっきキノコをモギに行った時に、ズボンの中にユウのトランクスを見たしね。
でも、それとこれとは話が別。流石に女の子の下着を穿くとか、考えられない。許せない。
それにしても、この銀のビキニやっぱり頑丈だわ。全然脱がせる感じがしない。
アタシの時も全然とれなかったしね。あの時はどうやって取れたんだっけ・・・確か・・・
「装備解除!!」
その瞬間、ひっくり返ったユウから、お気に入りと銀のビキニが一緒に取れた!!
フフフ。やっぱりアタシのお気に入りだ!アタシのお気に入りが帰ってきた!
嬉しさの余り両手で広げて高らかに掲げて喜んでしまった。自然と頬がほころぶ。
「ちょっとマイ!それは酷過ぎるよ!鎧だけでもユウに返してあげて!」
凄く焦ってるウイ兄。
おっと、銀のビキニは呪いのアイテムだった。
こっちはユウに返してあげよう。気に入ってるみたいだしね。
「こっちは返してあげる。これに懲りてアタシの下着を盗まないでね。」
と、ひっくり返ったユウをみる・・・あれ・・・?そこには在るべきモノがなかった・・・
そう、ユウにあって、アタシには無かったモノ、そして今は在るモノ。
そうか。そうだったんだ。
アタシが男になった理由が判った。点と点とが1本に繋がった気がした。真実はいつも一つ。
ユウは犠牲になったのだ。アタシが男に覚醒するために。
別に進んで男に覚醒したかった訳では無いけれど、なってしまったのは仕方ないよね。
そしてアタシは、両手で掲げていたお気に入りを見つめる。
そう、良く考えれば、もうこれはアタシには必要の無いもの。過去の思い出。
凄く気に入っていたけれど、もうコレを穿くことは無いと思う。
だから、ユウにそっと穿かせてあげる。
さようなら、アタシのお気に入り。そして、ありがとう。
優しいアタシは、銀のビキニも一緒に穿かせてあげる。そう、今度は外からピンクが見えない様に。はみ出ない様に。
「お、俺は何もやってないのに・・・」
悪人は何時も『自分はやってない。』という。
涙目のユウ。だけど同情はできない。いくら姉弟でも、ダメな物はダメなのだから。でも、
「今回はユウの犠牲に免じて許してあげる。」
アタシは自分自身の心の広さに感動して、身体が震えそうだった。
「俺は今、犠牲になってたよ・・・」
ユウの手を取り、起こしてあげる。
落ちていたウイ兄の学ランを、そっと肩から掛けてあげる。
ユウの肩が前より小さく見えた。
ユウの犠牲にちょっとだけ涙が出てきちゃった。
この後、何故かアーズとドワーフ達のアタシに向けられる視線が変な物になっていた。