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婚活男子の災難  作者: 滝元和彦
8/9

園田、手嶋の部屋に入る


 目が覚めて時計を見ると、午後5時半を過ぎていた。眠気覚ましにコーヒーを買って飲んで、駅に向かった。

 園田の目的は莉央のポーチを見つけ出すことだった。もちろん、タクシーに乗っていたのが手嶋だという証拠はないし、手嶋が莉央のポーチをすり替えたかどうかも断定はできない。だが、なにか行動していなければ気が済まなかった。

 駅には園田が先に着いた。5分ほどして手嶋が階段を降りてくる姿が見えた。

「待った?」

「いや、今来たとこだよ」

 手嶋はスーツ姿だった。結婚式で見た時よりも大人っぽい印象だ。それに、例の香りもしている。

「じゃあ行こう」

 冷静な園田とは対照的に、手嶋は気持ちが弾んでいるようだった。手嶋のアパートに行く前に、スーパーに寄って買い物をしていった。2人で食材を選んでいると、なんだか付き合ってるような妙な感覚にとらわれた。手嶋はどう思っているんだろう。

 アパートに着くと、

「ちょっと待ってて、部屋散らかってるから片付けてくる」と言って、先に入っていった。

「どうぞ」

 部屋はいかにも女子という感じだった。部屋中、ピンク色で統一されていた。カーテン、テーブル、洋服など。

「その辺に座ってて、今食事作るから」

 園田はベッドの前に敷いてある座布団に座った。

「オレもなんか手伝うよ」

「大丈夫、私に任せて。最近、料理教室に通ってるの。こういうのなんか夫婦みたいね」

 何気なく言ったのだろうが、園田は妙な気持ちになった。

 手嶋の料理はおいしかった。食事のあとは、学生時代のことや最近のことなど世間話に花が咲いた。こうやって話していると、手嶋を女性として意識してしまう。手嶋もやたらと体を接近させている気がする。園田は邪念を振り払った。どうやってポーチを探すか。手嶋を一時的にこの部屋から出す方法はないか。なにか買い物を頼もうか。そんなことを考えていると、

「じゃあ私、ちょっとシャワー浴びてくる。よかったら騎士も使って」

 シャワーという言葉に一瞬ドキッとしたが、チャンスだと思った。

「う、うん。ゆっくり浴びてきて」

 手嶋は着替えを持ってバスルームに入っていった。ドアが閉まる音が聞こえると、行動を開始する。部屋の中にはそれほど物はない。ざっと見渡して、ポーチを隠しておけるようなところは押入れとクローゼット、それにいくつか重なって置いてある段ボール箱くらいだった。

 まず押入れをそっと開けてみた。布団や小物入れ、洋服が置いてある。布団を軽く持ち上げて手を入れてみた。なにもない。洋服の間も調べる。ポーチはない。音を立てないように注意しながら押入れをしめる。

 次はクローゼット。ここにもポーチはなかった。部屋の隅に置いてある段ボール箱に近づく。その時、バスルームのドアが開く音がした。

「ごめん、さっき買ったシャンプー取ってくれない?」細めに開いたドアから声がした。

「これでいいの?」買い物袋に入っているシャンプーを渡した。受け取るとドアがしまった。

 段ボール箱に戻る。バスルームの方をちらと見てから、一番上の箱を開けてみた。中は空だった。それを横に置いて、その下の箱を開ける。そこにはマンガ本が入っていた。どれも女子が好みそうなマンガだった。それも横に置いて、一番下の箱を開ける。中には袋に入ったままの洋服があった。

 結局、段ボール箱にもポーチはなかった。立ち上がって部屋を見渡す。他に隠しておける場所はないか。キッチンが目についた。その下には皿や調味料などを収納するドアがある。開けてみたが目当てのものはない。

「やっぱり手嶋は持っていないのか。タクシーで莉央と一緒に乗った客は手嶋じゃなかったのか」

 あきらめて元の場所に座ろうとすると、視界の先にベランダが見えた。

「いちおう、見てみるか」

 暗いので足もとに注意しながらベランダに出る。左側に引き戸になっている収納庫が見える。扉をそっとスライドさせる。扉は開いたが、暗くてよく見えない。上着のポケットからペンライトを出した。中を照らす。中には段ボール箱、テニスのラケット、古い家電などがあった。顔を入れてよく見ると、奥の方に何かが見える。引っぱってみると、ポーチだった。それもネコの絵が描いてある。ペンライトで絵を照らす。ネコの絵にはしみのような跡があった。莉央のポーチだった。

 その時、部屋の方で物音がした。園田はとっさにポーチを階下に投げ捨てた。代わりに自分で持ってきたポーチをそこに入れた。扉をしめるのと同時くらいにベランダの窓が開いた。

「騎士、何してんの?」手嶋がバスローブ姿で立っていた。

「い、いやちょっとね。お月さんがきれいだなと思って」そう言ってぎこちなく夜空を見上げる。

「あ、ほんとだ。まあるい月」

「オオカミ男だったら変身しちゃうな」

「変身しちゃってもいいよ」

 手嶋の意味ありげな発言に戸惑いながら、園田は

「ははは」と笑ったが、沈黙が続き気まずくなったので部屋に入ることにした。

 ポーチを発見したから、もうすることがない。園田がそろそろ帰ろうかなと言うと、

「せっかくだから泊まってけば」と言って、園田に近づいて来る。園田の心臓の鼓動が高まる。手嶋はオレを誘ってる。中学の時とは違って積極的だな。なにか帰る理由を作らないと。どうしようか考えているとスマホに着信があった。会社の同僚からだった。手嶋に断ってから電話に出る。たいした内容ではなかったが、これを利用することにした。

「ごめん、急用ができた。今から会社に行かなくちゃ」そのまま玄関に向かう。

「今日はありがとう。またおじゃまするよ」

 手嶋の返事も聞かずに外に出た。1階に降りてベランダのある側へ歩いていく。さっき落としたポーチはすぐに見つかった。人の気配がないのを確認してポーチを拾いバッグにしまった。


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