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婚活男子の災難  作者: 滝元和彦
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情報収集


 翌日、園田はB市内の、ある古めかしい邸宅の玄関前に立っていた。早起きして、まずネットでアンドロイドについての情報を集めた。園田の知っているアンドロイドの知識はごくわずかだった。人間そっくりな姿をしていて、人間に代わって仕事をするロボット。ネットにもたいした情報はなかった。アンドロイドについての記述は削除されたのだろうか。それらの情報の中に、古澤勉という名前がよく出てくることに気づいた。彼はどこかの研究所で働いていたが、現在は引退しているらしい。彼はアンドロイドの権威だという。園田はその古澤の家の前に来ていた。インターフォンを押すと、若い女性の声がした。

「はい、古澤ですけど、どちら様でしょう?」

 園田は簡単に事情を説明した。

「お待ちください」

 しばらく待っていると、玄関のドアが開いた。家政婦のような服装をした女性が現れた。警戒するような眼差しだった。

「どうぞ、お入りください」

 女性は園田を応接室に案内した。そこには、園田が見たこともないもので溢れていた。古澤という人の趣味なのだろうか。フィギュアやロボットのプラモデルが、いたるところに置かれている。

 古澤はソファーに座ってタバコを吸っていた。年齢は70代くらい。髪は白髪だが、はげ上がってはいない。痩せているが筋肉質で、顔はあごが少し出ているのが特徴的だ。

「きみが園田くんか、まあ座ってくれ。あやみ、飲み物を持ってきなさい」

「はい」

 園田がソファーに座ると、

「それで何を聞きたいのかね」と尋ねてきた。

 園田は今までの経緯を説明した。話を聞いた後、古澤はしばらくタバコの煙をもてあそんでいた。

「きみは人間とアンドロイドが、つい最近まで共存していたという事実は知ってるか?」と聞いてきた。

「実際に彼らと接したことはないですけど、そういうロボットみたいなのがいたのは知ってます」

「それが、あることをきっかけに、この世界から姿を消した。今現在、国内にはアンドロイドはいないことになっている。少なくとも公には使われていない。今から十数年前にアンドロイドの製造、使用を禁止する法律ができたんだ。これで表向きはアンドロイドは作れなくなった。すでに存在していたアンドロイドは破壊されることになった」

「きっかけっていうのは何ですか?」

「一言でいえば、アンドロイドが人間の手に負えなくなったんだ。さまざまな面、とりわけ脳の分野で人間の能力をはるかに超えてしまった。そうなることはずいぶん前から指摘されていたことだった。しかし、人間はそれを楽観的に考えすぎていた。人間の能力を超えた彼らは我々をあざむきだした。そして人間に代わって支配権を握ろうとしたんだ。だから破壊することにした」古澤は園田の反応をうかがっている。

「どうやって破壊したんですか。つまり、ぼくの知ってる情報だと、アンドロイドは人間と見た目の区別ができないらしいですけど」

「初期のアンドロイドは、見た目からして人間とは違っていたから区別するのは容易だった。だが、第五世代と呼ばれるアンドロイドは人間と見た目がそっくりだった。さらに、内部の組織や細胞レベルに至るまで、人間と同じように作られていて、もはや区別することができなくなった」

「じゃあ、破壊はできなかったんですか?」

「私もあまり触れたくない過去なんだが、区別ができない以上、あやしいと思った人間は片っ端から殺されていったんだ。アンドロイドの破壊の名のもとに。中世の魔女狩りだな」

 園田は無差別に人が捕まえられるのを想像して気分が悪くなった。

「そんな過去があったんですね、全然知らなかったな。学校でも教えてくれなかったし」

「都合の悪い歴史は学校じゃ教えないからな」

「そうすると今でも、もしかしたら人間に混じって活動しているアンドロイドがいるかもしれないんですね。やっぱりあの事件は莉央がやったんじゃなくて、アンドロイドがやったんだ」

「まあ、そんなに結論を急ぐんじゃない。生き残りがいるかもしれないのは否定はしない。ところで監察医によると、殺害の手口がアンドロイドのそれと似ているってことだったな。確かに、アンドロイドの一部にはそういうやり方をするものもいたが、全部ってわけじゃない。いくらでも例外はある。あるアンドロイドは、人間を殺すのに、どういうわけか必ず右足で蹴りあげるという方法を使っていたし、また別のアンドロイドは分厚い本を凶器にしていた。だから、首をねらったからといって、絶対にアンドロイドのしわざとはいえんな。ちなみに君の奥さんとはどこで知り合ったんだ?」

 いきなり妻との馴れ初めを聞かれて拍子抜けした。

「あの、婚活パーティーです」恥ずかしそうに答えた。

「ああ、そうか。彼女のプロフィールは知ってるんだろうな。生い立ちとか」

「それはまあ」と園田は言ったが、少し引っかかるものがあった。そういえば、莉央はあまり自分の生い立ちを話そうとしたがらなかった。それに子供の頃の記憶があまりないとも言っていたのを思い出した。

「生い立ちが何か関係あるんですか?」

「実はアンドロイドの破壊運動があった時に、一部のアンドロイドは月に逃れたんだ。今でも彼らは、月の裏側でひっそりと生活しているという情報もある。もし、君の奥さんが月からやって来たとか、君が月に旅行に行った際に、そこで出会ったということだったら、君の奥さんはアンドロイドである可能性は高いと思ったんだがな」

 園田は話を聞きながら、莉央のことを思い出していた。特に婚活パーティーで莉央に出会った時のことを。莉央のプロフィールは把握しているが、それがでたらめだなんてことは考えてもみなかった。園田が考えに耽っている間も古澤は半ば独り言のようにしゃべっていた。それらは専門的すぎたし、事件とは直接関係ないように思われた。頃合いを見計らって帰ることにした。

 停めてあった車に乗った。帰りの道すがら、今の会見で得た情報を整理した。

 帰ってくると、B市で起きている無差別殺人事件について調べてみることにした。情報源はネットやテレビの報道、週刊誌、新聞など幅広く集めることにした。

 それらから分かったことは、事件発生の時間は多くは深夜の時間帯だが、昼間の時間の時もある。被害者は一見、女性が多いように思われたが、男性の被害者もいて性別はあまり関係なさそうだった。犯行場所は様々で、メディアでも規則性はないだろうと書いている。ただ、若干、B市が多いような気もする。凶器は鋭利な刃物が多いが、硬質なものによる撲殺もあったし、絞殺もあった。それではなぜ、これらの共通性のなさそうな事件が同じ人物による犯行といえるのか。それは難しいことではなく、それらの現場にはトランプのカードが残されているからだった。残されていたカードは様々で、規則性は見つかっていない。もちろん、カードが残っているからといって、必ずしもその殺人鬼の犯行と断定することはできない。部外者がまねをして置いていった可能性もある。だが警察は、カードが一般に流通していない特殊な材質でできていて、簡単に入手できないから、それを残したのは同じ人物だろうと考えている。犯行を目撃した者はいたが、殺人鬼は被り物をしていて顔は見えない。メディアから得られる情報はこんなところだった。

 園田はそれらの事件と莉央の事件を比べてみた。莉央の事件にはカードはなかった。時間は深夜というほどではないが遅い時間だ。凶器の刃物は共通していた。B市も同じだ。やっぱり、あの事件は殺人鬼のしわざじゃないか。

 資料を置いて一服していると、スマホに着信があった。弁護士の袋田からだった。


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