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婚活男子の災難  作者: 滝元和彦
4/9

捜査開始


 莉央が逮捕されてから3日目、園田は仕事を休んで朝早くから警察署へ行った。神山から莉央と面会できるという電話があったからだ。警察署に到着すると、神山が出迎えてくれた。彼は愛想よくあいさつすると、ある一室へ案内した。そこは面会室だと説明されて、椅子に座っていると、透明な窓の向こうから莉央が現れた。顔はやつれているようにみえた。園田の姿を見ると、目に涙を浮かべた。

「騎士」狭い部屋にこだまするような大きな声だった。

「莉央」園田は透明な窓に顔を近づけた。

 2人はしばらく見つめあっていた。ため息まじりに莉央が、

「わたしわけが分からない。急に警察の人に呼び止められて、逮捕するって言われて。でも、わたしはなにもやってないの」

「信じるよ。莉央が殺人なんてするはずがない。これはなにかの間違いだよ」

「信じてくれるのね、うれしい」

 園田は莉央の言葉にうなずく。

「もちろんだよ」

「でも、なんでわたしがこんな目にあわなきゃいけないの」

 園田は、事件についていろいろ考えていた。

「これは誰かが僕たちを陥れるために仕組んだわななんじゃないかと思うんだ。僕はそれを暴こうと思う。そのためには、事件のあった日の莉央の行動を詳しく話してほしいんだ」

 莉央は事件のあった日の自分の行動を夫に話して聞かせた。それによると、莉央はその日は午後7時まで勤務だった。莉央の勤務先はB市にあるショッピングモールの中にある女性向けの洋服を扱うショップで、そこを出たのが7時半ごろ。そこから少し歩いたところにあるドラッグストアで買い物をして、その先の書店に寄って、本を立ち読みしてから駅に向かって歩いて行ったという。駅に向かう途中に、事件があったトンネルがある。莉央は確かにそこを通ったようだ。時間についてたずねると、はっきりとは覚えていないが、だいたい午後8時50分くらいだと思うと答えた。トンネルを通り過ぎて駅まで歩いていると、急に雨が降ってきたので、ちょうどそこを走っていたタクシーを呼び止めて乗ったという。駅に着いてタクシーを降りて電車に乗り、最寄駅で降りて自宅に向かって歩いていると、警察と名乗る男性に声をかけられたということだった。

 園田は莉央の話を頭の中で整理した。いつもの莉央の行動だった。特に変わったことはなかった。

「トンネルの中で誰か人に会ったりした?」

「誰もいなかったと思う。前しか見てなかったけど」

「タクシーの中でポーチはどうしてた?」

「ちゃんと肌身離さず身に付けてた。ただ、タクシーに乗ったら急に眠くなっちゃってうとうとしてたの。駅に着いた時に目が覚めて、降りようと思ったら、ポーチの留め金が外れそうになってたの」

 園田は顔色を変えた。

「外れそうになってた?タクシーには他に誰か乗ってたの?」

「わたしが乗った時は誰もいなかったけど、途中で他のお客さんを乗せたみたい。隣りに知らない人が乗ってた」

「その人の人相は覚えてる?」

 莉央は首を横に振った。

「その人、帽子にマスクにサングラスをしてたから、顔とかはわからなかった。ただ、なんとなく女の人かなって思った」

「その人も駅で降りたの?」

「うん、降りて走ってどっか行っちゃった」

 園田は直感的にその人物がなにか事件と関係があるような気がした。

「警察は、そのポーチに被害者の血痕が付いてたって言うんだ」

「わたしじゃないよ」

 園田が次の質問をしようとすると、ドアにもたれかかっていた神山が近づいてきた。

「もう時間です」

「騎士、わたしを助けてくれるよね」

「必ず助けるよ」

 園田が面会室を出て、さてこれからどうしようかと思案していると、園田に近づいてくる男がいた。30代前半くらいの、背が高く日本人離れした顔だちの男で、一瞬外国人が入ってきたかと思った。園田と視線が合うと、愛想のよい笑顔を浮かべた。

「園田騎士さんですね」

「はい、そうですが」

「私、莉央さんの事件で弁護士を務めることになりました袋田と申します」

「ああ、弁護士の方ですか、よろしくお願いします」

 園田と袋田はお互いに知っていることを話し合った。袋田もまだ事件についてはほとんど情報を得ていないようだった。袋田は腕時計に目をやると、

「では私の方も何か分かりましたら、その都度ご報告します」と言って、警察署を出て行った。

 園田も外に出た。外は昨日までの雨が、うそのように晴れ渡っていた。さあ、どうするか。自分なりに事件を調べてみると決めたのだが、何から始めるか決めていなかった。警察からは、被害者の名前と住所、目撃者がいたこと、事件現場の場所くらいしか聞いていない。

 とりあえず、犯行現場に行ってみることにした。警察署に停めておいた車に乗りこむ。B市まではここから30分ほどだ。莉央の勤務先は知っていたので、特にナビはセットせずに、ラジオをつけた。芸能人のトークの後にニュースが流れた。

「謎の発光体に関するニュースです。昨日お伝えしたK市山間部に落下した発光体ですが、自衛隊の調査によると、落下現場と思われる付近には、それらしき落下体は何も発見されなかったということです。ただ、地面は大きくえぐられており、何らかの物体が落下したのは確実だろうとみられています」

 園田は隕石か何かじゃないかと思った。それとも、プラズマみたいなものだろうか。ニュースが終わり、またトークが始まった。

 30分もかからずに、莉央の勤務するショッピングモールに着いた。道路脇の駐車場に車を停め、駅に向かう方向に向かって歩いていく。5分ほど歩いていくと、トンネルが見えた。長さは20メートルもないくらいの短いものだった。中に入ると、電気はついていたが薄暗くなんだか不気味な感じだった。警察関係者の姿はなかった。バッグから資料を取りだす。資料を見ていると、すぐに気づいたことがあった。犯行現場は、今園田が立っている側とは反対側だった。トンネルをいったん抜けてから、反対側に回り込んだ。

 現場と思われる場所にやってきた。地面を見ると、黒っぽいしみのような跡が残っていた。おそらく、被害者の血痕なのだろう。園田は地面から道路へ視線を移す。そこそこ交通量のある通りだった。ここを通った車の中に目撃者がいなかったのだろうかと思った。警察からもらった資料には、目撃者は1人しかいなかったということになっている。

 周辺を調べながら歩いたが、彼の注意をひくものはなかった。トンネルを抜けて、その先にある喫煙ブースで一服することにした。

 次はどうしようか。資料を見る。事件の目撃者の名前が書かれている。神戸泉。住所をみると、ここから歩いて10分くらいのところだ。もう一本吸ってから行くことにした。

 目撃者のマンションはすぐにみつかった。マンション入り口のインターフォンで神戸の部屋を呼び出す。女性の声で応答があった。

「はい、神戸です。どちら様でしょう?」

「私、園田と申します」

 園田は正直に素性を明かした。神戸は会うかどうか迷っているようだった。しばらく沈黙が続いた。それから乗り気ではない声で、

「では今開けます」と答えた。

 入口のドアが開いた。園田はエレベーターに乗って神戸の玄関前に向かう。現れたのは、40才くらいの小太りな女性だった。いかにもめんどうくさそうな顔で園田を見つめた。

「警察に全部お話ししましたから、もう話すことはありませんよ」と言って、中に入るように手で示した。

「けっこうです、ちょっと確認したいことがあるだけですので。それで、さっそくなんですが、神戸さんが見たのは本当に莉央に間違いないんですか?」

「絶対確かかと言われると、そこまで自信はありません。でも確かにあの子でした」

「莉央が被害者を襲うところを見たんですか?」

「襲うところは見てません」

「え、どういうことですか?」

「私が見たのは、現場から立ち去るところです」

「立ち去るところ?」

「はい、小走りに駅の方向に向かって行きました」

「直接、犯行を目撃したわけではないのに、どうして莉央がやったと名乗り出たんですか?」

 神戸は少し間を置いた。

「どうしてかと言いますと、その時に彼女以外にそこを通った人はいなかったからです」

「それは確かですか?」

「間違いありません」

「神戸さんはどこにいたんですか?」

「私は反対側の歩道にいました」

 ここまで神戸の話を聞いて、資料には書いてない情報だなと思った。あといくつか質問をしたが、それ以上の情報は引き出せなかった。園田は丁寧に礼を言ってマンションを後にした。

 目撃者である神戸は、犯行の様子を直接見たわけではなかった。さらに、莉央を正面から見たのではなく、背後から見たにすぎなかった。これは莉央にとっては有利な情報だった。園田はいったん車に戻ることにした。

 コインパーキングに戻り車に乗って発進させようとした時、スマホに着信があった。見覚えのある番号だった。

「はい、園田ですが」

「E警察署の神山です。今お時間よろしいですか?」

「大丈夫ですけど」園田は莉央になにかあったのだろうかと心配になった。

「被害者の検死結果がでましてね。園田さんも興味があるかと思いまして」

「まあ、ないことはないですけど」

「資料を置いておきますので、気が向いたら見に来てください」それだけ言うと、電話は切れた。

 一方的な人だなと思いながらも、特にあてがあるわけではないので、その報告書を見てみることにした。園田はパーキングを出て一路、警察署へ向かった。


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