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婚活男子の災難  作者: 滝元和彦
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園田、婚活を勧められる


 披露宴会場の外にある喫煙ブースでタバコを吸って物思いにふけっている男がいる。男の名は園田騎士そのだないと。園田は自分の名前が好きではなかった。ナイトなんて名前を付けられて名前負けしないやつなんているのかな。そんなことを考えながら、壁にある鏡を見つめた。決して整った顔立ちではないが、醜いわけでもない。どこにでもいるような顔。スーツは着慣れているはずなのに、どこかぎこちない。

 その園田のもとに、この日の主役の1人である新郎が近づいてきた。新郎の名前は柏木法人かしわぎのりと。細身で背が高く、歩き方はモデルのようだ。新婦はタバコのにおいが苦手らしく、ブースの中までは入って来ない。園田と柏木は小学校からの知り合いで腐れ縁という間柄である。その柏木が園田の肩を叩きながらポケットからタバコを取り出す。

「次はおまえの番だな」

 肩を叩かれた園田は愛想笑いを浮かべた。

「今のところ予定ないけど」

「彼女はいたんだっけ?」

「実はもう何年もいないよ」そう答えた園田の表情には悲壮感のようなものは漂っていない。

「だったら、おまえもオレが使ったサイトに登録してみろよ」

 サイトというのが結婚情報サイトであることは園田にはわかっていた。これまでにも何度かそのサイトを勧められていたからだ。園田はその度に『そうだな』と答えていたが、登録したことはなかった。

「まあ気が向いたらな」

 柏木はタバコを灰皿でもみ消した。

「そんなこと言ってると40になっちゃうぞ。おまえは食わず嫌いなんだよ。だまされたと思って、1回パーティーかなにかに行ってみろよ。おまえが好きなエイミみたいな娘がいるかもよ」

 園田は、自分の好きな芸能人の名前が出たので目を見開いた。

「ちょっと見てみるよ」

「あ、それからもうちょっとしたらブーケプルズやるから正面入り口に集まってくれ」

「ブーケプルズ?」

「ブーケトスは知ってるだろ」

 園田の脳裏のうりに、女たちが群がって宙に舞う花束を取りあう映像が浮かんだ。

「知ってる」

「あんな感じのやつだ」

「あれは女がやるもんだろ。オレは遠慮しとく」

 柏木がまた肩をたたく。

「女だけじゃなくて、男とか子供も参加するんだ。待ってるから」そう言うと、園田の返事を聞く前に喫煙所を出ていった。

 10分後、気が乗らなかったが、園田は会場の入り口に行ってみた。そこにはすでに10人ほどの人が集まっていた。柏木が言っていたように、男や子供の姿もあった。

 集まっている人の中に、園田に手をふる女性がいた。園田にはすぐにその女性が誰かわかった。中学生のころの面影があったからだ。女性の方から声をかけてきた。

「園田くんでしょ、中学から変わってないね。すぐにわかった」

 女性が近づいてきた時、園田が感じたのは独特の匂いだった。何かフルーツのような匂い。香水をつけているらしい。

「手嶋も変わらないな」園田は目の前の女性をあらためて眺めた。手嶋あずき。園田と中学時代の3年間同じクラスだった。家も近かったため、いっしょに遊んだこともよくあった。その時はお互いに異性として意識したことはなかった。今こうやって成長した手嶋を見ると、なんかへんな感じがした。手嶋が女になってる。世間話をしようとしたが柏木の声がしたため、2人は振り返った。

「じゃあはじめるよ」

 ブーケプルズは花束にたくさんのひもが伸びている。実際には、その中の一本だけが花束に結ばれていて、参加者はひもを一本ずつ持ち、いっせいに引っぱる。ひもが花束に結ばれていれば受け取ることができる。そしてその人物は幸福をつかむことができると言われている。

「せーの、どうぞ」新郎新婦のかけ声で、みんないっせいに引っぱる。

「おめでとう」一同の声と拍手が起こった。園田はひもを引っぱる時に、目を閉じてしまっていた。目を開けてみると、新婦が園田に花束を渡すところだった。

「次はおまえの番だな。今からここ予約しといたらいいんじゃね」

 園田は女性たちの羨ましそうな視線を感じた。


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