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妖怪フルスイング  作者: パプリカ伯爵
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その五 トマトンクエスト7 緑黄色の反乱。

「お邪魔しまーす。」「おー。」

トマクエをしている最中に玄関から声が聞こえる。


トマクエとは国民的RPGで、マスコットキャラクターのトマトンが非常に愛らしいゲームだ。


「おっ、ちゃんと洗濯物出してる。珍しい事もあるのね。」片親で家でも家事をこなす千鶴はどうしても主婦的な目線になってしまう。2人は小学校に上がった時から、こうして度々互いの家で夕飯を食べている。中学時代は千鶴が市内の女子校に通っていた為、疎遠になったが、高校で再び同じになりまた昔の様に付き合っている。


「あー。そうそう、メシの時ちょっと相談あるから」画面を見ながら善人が言う。目線は中ボスのクレソン大佐をしっかり捉えている。


「えっ、アンタが私に相談?」

その時、千鶴の脳裏に百抹の不安がよぎる。彼はこういう時たいてい突拍子も無い事をやろうとしているか、若しくはした後の事後処理の相談を持ちかけてくるからだ。


幼稚園の年長の時に「金色の泥団子を作る!」と言って森に行ったっきり2日帰って来なかったり、小2の時に「俺は風になる!!!」と言って木の板を両腕に付け自宅の二階から飛び降りて不運(ハードラック)と踊った(ダンスっちまった)り、中1の時に「バッティングで海賊王に、俺はなる!!!(ドンッ)」と言って畑に立つカカシに狙い撃ちしているところ烏に当たり本家悪魔の実の能力者もビックリのガチファイトをしていたり……。


ついこないだも「これからの時代はカバディだ!」と言って突然高校にカバディ部を作ろうとして部員が集まらず、彼女の友人が所属する伝統文化研究部に「伝統文化だからって日本だけとは限らないよな!」と無理矢理入り、百人一首の練習に何故かカバディを取り入れるハメになったと抗議の電話を受けた事は記憶に新しい。


普段落ち着いているだけにはっちゃけた時の弾けっぷりが半端ない。それが彼女の知る今井善人と言う男なのである。初恋の人でもあり、かけがえのない大親友だが、人としては難があり過ぎるクレイジーボーイ、それが彼女の中でのゼンである。


「何?また先月辞めた部活の事?」指先が小刻みに揺れるが、逆の手で押さえ込み、慎重に選んだ言葉を掛ける。


どうか普通であってくれ。宿題見せてとかレベル上げ手伝ってとかネクロマンサーになってとかの普通のレベルでお願いと千鶴は心から願う。


「いや、何だ、何て言ったら良いのかな?ん~、まぁ、飯の時だ!」目を泳がせながら善人が返す。泳がせながらもクレソン大佐のビタミン攻撃を無効化している。


珍しい、彼がここまで動揺するなんて。そう千鶴は思った。


その後どこかぎこちない善人を警戒しつつ彼女は料理を進めていく。カレーの匂いが良い香りだ。


ゼンがクレソン大佐の第二形態を倒した所で丁度カレーが出来上がる。


「ふ~、やっぱクレソンは強えな。時間かかっちまったわ。」首を鳴らしながら台所に来る善人。


「1時間近くかかってたじゃない。クレソン大佐は意外と土に弱いからアンタみたいに炎だけだと難しいわよ。」千鶴がカレーの入った皿を並べながら言う。


「えっ?お前もうクレソン倒したの?」早くね?とびっくりしながら返す善人。自分の方が先に始めたのにまさか千鶴に抜かれているとは思わなかったのだろう。


「まぁね、今はバジル男爵と戦ってる所でセーブしてるわ。」スプーンを置いて席に着いた千鶴がエプロンを外す。


「バジルってお前もう四天王まで行ってんじゃん。めっちゃ先じゃねーか。一体何時間ゲームしてんだよ。」ちなみにクレソン大佐の8個先のボスがバジル男爵である。全部で23のボスがいる今作は、歴代最高数のボスと作り込まれたシナリオで絶賛好評販売中だ。


「そう?1日30分って決めてしてるんだけど、毎日してるから結構なるかも。」じゃあ頂きますと手を合わせて食べ始める千鶴。


「頂きます。ウソだろ、お前絶対裏ワザ使っただろ。じゃないとこんな短期間でピーマン倒せるわけねぇもん。」ガツガツとカレーを掻き込みながら非難の声を上げる。


「そんなの知らないけどピーマン伍長なら5日目に倒したわ。アンタ町の淡色野菜と話した事ないでしょ?ヒントとカロテン沢山くれるのよ。あ、お漬物貰うね。」福神漬けを大量に乗せて少しご満悦の千鶴。


「マジかよ~。淡色の奴らとか眼中に無かったわ……。」俺の無駄なプレイ時間。と項垂れる善人。


「アンタ、ゲームは1日2時間って約束したわよね?」鷹の様に鋭い視線で注意する千鶴。さながら小姑のようだ。


「あ~、分かった分かった。ってかさっき言った話なんだけどよ。」不意打ちをくらい、対善人のスペシャリストである千鶴の顔が強張る。



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