その四 女とはなんぞや?
今井善人16歳。もうすぐ高校二年生。幼少期から野球と将棋を嗜み、学校の成績はいつも中の上。体育祭でブロック対抗リレーは出れないが、学年対抗には毎年出る、そんな身体能力の持ち主。中学時代は野球部で5番サードを任され、打率は低いが大きい一本とそこそこな守備の能力で2年の冬からレギュラー入り。高校では部活に入らず基本ブラブラし、バイクの免許を取り、安く譲ってもらったtw200をちょくちょくカスタムしながら過ごす日々。
そんなゼンこと今井善人は現在悩んでいた。
「やる事ってなんだよ爺ちゃん……。」
先ほど会話をした祖父の勝に重要な部分を聞くのを忘れていたのである。
自分に彼女が出来る可能性がある事は分かった。だが肝心の作り方を聞き損ねた。
「マジ分かんねえ。」
正直に言うと好きな人がいないのだ。4組の橋本は外見が好みなだけで自分から勇気を出して告白する程好きなわけでも無い。かつて好きな人は居たが、その人は4つ上の大学生で今頃都会のイケメンとパーリーしてるはず。要するに打つ手なしである。
彼女は欲しい。でも好きな人がいないし、そうでも無い人と付き合うのは何かもったい無い。だが彼女は欲しい。
しかしその前にまず女心が全く分からない。秋の空だという事と水素水が好きだと言う事ぐらいしか知識が無い。
「水素水って何だよ。どうやって作んだよ……。」
日常と科学のジレンマを抱えて悶えている所に緑色のスマホが鳴る。
「あ、もしもしゼン?今日の夜そっちでご飯だけど何か食べたい物ある?」
不機嫌そうな女の子の声がスピーカー越しに聞こえる。
「おぉ、ちづか。そう言えば今日母さん夜勤だったな。うーん、カレーが良いかな?」
幼稚園からの幼馴染に対していつものように返す。
「またカレーじゃん。アンタ本当にカレー好きね。」はぁ、とため息混じりにちづと呼ばれた相手が言う。
「そうかぁ?普通に他のも好きだけど。」気にした事もなかっただけに少し驚く善人。
「そうよ。三回に一回はカレーよ。舌までバカになってんじゃないの?じゃあ6時頃に行くから、鍵開けといてね。」
「分かったようるせぇな、じゃあな。」
いつも通り普通に会話を終えた後、ハッと気付いた。
「居るじゃん女。」
餅は餅屋、女性の事は女性に聞く事が1番である。
そうと分かれば話は早いと一旦考える事を止め、置き去りにした自転車と今月のブブカが入った鞄をちゃんとスケチンが保護してくれているかどうか少し心配する善人であった。