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妖怪フルスイング  作者: パプリカ伯爵
15/17

その十五 300年振り。


「本当に何も知らないのか?」権兵衛が目を見開き驚いた様に問いかける。


「あぁ、退魔の力とか知らねえし、第一妖怪に会うのも初めてだ。」ぶっきら棒に答える善人。先ほどのショックをまだ引きずっている。


「でっでも、茶釜の札を剥がせたじゃないか!それにおいらの礫を打ち返したり、そんなの退魔の力が無い人間に出来るわけないよ!」声を荒げ手足を動かし反論する権兵衛。


「だから知らねえって。札は普通に剥がれたし、お前の礫も多少苦戦はしたけど、俺の元野球部のクリンナップなら皆打ち返したと思うぞ?」お前何言ってんの?とショックからちょっとだけ立ち直った善人が憮然と言う。


「ウソだ、そんな訳ない……。でもホントの事を言ってるみたいだし……。」ぶつぶつと呟き、善人にまだ頭を掴まれたまま腕を組み何かを考える権兵衛。


「なぁ、どうするよ。敵さん相当お怒りの様だし。一か八か一緒に戦うか?」土蜘蛛にまた距離を置きながら善人が声をかける。


「ううん、その必要はないよ。」そう言った権兵衛はいつの間にか善人の手から離れ、3mほど先に二足歩行で立っていた。


「えっ、お前、どうやって俺の手から?ってか、どうすんだよじゃあ!!」驚いた善人だが状況が状況な為、すぐに質問を投げかける。


その言葉を聞いた権兵衛は、その長い尻尾をピンと天に逆立てこう返した。




「おいらが戦うよ。」

「なっ⁉︎お前!」ゼンが再度驚く。


「ゼンは逃げて。少しの間は持つと思うから、麓まで全力で走れば何とかなるかも。」体の周りに1時間前の善人との死闘の時よりも、数倍以上の礫を漂わせながら、権兵衛は土蜘蛛の方に向かって歩いて行く。



これを見た善人が声を上げる。


「おいっ!お前本調子じゃないんだろ⁉︎無理だよそんなデカい奴!二人で逃げればまだ何とかなるかもしれ「ならないよ!!!」権兵衛が大声で叫んだ。



「力が出なくても分かるんだ!!こいつからおいら達二人は逃げ切れない。だからちょっとでも助かるかも知れないおいらが戦うのが1番良いんだよ!!」キシャーとまた奇声を上げ、大木を振るう土蜘蛛の攻撃を避けながら、権兵衛が叫ぶ。


続いて礫を放っていくが、土蜘蛛にたいしたダメージがある様には見えない。


逃げ回りながら礫を放ち続ける権兵衛。


善人は目の前の激闘に足が竦み、へたり込んでしまっている。




権兵衛の決死の戦いは初めこそ均衡を保っていたが、次第に権兵衛の動きが鈍っていき、大木が擦り始める。


「おっ、おい!大丈夫かよお前!」善人が声をかけるが、権兵衛は土蜘蛛だけを見て叫び返す。


「早く逃げてよ!今のおいらじゃもう、ちょっとしか持たないよ!」


まだ、動き回れているが、倒れるのも時間の問題であろう。


ドカッ!

左肩に大木を受けた権兵衛が吹き飛んだ。


「そんな……。どうしてそこまで俺の事。」ガタガタと恐怖に怯えながらも、権兵衛の言葉の真意を探ろうとする善人。


今の彼はよくこの状況が分かっていない、自分を置いて行こうとした妖怪が、自分の為に戦っているのだ。しかも命を掛けて。




すると、権兵衛が、立ち上がりながら口を開いた。








「300年振りなんだ、友達が出来たの。理由なんておいらにはそれで十分だよ。」


その声は心底嬉しそうで、まるで子供が新しいオモチャを買ってもらった時の様な、無邪気な声音だった。


礫を飛ばしながら権兵衛の言葉は続く。


「さっきは置き去りにしてごめんね。てっきりゼンを退魔師だとばっかり思ってたんだ。見殺しにするつもりは無かったよ?」


「あっ……。」そう言えば最初権兵衛は近所の人とか言っていた。余りにも的外れで、フザけているのだとおもっていたが、もしあれが何かの隠語だとしたら?そうなれば権兵衛は「お前の敵だろ」と言いたかったのかも知れない。そう思うと善人は、今までの薄情な振る舞いに何か意味があったような気がしてきた。




権兵衛は礫で土蜘蛛の糸を大木から切り離し、一息付いて叫んだ。


「さぁ理由は分かったね!もう、早く逃げてよ!久しぶりに出来た友達にカッコ付けたいのに。おいらに恥かかせないでよ!」そう言うと権兵衛は柔らかい土の塊を善人にぶつけ、発破をかけた。その横顔は清々しく、戦士の顔をしていた。




「ごめんな、ゴン。」善人が震えながら立ち上がり、来た方向とは逆に向かって走り出した。






「じゃあね、ゼン。」聞こえない程遠くに善人が行った後、勢い良く礫を放ち権兵衛が呟いた。



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