その十三 暗天の霹靂
「はぁはぁはぁ、お前、強いな。」
「ははっ、アンタもな。」
30分後、地べたに横になり星を見上げる一人と一匹がいた。激闘を繰り広げた地面には至る所に小さなクレーターがあり、先程までの戦いの激しさを物語っている。
夜が深まっており、空には幾千もの輝きが広がる。
「なぁ、ゴンって呼んでいいか?」少し恥ずかしそうに、善人が申し出る。
すると子狸も少し恥ずかしそうに、
「もちろんだよ!じゃあおいらはアンタを何て呼んだらいいの?」と返す。
「俺の事はゼンって呼んでくれよ。本当はヨシトって言うんだけど、皆ゼンって呼ぶんだ。」善人が鼻を掻きながら答える。
「そうか、ヨシトって言うのか……。良い名前だね、ゼン!」子狸は顔を綻ばせ、今しがた出来た友人の名前を褒める。
人間の若者と、狸の妖怪が心を通わせる。美しい景色がそこにあった。
「なぁ、もう一つ聞きたい事があるんだけど、良いか?」善人がまた声をかける。もうさっきまでの恥ずかしげな様子はなく、長年の友人に語りかけるようである。
「いいよ!どうしたの?」権兵衛も同じように返す。二人の間にはもう、余所余所しさは無いようだ。
その答えを聞いて善人が右手を上げ、ある方向を指差し言った。
「あいつ、お前のツレ?」
指を指された方向を見ずに、そっぽを向いて権兵衛が答える。
「よく分からないや。ゼンの近所の人じゃ無いかな?」そう言うとお尻についた土を払い立ち上がる。
「おぉ、そうか。じゃあお前が知るはずねぇな。」善人も立ち上がり権兵衛に近づこうと歩み寄る。
「そうそう、おいらさっき封印解けたばっかりだもん。ゼンこそ、どっかで会った覚えないの?ほら、寺子屋とかで。」そっぽを向いたまま、下山する方向に歩き出す権兵衛。
「いや、俺の学校にあんな奴いねぇな。あんなオーラある奴なら知ってるはずだ。」そう言い権兵衛の頭を掴もうとする善人。後ろから大きな唸り声が聞こえる。
「あっ、でも呼んでるよ!忘れてるだけだよ!あるある、おいらもそういう事よくある!!何か邪魔になりそうだし、おいら用事思い出したから帰るね。じゃ!!!!」権兵衛はそう言うと善人の手を全力で払いダッシュでその場を逃げ出した。
「ったく、これだから引きこもりは。もっと頑張って初対面の人とも話そうと努力しようぜ。最初に[はなしかける]のボタンを押す勇気を持つ者だけがリア充になれるんだよ。」頭の中でゆとり乙と言いながら振り向く善人。
そこには3mはあろうかという長大な蜘蛛がいた。
「ごっ、ご機嫌よ~。」血の気を失いながらも挨拶をする善人。
「キシャーーー!!!!」その言葉に反応したのか、大蜘蛛は唸りと共に近くの木々をなぎ倒し、善人に向かって突進を始めた。
「だめだこいつ話通じねぇ。」ヨシトは[にげる]をえらんだ!