その十二 男の戦い。
主人公と幼馴染の女の子の名前や、権兵衛の口調、主人公の呼び方が度々変わり不快な思いをさせてすみません。
この1日で色々設定が落ち着いたので今後はこの感じで行こうと思います。
お手数ですが、既に読んだ事のある方ももう一度1話から読み返して頂けると嬉しいです。
「へぶぅ!!」在り来たりなヤラレ声を発し飛んでいく子狸。綺麗な放物線を描いて落ち、土煙を上げた。森につかの間の静寂が訪れる。
「何でだよ!!もう怒って無いんじゃゃなかったのか⁉︎」割とすぐに回復した子狸が、無実の罪を訴えて胸の前で手を大振りしながら叫ぶ。
「お前は俺を、怒らせた。」目に見えないオーラが、ほとばしるっっ。
さすがにここまで敵意を剥き出しにされて黙っていられる程子狸も大人じゃ無い様で、この超人に名乗りを上げて相対した。
「そうか、お前がそのつもりならおいらもやってやる!荒らしの権兵衛と言ったらおいらの事だ!命が惜しけりゃ詫びを入れろ!」子狸の周囲を礫が回り出す。こちらは目に見える。
「へっ、狐じゃなくて狸のゴンか……。掛かって来いよ三下が、格の違いを見せてやる。」善人がバットを構える。
「言ったなこの独り身!」権兵衛から礫が飛ばされる。そのスピード、時速130キロ。防具もなしの人間が受けると大抵は骨折、良くて打撲。もしその対象が幼く、当たりどころが悪ければ即死の危険性もある代物だ。
「くらえっ!その顔にぶち当てて、泣きべそかかせてやる!」拳大の石がゼンの眼前に迫る。その軌道は真っ直ぐと顔面を捉えている。
しかし善人には少しの迷いも無い。
幼少期からボールをバットに当てる力はあった。だが真っ直ぐ前に飛ばない。それが彼のバッティングである。
「この勝負、貰った。」カキーンと気持ちの良い音を奏で、礫が右の空に飛んでいく。野球であれば、ファールである。
だが、これは男と男の戦い。野球ではない。顔面に来る礫を防いだ、それだけで無く遠くへ飛ばす。善人は、子狸とのメンズバトルの一球目を勝利で飾った。
「アレを打ち返すなんて……。おいらまたビックリしたよ。300年振りの喧嘩の相手には丁度いいね、でも次はどうか分かんないよ。」一瞬顔を崩したが、またキリッとした表情に戻り口を開く。
「おもしれえ。テメェごときに倒される俺じゃねぇよ。どんどん来やがれ権之助。」善人が再びバットを構える。先ほどのバッティングで調子を上げたのか、少しだけ左右に揺れている。
「じゃあまだ早い気もするけど、とっておきのヤツで行くよ!あと、」
子狸はすぅと息を吸い、一つの礫に集中して、勢いよく飛ばした。
「俺の名前は権兵衛だ!!!!」
先程よりは少しだけ遅い礫が善人に迫る。
「おいおい、とっておきなのにさっきよりも遅えじゃねーか。」余裕綽々の善人がバットを振ろうと足を踏み込もうとした時、子狸が告げる。
「その礫、消えるよ。」
ヒュンっと言う音と共に礫が姿を消す。
「なっ…⁉︎」突然の事に驚きの声を上げる善人。本当に一瞬にして礫が消え、この勝負の行方が分からなくなった次の瞬間。
パァアン!
先程消えたはずの礫が、善人の太ももに大きな音を立てぶつかった。
「いっっってぇぇええ。」余りの痛さに叫び地面に膝を付く。
すると子狸が目を細めながら宣言する。
「さぁ、もう一回いこうか、風の止まないうちにね。」