その十一 素直さは美徳なり。
「ゲホゲホッ。いてて、何なんだよ一体。」頭を打った善人が目をパチクリさせながら呟く。爆発のせいで辺りが煙に包まれる。
ヒュルルと風が吹き、その煙が一瞬にして消え去る。するとそこには「よぉ!おいらを助けてくれてありがとう!」二足歩行の子狸がいた。
「おいおい、誰だよお前。俺は狸なんか助けた覚えねぇぞ。ほら、イタズラしないからサッサとネズミでも捕まえて来い。」しっしと手を振りながら善人が応える。
「おいらだよ!さっきまでずっと話してたじゃないか!」ピョンピョンと飛び跳ねながら抗議する子狸。不釣り合いなほど長い尻尾がチャーミングだ。
「だから、俺はさっきまで妖怪と話してたの!お前みたいな狸は知らねえよ。ってか狸の癖に喋んなよ。どこの猫型ロボットだよ。ったく。」どこだ岩野郎と言いながら周囲を警戒する善人。
するとその子狸は成る程と得心がいった様にポンっと手を打った。「そうか、アンタからはおいらが見えなかったのか。そうだよな、何せおいらずっとあの茶釜に閉じ込められてたんだから。」素直な子狸である。その容姿と相まりこの山の萌え指数は急上昇だ。しかしその素直さは時として自分の首を絞める事になる。
「ひょっとしてお前、さっきの大岩か?」ビックリした表情で問いかける善人。
「そうだよ!おいらがさっきまでの妖怪だよ!」分かってくれた事が嬉しくて尻尾を振りながら笑顔で近づく子狸。
はぁ〜と深いため息を付き、俯きながら尋ねる善人。「何かさっきよりも声高くねぇか?」表情は見えないがどこか楽しそうだ。
「う〜ん。茶釜に居たから声が篭って低く聞こえたのかもしれないなぁ。そんな事より助けてくれてホントにありがとう!!」心からの賛辞を送る子狸。ヒョコヒョコとゼンに一歩ずつ近づいている。
「そうか、それはよかったなぁ。」下を向いたままの善人。少し疲れた様に言う。
「おい、大丈夫か?さっきの爆発で手傷を負ったか?」まぁ、何て心優しい子狸。傷ついた人間を気遣う。ヒョコヒョコとスピードを上げて彼の元まで走る。
ガシッ。いきなり首根っこを掴まれる子狸。
「どうしのか?本当に具合は良いのか?」しかし何を疑う事も無く善人を気遣う。
「歯ぁ食い縛れや、クソ狸。」
バコッ!!!
スーパー大森人の本気パンチが炸裂した。