その一 青春の到来。
のどかな風景。4月を目前に咲き誇る桜。
車通りも少なく、昔ながらの自然がそのまま残るここ小木川市大森村。
都心のほど近くにあるこの土地は、とても東京都には見えない。
流れる川の美しさや、高さのあまりない建物、随所にある古びた公民館はまるで地方の田舎の様である。
小中学校は一つしかなく、高校に行くには電車に乗り市内に行かなければならない。大きなスーパーやショッピングモールもなく、個人の商店と、申し訳程度にコンビニが三ヶ所あるだけでアミューズメント施設などはパチンコとビリヤード場があるだけだ。
田んぼ道を遮るほど建物も密集しておらず、もう春だというのに冷たい風が吹いている。
二人の男子高生があぜ道を歩く。
カラカラと自転車の音が心地良い。
始業式を終えた帰りの様で、どちらも肩には学生鞄が提げてある。
「彼女が出来た!!!?」
身長が高い、金髪の男子が叫ぶ。
先ほどまでの穏やかな雰囲気とは一転し2人の間には不穏な空気が流れる。
「ごめんなゼン、つい昨日出来たんだ。ほら、俺春休みにスキーのバイト行ってたろ?その時出会った子なんだけど……。」
もう片方の黒髪の男子がバツの悪そうな顔をしながら言葉を選ぶ様に話し出す。
「なんだよスケチン。俺らはいつも一緒じゃなかったのかよ。一人だけ抜け駆けなんて、しかも俺に相談ナシなんてどう言う事だよ!!!!」ゼンと呼ばれた男子が自転車を倒しながら声を荒げる。
親友の怒りに触れ、スケチンと呼ばれたもう一人の男子は弁明しようと更に言葉を重ねようとする。
「だからごめんって!でも昨日いきなり電話で告白されたからゼンに相談するヒマ無かったんだって!」俯く彼に理解してもらおうと両手を広げ大げさに言う。
一瞬の静寂。
少しの空白の後、金髪の男子が呟く。
「………絶好だ。」
「えっ⁉︎」予想外の発言に動揺する黒髪の男子。
「絶好だって言ったんだよ、このっ、裏切り者!!!」金髪の男子が学生鞄を投げつけ、走り出す。
「ちょっ、ちょっと待てよゼン!!流石にそれはないだろう!」鞄を拾いながら黒髪の男子が叫ぶ。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
その声にも振り向かず、ゼンと呼ばれた男子は走って行く。全てのしがらみを振りほどく様に。
「お前みたいな裏切り者、速攻で振られれば良いんだよ!絶対来世でウンコ踏むからな!!!」
青春とは唐突に始まり、時に友との仲を引き裂く。そう言うものなのである。