雨音
★
夏休み明け…久々にみた隣の奴は相変わらず、窓の外を眺めている。
少しは話すようになった気がしたけど、休みに入って…また最初に戻ったかんじだ。
「夏休み、どっか行った?」
俺が声をかけると、一応こっちは向く。
「婆ちゃんち」
「楽しかった?」
……。
「うん」
そこで会話は終わってしまった。
いつもの淡々とした口調。必要なこと以外しゃべんねぇし。
★
ほんとはさ…あの…祭りん時一緒にいたの誰?って、聞こうと思ったんだけどな…。
別に普通に聞けばいいのに…
なんで聞けねぇんだ?…俺。
☆
こっちに戻ってきた。
婆ちゃんは冬にまたおいでっていってくれたけど…
もう、こんなに寂しい…。
夏休みが幸せだったから余計にだ。
けど、学校で久々に広瀬くんの姿みたら、どこか嬉しいって思ってしまう私がいた。
久々でなんて話していいか分かんなくて…緊張した。田舎の友だちみたいに、普通に話せばいいのに…。
★
休み時間…窓際マジ暑い。
ノートであおいでいる俺のもとに、祭り以来会ってなかった夏希がやってくる。
「マコがね、また会いたいって言ってたよ」
「誰に?」
「ヒナにだよ、気づいてないの?」
正直…薄々は感じてた。けどそうならないように、気にしないように敢えてしてた。
「マジで?」
「マコいい子だし、付き合ったらヒナも好きになると思うよ」
嬉しそうな夏希。けど…
「ん…いや、悪いけど、俺あいつに興味ねぇし」
俺の発言に夏希の表情は曇る。
「ひどい…」
ひどいってさ…別に好きでもねぇのに、付き合う方がひどくね?
俺と夏希が話していると、望月が席に戻ってきた。
「望月さん、お祭りきてたよね、誰ときてたの?」
夏希の思いがけない質問に俺の鼓動が早くなる。
「…友だち」
「南校の子?」
「あ…違くて…正哉は北校なんだ」
望月から出る男の名前…。
「正哉って…望月さん、男の子ときてたんだ、いいなぁ、ね…ヒナ」
なんで俺に話を振るんだよ。
「あぁ…そうだな」
……。
「私たちはね、陸と私の親友とね、みんなで行ったんだ、花火きれいだったよね」
花火?俺は夏希の会話を遮り、望月に問いかける。
「なぁ…花火ってきらきら?」
「…うん、きらきら」
あ…久々にみるこの顔。
やっぱなんかさ…。
夏希は俺たちの会話の意味が分からず、ぽかんとしていた。
★
帰り道…
「ねぇ、陸…望月さん彼氏いたんだよ、びっくりだよね」
「えぇ!?マジで?どんな奴?」
「えっとね…北校って言ってた…頭いいんじゃない」
……勝手に陸と夏希は盛り上がってる。
「友だちって言ってたけど…」
俺は訂正する。それに対し夏希は…
「え~だって、お祭りに2人で来てたんだよ。望月さんってああいうとこ苦手そうじゃない、つるむタイプでもなさそうだし、それに『正哉』って…親しげに呼んでたし…彼氏だよ絶対!!」
夏希は楽しそうだ。マコのことといい、恋愛話が好きらしい。
「え~、よく付き合えるよなそいつ…望月と。だってあいつ可愛くねぇじゃん」
陸の中でよっぽど嫌なイメージなんだよな…望月って。
「あんなぁ…望月別に悪い奴じゃねぇよ」
俺が言ったのが間違いだった。
だってさ…勝手に悪く思われるのってなんかな…
「ヒナ…お前やっぱ望月のこと好きなんじゃねぇの」
「あんま表情ださないけど、望月さん顔立ちは可愛いよね」
「あぁ、まぁ…顔はけっこう可愛いよな、性格は最悪だけど…」
こいつらの悪ノリがまた始まった。
「俺は別に可愛いって思わねぇけど」
だってさ…あいつ全然俺に…。
「え!ってかお前の方がひどいこと言ってね?」
「ヒナはモテるくせに、恋愛興味ないもんね…じゃあ、どんな子が可愛いって思うの?」
呆れて夏希が問いかける……。
タイプって…なぁ…
「まぁ…夏希かな」
夏希の顔が真っ赤になる。
ほらやっぱ可愛いじゃん。
陸は俺の発言に慌てた様子だったけどな。
別に嘘じゃねぇし…って俺なんか変なこと言ったか?
俺たち3人の中に気まずい空気が流れた。
★
黒板の近く…宮木の席んとこ…望月がいる。
あいつがクラスの誰かと話してんのって珍しいんだけど。
そしてあの顔…けど瞳に映っているのは宮木だ。
席に戻ってきた望月の手には石でできたストラップ。
「なぁ、それ何?」
「あ…うん、宮木くんにもらって…きれいだよね」
すごく嬉しそうに笑う。
「もしかして『きらきら』?」
「うん、そうだけど…」
きらきらって、俺だけが知ってるんじゃないかって勝手に思ってた。けど…違ったんだな。
別に…どうでもいいけど。
★
いつものファーストフード店。
「なんかさ…ヒナ機嫌悪くない?」
陸は夏希の問いかけに黙ったままだ…いつものこいつとは違って…なんか静かでこぇんだけど。
「別に普通だろ」
俺は一気にジュースを飲み干す。
否定したけど、正直…なんかイラついてたりする。原因はたぶん…
★
昨日、宮木と駅のホームで電車を待っていた時だった。
「なぁ、広瀬もこれ食う?」
彼が鞄からとりだしたのは…見覚えのあるドロップだった。
なんだか、心が騒ぐ…。
「望月にもらったとか?」
俺は平静を装う。
「あぁ、そう…よく分かったな。最近初めてちゃんと話したんだけど…話したら望月の印象なんか変わったかも」
印象?
「変わったって?」
「ん…俺、もっと冷たい奴なのかと思ってたけど…笑うとけっこう可愛いかも。話すの単に苦手なだけっぽいし」
……。
☆
放課後の教室…日直で日誌書いてたら…
帰ったはずの広瀬くんが、戻ってきた。
忘れ物かな…
一瞬目が合った気がしたけど、彼は無言のまま…ロッカーの中を探してる。
何か話しかけなきゃ…けど何て言っていいか分からない。
「宮木にもドロップやったんだな」
教科書を鞄にしまいながら、唐突に言われた。
「うん…ストラップのお礼」
話しかけられて、なんか嬉しくて…私答えたんだけど…彼は黙ってしまって。
なんか広瀬くん機嫌悪い?
窓の外
あ…雨があがって、虹でてる…
嬉しくなって
「広瀬くん…外…きらきら…」
教えようとしたんだけど…広瀬くんは大きくため息をついて、今までよりずっと怖い顔でにらんで…
「おまえ…さ『きらきら』ってしか話ねぇの?ちょっとそれってうざくね?」
怖い…ほらやっぱり、彼は私の守る世界をいとも簡単に壊してしまうから…。
近づかなきゃよかった…大嫌い。
★
最悪だ…
望月の目からは、大粒の涙がこぼれた。
傷つけた…気づいた時にはもう遅かった…
「あ…ごめん俺…違くて…」
今…彼女の耳は聞こえているんだろうか…
けど、俺の声はもう彼女には届かない。
俺はなだめようと手を伸ばすけど…びくってなる。
完璧拒否だ。
勝手にいらいらして、こいつにあたった。
最低だな…俺。
止んだはずの雨音がまた教室に響き渡った。




