婆ちゃん
☆
電車に揺られること3時間。
緑が徐々に増え、田んぼや山々に囲まれていく。
変わっていく景色がどこか懐かしくもあり、私は素の自分に戻っていく。
駅を降りると、懐かしいにおいがした。
のどかな町並み…私が育った町…そして私の居場所。
「婆ちゃん、ただいま」
私が大きな声で呼ぶと婆ちゃんはゆっくりとした足どりで居間から歩いてくる。
「紗香かい?遠かったろ…おかえり」
私の視界は涙で曇る。
ずっと会いたかった。
「ほらほら、泣いてないで、中にお入り」
肩に婆ちゃんの温かい手が触れる。
☆
小さな頃から両親はケンカばかりだった。
でも、まだその時はよく分からなかった。
けど、小学3年の時…家をあけることが多かった父に初めて母が不満をぶつけた。
その時のケンカはもう、ものすごくて…というか、父が一方的に怒りを母にぶつけた。
物も割れたし、母の泣く声も聞こえてた。
私は怖くて、部屋に戻って1人耳をふさいでいた。
それから、父は母と私を力で従わせようとした。
だんだん私は、こもるようになった。
怖くて…部屋から出たくない。
父が出ていった。
私は心底安心した。
やっと部屋から出れるって…けど、すでに心が疲れていた母親は毎日私に泣きながら愚痴を言うのだった。
私は黙ったまま、何も自分の気持ちを言えなくなった。
そんな時、婆ちゃんが私を呼んでくれたの。
☆
小学3年…確かに両親から離れたかったとはいえ、知らない田舎に、初めて会った婆ちゃんと2人きり。心細かった…。
学校でも溶け込めなかったし、婆ちゃんとも喋れなかった。
なんでここに来たのか、どこか他人事で…。
何が嬉しくて、何が悲しいのかも分からなくなった。
ある日、学校から戻った私が見たもの…
婆ちゃんに促されて私が自分の部屋に入ると…
そこは…『きらきらな世界』だった。
この時の思いを…言葉では表現できない。
カーテンには風に揺られ幾つものクリスタルがきらきら、虹色をつくる。
緑、青、水色、紫…棚にはきれいな瓶がたくさん飾ってあった。
水に浮かんでる葉っぱ…グラスの中にはビー玉が光る。
私は気づいたら泣いていた。
声も抑えられなかった…ずっと泣けなくて辛かったのだと、後で気づく。
婆ちゃんは、私が泣き止むまでずっと側で頭を撫でてくれた。
婆ちゃんがくれた『きらきらな世界』は
私を助けてくれたんだ。
☆
婆ちゃんは、それからもきらきらな物を私にくれた。
いつのまにか、私もきらきらを探すようになった。
婆ちゃんは、私が元気がない時、ドロップをくれた。手のひらに輝くそれは、きらきらで甘くて…どこか幸せな気分にしてくれた。
だから、学校の子…優しくしてもらえた時に、私もドロップをあげてみた。そしたら、その子はすごく喜んでくれて、友達になれた。
少しずつ…私の世界がきらきらになっていった。
☆
けど、そんな幸せは長くは続かなかった。
中3の冬、婆ちゃんが入院したから。
季節の変わり目…婆ちゃんの体調はずっとよくならなかった。
立ったり座ったり…歩くのもつらそうだった。
ひどい時は布団から出られなかった。
こっちに身寄りがなく、私もまだ中学生…私は離れたくなかったけど、そうするしかなかった。
また、母親の元で暮らすようになる。
離婚が正式に決まり、家には母と私の2人暮らし。
けど、離れていた月日は、なかなか埋められなかった。私の態度は母親をいつも悲しませている。
☆
高2夏、ようやく婆ちゃんの体調が落ち着いてきたから、遊びに来ることができた。
今度は私が婆ちゃんを元気にする番。
きらきらを少しずつ集めては、婆ちゃんに送っていた。
☆
台所で婆ちゃんは、夜ご飯の支度をしている。
身体まだ大変だから、無理しなくていいって言ったのに…。作りたいって止めてはくれなかった。
テーブルの上、並んだのはハンバーグ…子どもの頃から私の大好物だった。
「婆ちゃん…」
「なんだい?紗香…」
お茶を入れようとしていた婆ちゃんが私を見る。
「私…」
ここにまた戻ってきちゃダメ?
「ううん…なんでもない」
……。
婆ちゃんの迷惑になりたくないから…。
逃げちゃだめなんだ。
☆
い草のにおいが心地いい。
婆ちゃんの隣に布団を敷き眠ろうとする。
すでに規則的な寝息が聞こえる婆ちゃんの背中。
近くにいるけど、どこかさみしい。
だって…もうすぐ夏が終わる…。
私はブルーの光を握りしめて眠る。
なんとなくそれは、私に安心をくれるのだった。
☆
渡り廊下
ぎこちない腕で私をそっと抱きしめる…
それはあったかくて…
なんだかほっとした…
気づいたら、私…制服つかんでた。
助けて欲しいって思っちゃったんだ…
この世界から逃げちゃだめなのに…。




