花束
★
俺とあいつは、『きらきら』でつながった。
季節はすっかり夏になっていた。
休み時間…最近の日常。
「なぁ、これは?」
鏡はきらきらじゃないらしい。
「じゃ、太陽とかは?」
「太陽はピカピカ…けど朝日と夕焼けはきらきら」
おぉ、意味よく分かんねぇけど、半分は当たりってことだ。ちょっと嬉しいかも。
★
俺達のとこへ、夏希がやってくる。
「ヒナ~聞いてよ、陸の奴がね…」
陸がまたなんかやったのか…ったく。
「分かったよ、帰りお前と一緒帰ればいいんだろ」
また、あいつの相談か…。少し憂鬱になる。
「うん、ありがと」
けど、夏希の笑顔見たらしょうがねぇなって思う。
夏希が去った後…
「立花さんも…きらきらだよ」
望月はそう言った。
まぁ、確かに美人だけど…『きらきら』って人間にも当てはまるのか…。
「まぁ…あいつ確かに可愛いけどな」
「私もそう思う、広瀬くんとお似合いだよね」
え!?
夏希と俺?
俺達そんなんじゃ…だって夏希は陸のこと…
けど…
『お似合いだよね』
そういって、笑うから…
きっと望月は何も考えていない…ただ思ったことを口に出しただけ…
だから…別に俺のことなんて
俺だって別に望月のこと…違うし。
否定するのを止めた…。
☆
広瀬くんのきらきら探しは面白い。
これって感覚の違いなのかな…ピカピカが多い。
「なぁ、あいつの頭は?」
いたずらを考えた子どものような顔…
担任に視線を送り、私に教える。
「きらきら…じゃない」
私は我慢できずに吹き出した。そんな私を見て、彼も笑う。
瞳が重なってドキッとする。
だって一瞬優しい瞳をしたから…。
いつもは…あんな目つき悪いのに。
☆
「なぁ、これやる」
私の手のひらに、星形の小さなおもちゃが落とされた。
「なに?これ」
「なんか菓子買ったらおまけでもらった」
「スイッチ押してみ?」
言われるままに押すと…淡くブルーに光る。
「な、きらきらだろ」
彼が無邪気に笑うから…
なんか泣きそうになった。なんでだろ…
これ、きらきらじゃないのに…。
「ありがとう」
彼につられて私も笑った。
☆
立花さんは、よく隣の席に現れる。
広瀬くんと仲良しだからだ。
私は…最近は少しだけ話せるようになったけど、つながりは『きらきら』だけ。
あんな風に自然に話したりできない…。
立花さんは、隣のクラスの陸くん?とも仲良しで…分からないけど…
広瀬くんはたぶん…立花さんのことが好き。
可愛いって言ってたし…。
お似合いだと…思う。
☆
「ねぇ、なんでそんな目で見るの」
「お母さんが悪いってそう思ってるんでしょ」
違う…そんなこと…
私が悪いのかな…
婆ちゃんとこ…行きたい…
息苦しい…
私は無意識に小さな光を握りしめる。
淡いブルーの光…
涙が頬をつたう…私はそのまま眠りに落ちた。
☆
最近は曇ってなかったはずなのに…また私の世界にもやがかかる。耳がよく聞こえない…。
かすかに聞こえる教室のざわめき。
★
「保健室行くか?」
また無視かよ…
また具合悪いかって思ったけど、気のせいか…
別にほっとけば、いいのに…
なんでほっとけないんだ…俺。
「先生、またこいつ具合悪い」
ため息まじりに告げると、
俺は望月の腕を引っ張り、教室から連れ出す。
担任の「待て」という声や、クラスの奴らのざわめきなんて聞こえねぇ。
「どうしたの、何?」
息をあげて、彼女は言う。
「何って…お前さ…」
保健室へ、つながる渡り廊下。
手を思いきり振りほどかれた。拒否…。
改めて見た望月の顔は…
目…赤いし…やっぱなんか…つらそうで
けど聞いてもツンツンしてっし…
ほんとにな…
「めんどくせぇ奴…」
頭をくしゃくしゃにしてやった。
★
俺ばっかりが必死になってて…こいつは平然とした態度のままだ。
頭をくしゃくしゃにすると、驚いた顔して俺を見る。そしてすぐに俺から目をそらした。
「今なんて言ったの?私…今よく聞こえないの…」
聞こえない?
「時々こうなるの…気にしないで」
もう一度俺の顔を見た時には…
泣きそうな顔で彼女は笑っていた。
★
彼女の瞳にはどんな風に映っているんだろう。
もし、彼女の言うことがホントなら、
あん時も聞こえてなかったのかも知れない…
思い当たる場面がいくつもある。
陸の言葉をふと思い出す。
『いや…話かけてもたいてい無視されるし、なんかツンとしてんの。人を下に見てるっつーかさ、ガキの俺らの話なんてつまんねぇんじゃねぇの』
……。
俺も同じように、こいつのこと見てた。
「ごめんな」
俺の言葉は今、彼女には聞こえない。
だから…。
気づいたら俺…抱きしめていた。
★
また拒否されるって、思ったのに…。
だって、こいつ…いつも俺に拒否だったから…
なのに…そん時は
震える腕で俺のことつかんで…
「…ぃ、おいって、ヒナ何ぼんやりしてんだ?」
!?
駅のファーストフード店。
目の前には陸と夏希がいた。
あれから、教室に戻ったら案の定、騒がれた。
別に気にしねぇし、そんなんどうでもいいんだけど。
ただ、こいつらは面白がるからな…。
「ヒナ、ホントに望月さんが好きなの?」
夏希がまたからんでくる。
誰かから、今日のこと聞いたんだな。
俺があいつを?
「んなわけねぇよ」
ただ…なんか…ほっとけないだけだって。
タイプじゃねぇし。何言ってんだか…。
ほっとした様子を見せる夏希。
陸と2人でこそこそしてると思ったら、
「じゃ、夏祭りみんなで行けるね?マコも誘うから」
マコ?
夏希の親友で何回か会ったことがある。お嬢様学校の西女だ。
正直…マコ苦手なんだよな。
なんか、ベタベタくっついてくるし…。
そっか…もうすぐ夏祭りの季節か。
★
小さな町の夏祭り…たくさんの人でにぎわっている。
「ヒナ~久しぶり」
マコと夏希は浴衣姿だった。
花火の時間まで、俺達は出店を見てまわる。
「なんか腹へった、とりあえずなんか食いたいかも」
陸と俺はとりあえず、食いもんを探す。
……。
「なぁ、近いし暑いんだけど…」
俺はマコに言う。
歩きにくいせいもあるんだろうけど、ずっとマコは俺の腕つかんでて…
「え~だめ?別にいいじゃん」
マコが甘えた声でそう言うと、
「ヒナ、別にいいじゃん、減るもんじゃねぇだろ」
「そうだよ」
陸と夏希もそれに続く。
なんか、めんどくせぇし、マジ暑いんだけど…。
★
出店のラスト…端の方に、彩りが並ぶ。俺はふと足を止めた。
りんご飴は…たぶん違う。
けどさ…たぶんこれは『きらきら』だろ、絶対。
見つけた俺は、なぜだか嬉しくなった。
ぶどうにメロン、ソーダ、レモン…俺は水飴を1本1本取っていった。
甘いのが苦手って、知ってるから、あいつらは不思議そうに俺を見てたけどな…。
あいつ…どんな顔するかな。
★
出店でにぎわう人混みの中…
いるはずもない奴の…姿を見つけてしまう。
だって、あいつはつるまないし…
こういう場所好きじゃなさそうだしさ…。
けど、やっぱりそうだ…。腰まであるふわふわな髪…
「おい」
俺が声をかけると、望月は驚いた表情を見せた。
「広瀬くんも…きてたんだ」
「お前もな…けど、お前1人?」
浴衣姿だし…1人ってことはないだろうけど…
「ううん、今電話してるから」
……。
「ヒナ~」
!?
出店の列に並んでた、陸たちが俺を呼ぶ。
「あ…じゃあな」
「うん…」
すぐに俺に背を向けて歩いていく望月…
俺はそんなあいつの後ろ姿をぼんやり眺めた。
浴衣ん時って髪しばんねぇのかな…
あいつのふわふわな髪が揺れていた。
徐々に人混みに紛れていく。
そこへ電話しながら、彼女の腕をつかんだ男の姿…。2人は笑い合う…。
★
小さな花火があがったと思ったら、
大きな音とともに、満開に降り注ぐ。
花火はやっぱピカピカなんかな…
俺は『きらきら』に見えんだけど…。
なぁ…さっきの奴って…彼氏?
俺の心は『きらきら』の下どこか曇っていく。
☆
私の世界がたくさんの色で染まる。
緑に黄色…紫そして水色…
たくさんの『きらきら』
どうして彼は私に『きらきら』をくれるんだろう…
彼から差し出されたたくさんのそれは、まるで花束みたいだった。
私は受け取っていいの?
☆
部屋…
ガラスの瓶に、もらった花束を飾る。
食べないでずっと飾っていたいかも…。
涙がこぼれた
彼の優しさがただ嬉しかった
けど、私は彼に何を返せるのかな…
婆ちゃんに、会える日がようやく決まった。
今度は私が婆ちゃんに『きらきら』をあげるから。
だから…。




