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「物語と私と彼女」

虎と狐と私と彼女

虎と狐と私と彼女


「はい、土産。」

「おー、ありがとう。」

私は、田舎に帰ってきた友人から土産を受け取った。そこにしか売っていない羊羹だ。

「ところでさ、虎の威を借る狐って、わかる?」

 毎度おなじみの友人、有子の話は突然始まる。ちょっと食事ができるようなお店で、スパゲティを頼むと店員がいなくなるなり、言い出した。

なぜ、突然こういう話題が出るのか、いつかは理解できる日が来るのかといつも疑問に思っている。

「わかるよ?あれでしょ、狐が虎に食べられそうになったときに、自分は偉いから一緒にあっちこっち回ろうって言って、狐の後ろにいる虎を見て逃げているのを、狐が偉いからだって思い込む虎の話でしょ。」

 そう言って、水を口に運んだ。

「それ。それなんだけど、狐がかしこいんだと思う?虎が馬鹿なんだと思う?」

「えー!?」

 私は、頭を抱え込んだ。しばらく考えながら、ゆっくり言った。

「えっと、虎が馬鹿。」

「やっぱり、そうよねぇ!」

有子は嬉しそうに、頷いた。これは……。

「なに、君のとこのダーリンは狐がかしこいって言ったの?」

有子のダーリンは小学校の国語の先生だ。有子自身は理科を教えている。しかし、このダーリンは有子の片思いの相手でしかない。

「ううん。母さんが。」

私は目を丸くして、親子でそんな会話をするだろうか?と思いつつ、有子の話題が突拍子もないのは母親の影響なのかもしれないと、初めて思った。

「お母さん、元気だった?」

「うん。相変わらず、バリバリ元気。それで、昨日もさ近所の公園の草むしりにも出かけて行ったの。近所の人全員でやるんだって。そこで、さっきの話になるのよ。」

「虎の話?」

「そう。」

スパゲッティが運ばれてきた。

「ミートソースの方は?」

「はい。」

私は手を挙げ、もう一つの皿は有子の前に置かれた。有子はクリームソースだ。

「で?」

「それでね。手伝わない、おばちゃんがいるんだって。自分はそこの公園の管理をしている会長と仲良しなんだー、とか言ってて。」

 私は、チーズを振りかけつつ、聞く。

「……仲良しと、草むしりとなんの関係があるの?」

「そう思うでしょ。でも、会長がそこの女ボスなんだって。ま、うちの母さんとは口もきかないほど、相性が悪いみたいだけど。もう、草むしりから帰ってくるなり、狐の頭の良さにぶちぶち文句を言うから、虎が馬鹿なんでしょって反論したら、馬鹿じゃ女ボスにはなれないって言うもんで。」

私は、スパゲティを食べつつ話を聞きながら、この話とあの虎の話とを当てはめて考えるべきではないのではないかと思ったが、口には出さないでおいた。

「まぁ、確かに人の上に立つのに、学力はさておき馬鹿じゃなれないねぇ。」

「ひょっと!どっひの味方よぉ!」

 口いっぱいにクリームスパゲッティを入れたまま、有子が言う。

「いやいや、お話的には、虎が馬鹿でいいと思うよ。」

「……ねぇ、あれの教訓ってなに?」

「教訓?」

「だって、昔話でしょ。」

 当然、という顔をして有子が言う。

「待った、教訓がなくたって話になったっていいじゃん。」

「えー。そーかなぁ……。あれって中国の話?」

「たしかそうよ。あれでしょ、人の権力で自分を大きく見せる奴は大した人じゃないってことを言いたいんだと思ったけどね。」

「やっぱり、虎が馬鹿のよ!」

有子はまだ虎にこだわっていた。

「中国だから、虎なのであって。英語でも同じようなのが。」

「なに?」

「オオカミの皮をかぶったロバ。」

 有子は、皿でスパゲティを巻いている。ちなみに私はついさっき食べ終わった。

「……オオカミの皮をかぶった羊と一緒?」

「違う。というか、そんな言葉はない。逆。羊の皮をかぶったオオカミ。」

「そっちか。」

「いや、だから、意味はどっちにしろ違うんだってば。」

「そう?そう?まぁ、食べられなかった分だけ、ロバとか羊よりかは狐のほうが賢いか。」

 どうやら、有子の頭の中では本物の動物が描かれているようだ。これも理科を普段から教えている影響なのだろうか。

私はあきらめて、話を変えることにした。


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