エピローグ:二人の距離が進んだ時
あの後俺は必死だった。着ていく服選んだり、デートプラン考えたり。ふう…
で、待ち合わせナウ。七時半。そろそろ来るか…?
「ごめんお待たせっ!」
息を切らしつつ彼女が部屋の中から出てきた。服はクマがハート持っている絵が描いてあるTシャツの上にコートを着てジーパンを穿いている。ああ…私服姿もかわいい…
「じゃ、行くか。」
「う、うん。」
彼女と来たのはショッピングモールの近くにある映画館。見る映画は王道なラブストーリーだ。…ぶっちゃけあんま興味はなかったが、彼女が見たいんならいいか。
「ポップコーンありがと。」
「いいって。おごるくらい。男子の仕事さ。」
「そう?でもごめんね。毎日毎日晩御飯ごちそうしてもらってるのに。」
「大丈夫。べつに三百円の菓子ぐらいいいぜ。」
映画はまあまあ面白い。女性がある日町であった男性に一目惚れ。その男性も彼女に惚れていたがお互いそれに気付かずに互いに奮闘するという話である。…なんでだろう親近感を覚える。
「山岸君はさ…こういうのやっぱ恋人とかと見たい?」
「いや、まあ隣が男だったら嫌だがな。」
「そ、そっか。」
何でそんなことを聞くんだろうか?
映画はまあ面白かったので寝ることはなかった。いい話だった。
十時になっていたので俺と彼女はショッピングへ。何を買いに来たかというと…
「うーん。この竹刀は…、あ、テーピングもなかったし、コールドスプレーもなかったよね。」
そのとーり剣道関係でーす。まあ竹刀は買わんがテーピングやらを買いに来たんですね。でも思うんだけど何で恋愛映画見に行ったんだろう?
「山岸君見て見て!この竹刀袋かっこよくない?」
…ほんと何で?
まあ買い終わったので、ゲーセンへ。やっぱ男がいいとこ見せるにはゲーセンだよね!女の子が欲しそうにしてるのをさくっと取ってあげる的な!
…山倉さんはぬいぐるみより格ゲー好きでした。ええ。まあでもぬいぐるみも欲しそうだったんで取ってあげたら喜びました。
「…あ、ありがと…。」
悶え死ぬかと思った。…でもおかしい。普段の彼女なら満面の笑みで「ありがと!」と言う筈だ。しかし今は俺の取ったぬいぐるみ(くまさん。結構デカい)に顔をうずめ耳を赤くして言っていた。…おかしい。
昼飯はもちろんファーストフード。いいね!安くてうまくて彼女と向かい合って食えるって!
…ただ何でだろ。顔合わせてくんねーんだけど。
夕方まで服見たりゲーム見たりして時間潰した。夕焼けの見えるデパートの屋上来ました。山倉さんの進言で。俺のじゃないよ?
「ちっちゃいころ昔ここでお父さんと遊んでてさ。一回落ちそうになって思い切り怒られたんだ。懐かしいなぁ…」
とーさんとの思い出。俺もある。釣りに連れてってもらったり、映画連れってもらったり、アダルトビデオを借りてるのの見張りさせられたり…最後のやつ最悪だったがいい思い出だ。
「ここで…二回目に落ちそうになったとき、お父さんが助けてくれたんだ。あの時のお父さんかっこよくてさ…」
「…親父さん、いつ亡くなったんだ?」
「七歳の時に交通事故でね。だから山岸君の時もすごく心配した。」
「わ、わりぃ。」
「お父さんの時も私を庇ってだったから…自分のせいでって…七歳で自己嫌悪しちゃって…」
「辛かったな…」
「ふぇ!?」
山倉が素っ頓狂な声を上げたのは俺が彼女を抱きしめていたから、だ。
…ノリでやっちまった。テヘッ。
彼女の反応は意外なものでしばらく抵抗もせずただずっと…泣いていた。
「ごめんね、泣いちゃって。」
「いいよ、俺もなんかノリでやったことだし。」
「あのさ、山岸君…」
「ん?」
彼女は決心したように息を吸うとこう言った。
「…これから『透』って呼んでもいいかな…?」
「は?」
「いやあのその、命の恩人をいつまでも苗字呼びは…」
「いいけど…それだと…あ、俺も『茜音』って呼ぶよ。それなら公平だ。」
「ああ、うん…恥ずかしいけどいいよ。じゃあ呼んでみるね。」
「お、おう。」
彼女は顔を赤くしつつ俺の名を、呼んだ。
「と、透?」
それに俺は答える。
「なんだ、茜音。」
「っつ、うーあー!やっぱ私は透って呼ぶけど透は苗字で呼んで~!」
「ちょ、俺も恥ずいんだよ!それは無し!不公平だぁ!」
「じゃあ私も我慢する…でもさ。」
「ん?」
死んだ父親との思い出の場所でもう一度彼女は笑った。目を赤くしながら。
「透に茜音って呼んでもらうの。うれしい。」
茜色の空の中で。




