俺と彼女の自分を落ち着かせる時間
誰かに恋するなんてなかった。いままで、一度も。だから、この感情が恋かどうかなんて知らない。
…でも、これが、この感情が恋だというのなら、
私は、彼に会った時からずっと…
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俺は病院から出て医者が言っていたことを思い出す。
「一週間は部活は無理だね。まあトラックに轢かれたんだ。まだマシな方さ。」
そのトラックの運転手の事も思い出す。
「すいません!昨日から徹夜で高速走ってて眠くてそれで…ぐふぅ!?」
土下座している彼を母は容赦なく踏みつけていたことも。
…明日、また学校に行ける。彼女と一日中一緒に居れる。そう思うとうきうきだ。スキップしていた。
「とーくん…キショイ。」
「自分の息子に全力で引くなよ!」
「いくらあの子と学校にまた行けると言ったって、今日だけだろう。会ってないのは。」
そうなのだ。あれから彼女は来てくれなかった。今は午後七時。母のもとに「急な用事ができたので行けません。明日の朝七時に山岸君の家の前で待ってます。」と伝えてほしいと電話があったらしい。
「楽しみだなぁ。明日の学校…」
「とーくん?何言ってるんだ?」
「え?」
「明日は土曜日でクリスマスだぞ。」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??」
そういえば…轢かれたのは水曜日…目を覚ましたのは木、つまり今日は…金?じゃあなんで彼女は明日…
あ
あ
「クリスマスにデート誘ったんだったああああああああああああああああああああああああ!」
「うるさすぎるぞ!どんだけ絶叫する気だ!」
「行き先決めてない!着る服決めてない!どこ行けばいいの!?ショッピング?遊園地?ピラミッド?宇宙?家?何をすればいいの?付き合ってない女の子と!どこで!何を!」
「待て待て待て!慌てるな!後半行き先がおかしいのはさておき、行きたい場所はあっちに確認でいいんじゃないか?」
「…そっか、聞きゃいいんだ。」
家に帰った後俺は外に出て隣の部屋のドアを叩く。
「ハーイ。どちらさ…」
「よ、よお。元気?」
パジャマ姿で出てきた山倉は俺を見た途端顔を真っ赤にし硬直していた。
「やーまーくーらー?おーい?」
呼びかけても返事がない。顔は真っ赤のまま。パジャマってそこまで恥ずかしいのか?
「ナンノゴヨウデショウカ。」
「うん、とりあえず敬語とカタコトをやめようか。」
「どっどどどどどどどどどどどどどどどうしたの!?何か、よっ用事でもあああるの!?」
「うん、まあ大事な。」
「大事な!?」
「実はな…」
「う、うん。」
「俺…」
「…」
「お前の事…」
「…はい。」
「趣味とかなんもしらねーなーと。」
「…は?」
「いやあ、だからさ明日どこ行きたいか知りたいなと。」
「ああ…なんだ…」
?なんで少しがっかりしてるのだろう?顔も普通の色に戻ってるし。
「で、どこに行きたい?」
「…映画、とショッピング、かな。」
「映画?」
「うん。見たいのがあって。あと、いろいろ欲しいものも…」
「そっか。映画は何時からだ?」
「えっと…八時十分、だから朝七時半に待ち合わせすれば、映画館までは十五分もあれば着くし。」
「だな。映画見りゃ、十時近くにはなるし。」
「じゃあ七時半に家の前で。」
「ああ。」
彼女が笑顔でドアを閉めるのを見てから、自分の部屋のドアを開け部屋に入る。
リビングに行くと母がインスタントラーメンを作って待っていた。彼女は何も言わずグッと親指を立てたので、俺も彼女に答えるように親指を立てた。
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間違いない。彼としゃべり終えてもう一分はたつのに頬は熱く胸はドキドキしている。
…間違いなくこれは…
でも、まだそれを口にする勇気がない。
「明日…何着てこう…。」
それが精一杯だった。
今回は山倉の方が振り回されてる回にしてみました。
…たまには、ね?