エピローグ:彼女の涙は見たくなかった
一章のエピローグです。最後ではないですよ。ええ
やっと山倉との登下校に慣れてきた十二月。
…全く進展しておりません。ハイ。何一つ。
大変なんですこの子の攻略。だって剣道の事しか頭にないですもん。フラグはどこで建てるの?
「寒いねー。」
「山倉は東京だよな。雪の量には慣れたか?」
「まあ、住んでたこともあったしね。」
「そっか、だからほぼ一人暮らしでも別に不自由ないのか。」
「うん。」
山倉家は俺んちと同じで父親は他界。母親が遅くまで働いていて一、二時に帰ってきて四、五時に家を出て、昼の十時に一度帰って、正午にまた出るという仕事掛け持ちの毎日らしい。
食費代は助けてやろうと思い、(うちは母親が女社長なのでそこまで金に困ってないし、え?しっ下心なんてございましぇんよ、ええ!)毎日飯は食わせてやってる。食器は山倉の物を使わせてるので母にもばれてない(もしかしたらばれてるかも)。
「大会は春にしかないしなぁ。」
「剣道ばっかだな。クリスマスとかねーの?」
「とくには。うち貧乏だし。」
「じゃあさ…クリスマスどっか行かね?」
言ってしまった…究極に今がんばったぜよ!
「いいよー。」
来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!心の中でガッツポーズどころかガッツポーズしてしまった。
ハイ、着きました学校ですが、大変なことが起こりました。
「今日から山倉さん攻略ルートに入る!」
笹本のクソヤロー山倉ルートきやがった…
「というわけでさっそくおty」
「嫌です。」
言い切る前に山倉が断わる。実は彼女は告白をこっちに来てから八回受けていて、いい加減うんざりしてるらしい。
「あきらめない!それが笹本康太!」
「ウゼェ…」
「先生ひどくないっすか!」
こればっかりは同情…しませんざまぁ。実は大岡、笹本がそんなに好きではなくむしろ嫌いらしい(本人談)教師のくせに生徒を嫌うって…
その後も「愛してます」やら「付き合って」やら「お茶だけでも」やら一日中言い続けていた。山倉も「いやです」やら「私は無理です」やら「帰ってください」やら…どんだけ嫌なんだ。
「山倉さーん。おねが…」
「嫌です!」
帰りの校舎前またやってきた笹本を強めに拒否する山倉。まあ、あれだけしつこいと誰でもいやだ。
…が、そんな強い拒否も笹本には届かない。
「いいじゃないかー、お茶…」
「嫌って言ってるでしょ!」
笹本が伸ばした手を払って走り出す山倉。彼女は明らかに泣いていた。それほどつらかったのだろう。追いかけようとした時、笹本が言った言葉が俺の足を止めた。
「あーあ。また明日頑張るか…」
俺は、殴った。
俺が悪くないとは言わない。
でも、彼女を泣かせても、自分の口説いた【コレクション】に入れようとするこいつは
彼女の涙を見ても、何も悪びれてないこいつは
ぜってー許したくなかった。
笹本は何が起こったかわかってなかった。俺は【それ】を置いて、彼女を追いかけた。
山倉はぼーっと横断歩道を歩いていた。「山倉」と声を掛けようとすると…
車。彼女に近づいていく。マズイ。走る。彼女を押す。ギリギリ歩道へ。車の方を見る。近い。吹っ飛ぶ。死にたくない。嫌だ。彼女の笑顔を見れなくなる。最後に見た彼女の姿が…
悲痛に俺の名を叫ぶところだ、なんて、嫌、だ…