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厨二病シリーズ

厨二病の兄と邪神の後継者

作者: さくま

後書きに思い付いた1000文字ぐらいの短編も書いてあります。



後書きの物は厨二病シリーズとは関係ありません。

まだ夏の暑さが残る9月の中頃、愚民共が騒ぐ箱庭(教室)に閉じ込められた俺は休憩時間という名の拷問にあっていた。


「あたしは休みは彼氏と海に行ってたよ。夕陽がスッゴい綺麗だった!」


「いいなあー。私の彼氏どこにも連れてってくれなくてさぁ。ずっと彼氏と家にいたよ」


「俺、彼女と初体験を「「裏切り者には死を」」「えっ!ちょっと、ま……ぎゃあー!!」


まあ若干名俺と同類がいるようだが、休み明けの教室で愚民共が話す内容ときたら破廉恥極まりない。真面目で品行方正な俺としては苦痛を感じてしまう。


やれ彼氏とエッチしたとか、やれ彼女と初体験したとか、やれ口にはとても出来ないようなプレイをしたとか……


ウチのクラスにはヤ○チンとヤ○マンしかいないのか!?発情期の猿共め!!まったく高校生ともあろうものがこんな内容のことしか話せないとなると日本の将来が心配になる。


俺が寝ているフリをしながら近くにいる女子達が話す過激な性体験を熱心に聞いていると誰かが近づいてくる気配を感じた。


くっ!まさか邪神信仰者の俺を排除しようとする組織の連中か!?大勢の人がいる場所で襲撃しやがって!!


いつでも"封印されし魔神の右腕"を解き放つ準備をしながら顔をあげるとそこにはとてもよく見慣れた顔があった。


「お兄ちゃん、ちょっといいかな?」


俺に話しかけてきたのは教室で猥談をするクソビッチ共とは比べるのが失礼なほど才色兼備・清廉潔白な我が愛しの妹の世界。


世界は天使なのでクソビッチ共のように猥談などしない。いや、むしろ世界にはそういう性知識がないはずだと俺は確信しているし、今後も世界にそういった知識は必要ない。


もし世界に男が出来たら俺はそいつを殺してしまうかも知れない。それほど深く俺は世界を愛しているのだ。


「なんだ?お兄ちゃんに何か用か?何でもいってごらん。俺には""出でよランプの魔神"(スリーカウントグローリー)のスキルがあるからな。世界のお願いだったら何でも叶えてみせるぞ!!」


「スキルとかどうでもいいけど、ちょっとお兄ちゃんに頼みたいことがあるんだよね~」


そう言って上目遣いで見つめてくる世界は可愛すぎて何でも言うことを聞いてあげたくなる。


世界がキャバ嬢だったら俺は全財産を貢いでいたかも知れない。それほど世界の上目遣いの効果は抜群だった。


「いいともいいとも!世界の頼みだったら何でも叶えちゃうぜ!!」


「本当に!?良かったー!!お兄ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。それじゃあね、放課後に校舎裏にきてほしいの」


こ、校舎裏だと!?世界が俺を王道告白スポットに呼び出すとは……。そりゃあ俺は世界を愛しているけど、それはあくまでも妹としてであって女としてではない。


う、うう。お、俺はどうすればいいのだ……。ここは兄として世界を正しい道に導くしかない!!


「世界の気持ちは嬉しいが俺は妹としてしか世界のことを「気持ちの悪い勘違いをしないで」」


え!?何で俺は世界に冷たい目で見られているの!?俺への愛が押さえきれないゆえの禁断の告白じゃなかったの!?


「あたしは部活があるから行けないけど、そこでお兄ちゃんに会いたがっている人がいるからさ。その人に会って話を聞いてあげて」


良かった。禁断の告白じゃなかったのか。……でもどこか感じるこの喪失感はなんなのだろう?……って俺に会いたがっている人がいる!?


「お、俺に会いたがっている人って誰だ!?どんな子なんだ!?かわいいのか!?」


「うん?ん~と秘密!……お兄ちゃん、会ってくれるよね?」


「ああ、勿論だ!!放課後になったら何があっても行ってみせる!!!」


校舎裏に呼び出すってことは用事は一つしかないよな!!これで俺も彼女持ちか~!!


クラスメイト達よ、ヤ○マンとかヤ○チンとか言ってゴメン。俺もすぐに仲間になるからな!!


「本当に!?良かったー!!じゃあ、お兄ちゃんが来るって伝えておくね!」


「ああ!!今から放課後が楽しみだぜ!!」


フーフフーフフ~ン♪ どんな女の子が来るんだろう?


清楚系な美少女かな?それとも健康系美少女かな?いやいや、意外とワイルド系美女とか?


いずれにせよ皆WELCOMEだぜ!ああ、放課後が楽しみで仕方がない!!


「……ところでお兄ちゃん」


「ん?なんだ、世界?」


「あたし達が会うのって一年ぶりな上に1エピソード無くなっている気がするんだけど……?」


「それは……あれだ!皆俺が持つ能力の一つ、"時よ止まれ。お前は美しい"(タイム・ミラージュ)による錯覚でそう感じているだけだ。実際は一年なんて経過していないのさ!!」


「……お兄ちゃんがそう言うならそうなんだろうね。じゃあ放課後にちゃんと行ってね?」


優しい笑顔が心に痛い!!




×××



時間は待ちに待った放課後。


放課後のことが楽しみ過ぎて今までの授業内容が頭に入らないのは仕方がないことだ。


授業中も無意識ににやけてしまったせいか、クラスメイトのみならず教師にも気持ち悪がられてしまった。


……カナちゃん先生、俺だって正面から「キモチワルッ!!」って呟かれたら傷付くんですよ?


まあ愚民共のことは気にしても仕方がない。今の俺は校舎裏で待つ未来の恋人のことで頭が一杯だ。


待っててね、ハニー!!ダーリンが今行くからね!!


鼻唄&スキップで校舎裏に向かうと、そこには既に人影があった。ちょうど逆光でどんな女の子かはわからない。


声をかけようとしたその時、雲が太陽にかかり逆光が薄れる。


そこにいたのは、髪形は坊っちゃんがりで、髪の色は校則通り真っ黒・これまた校則通りブレザーとワイシャツの一番上までボタンをピッチリと止めていて、小柄でどこにでもいそうな平凡な顔付きをした男だった。


って男!?っんだよ!!人違いかよ!!まったく紛らわしいな。


ハニーはまだ来ていないようだな。チッ!こいつどっか行ってくんないかな。ハニーが来る前にどうにかしなければ。


俺が「さっさと立ち去れや!オラァ!!」と敵を威嚇するスキル"弱肉強食"(ビースト・アイ)を発動しながら睨み付けると、あろうことか男は俺の方に近づいてきた。おまけに右拳がギュッと固く握りしめられている。こ、こいつ殴る気だ!!


「な、なんだ!?それ以上近づくな!は、話し合おう!!睨み付けたのは謝るから!暴力は良くないと思うんだ!!」


男は俺の説得の言葉に耳を貸さず近づいてくる。こ、これはアカン!暴力はイヤー!!


とっさに頭を抱えてうずくまった時、俺のもとに来たのは男の拳ではなく言葉だった。


「世界さんのお兄さんの宇宙さんですよね?」


「へ?」


「ですから宇宙さんですよね?」


「そうだけど……」


「良かった。ボクは1年生の石井(いしい) (たかし)と言います。面識がないのにボクの呼び出しに応じてくださってありがとうございます」


どうやらこいつは俺を殴るつもりはないらしい。


90度に頭まで下げちゃって、すぐに手が出る現代の若者とは大違いに礼儀正しい子みたいだ。うっかり勘違いしてしまったぜ!俺を呼び出した子がこいつで良かった……って!?


「お前が俺を呼び出したの!?ハニーは!?俺の可愛い可愛い恋人はどこに行ったの!?」


「あの、先輩を呼び出したのはボクですけど。世界さんから聞いていませんか?」


せ、世界め~!!この俺を騙すとはいい度胸だ!!帰ったら"封印されし魔神の右腕"は覚悟しておけよ~!!


「あの、先輩?大丈夫ですか?」


「あ、ああ、ちょっと想定外の出来事があってな。もう大丈夫だ。えーと、石井っつったよな。それで?石井は俺に何の用だ?まさか告白とかじゃないよな?」


もしそうだったら俺は全力で逃げる。只でさえホモォ関係には嫌な思い出がある。5月にも……うっ!頭が痛い!!俺の脳が思い出すのを拒否している!!


「違います!実は先輩にお願いがあるんです」


「お願い?俺に?」


「はい。ボクを先輩の弟子にしてください!!お願いします!!」


え、ええ~!?何だって~!?




×××




今俺は自宅で夕飯を作りながら世界の帰りを待っている。


ちなみに今日のご飯は冷やしゃぶだ。両親はいつものごとく仕事でいない。


付け合わせのサラダが完成した時、ちょうど世界が帰ってきた。


「ただいまー!今日のご飯はなあに?」


「おう、おかえり!今日のご飯は冷やしゃぶだよってコラ!石井の件どういうことだよ!!話が違うぞ!?」


「話って何よ?あたしは女の子が来るなんて一言も言ってないよ」


「いや確かに言ってないけど、あの言い方はちょっと……。まあいい。兄として妹の愚行を許してやろう」


「だったら良かった。それより孝くんの話をちゃんと聞いてあげた?」


「ああ。いきなり弟子にしてくれとか言われた。とりあえず保留にしてもらって帰ってきたけど、何なんだありゃ?というか石井と世界はどういう関係なんだ?」


「ああ、それはね、あたしの友達に朱美って子がいるんだけど孝くんはその子の弟なの。その関係であたしと孝くんは面識があったんだけどさ。最近朱美が孝くんのことで悩んでいてね。あたしは相談にのってあげてたの」


「ふ~ん。そいつは良いことだな。それで?何で俺の弟子になるなんてことになったんだ?」


「孝くんって元から人見知りで内向的な子だったんだけど、高校に入学してから友達が出来なかったこともあってそれが悪化しちゃってね」


「それは対人恐怖症とかそういう奴か?」


「そこまではいかないんだけど……他人にどう見られているか気になってしょうがないんだって。自意識過剰のネガティブバージョンというか……だから初対面の相手とかだと緊張で吐きそうになるみたい」


なるほど。じゃああのとき右手をギュッと握っていたのは殴るためじゃなくて、緊張していたからなのか。


「そいつは厄介な病気だな。それで?俺はいつ関わってくるんだ?」


「お兄ちゃんって孝くんと一緒で友達いないけど、他人の目とか全然気にしないで邪神様とか頭のおかしいこと平気で言うじゃない?だから孝くんにもお兄ちゃんのそういう部分を見習って欲しいなって思ってお兄ちゃんを紹介したの。ほら、友達いない者同士話も合いそうだしね」


あれ?俺って妹に軽くバカにされている?


「そういうことなら俺に話が来るのもわからなくはないけど……。弟子とか言われてもなあ……。俺に石井の病気をどうにか出来るとも思えないし……」


俺が悩んでいると、その悩みを打ち消すような力強い声がきこえてきた。


「大丈夫だよ」


「え?」


「大丈夫。お兄ちゃんならきっと孝くんを助けてあげられる。だってあたしの頼れるお兄ちゃんだもん。お兄ちゃんに任せれば大丈夫だって本心から思うよ」


そう言って俺を見つめる世界の目には強い信頼が込められていて。その万全の信頼が込められた瞳が妙に照れ臭くてつい世界から顔を背けてしまう。


「まあ、その、なんだ。出来る限りやってみるよ。最愛の妹からの頼みだ。だったら断る訳にはいかないしな」


「ありがとう、お兄ちゃん。……孝くんを助けてあげてね」


「おう!兄ちゃんに任せておけ!!」




×××




翌日の放課後、俺は石井を校舎裏に呼び出した。


石井の姿は昨日と変わりなく、今日も右手はギュッと握られている。どうやら緊張しているらしい。


「あー、取り合えず改めて自己紹介から始めようか。現世での俺の名前は宇宙。またの名前を"魔を操る者"という。今日から石井の……孝の師匠となるものだ。よろしく頼む」


「はい。よろしくお願いします」


「うむ。それでまず聞きたいんだが……孝はどうして俺の弟子になりたいって思ったんだ?世界は孝に俺を紹介しただけで弟子入りしろとまでは言ってないと言っていたぞ。もしかして姉ちゃんとかに強制されたのか?」


俺がそう聞くと孝は真剣な目で俺と目を合わせた。


「違います!ボクは……今のままではダメだってわかっているんです。変わりたいって思っているんです!先輩みたいに他人の目なんか気にしないようになりたい!そう思ったから世界さんに先輩のことを紹介してもらったんです!!ボク、先輩のこと本当に凄いって思っているんですよ!普通の人なら「またの名前を魔を操る者という」なんて正気を疑われるようなこと堂々と言えません。ボクも先輩みたいになりたいです」


あれ?俺って弟子にもバカにされている?


「そうか。……では早速修行に入ろう。唐突だが質問だ!孝の前方からラブラブカップルがイチャイチャしながら歩いてきました。お前はそんなカップルを見てどう思う?」


「え?えっと、恋人が一度も出来たことがないボクのことを二人で笑って盛り上がっているのかなって……」


ネガティブ!!


「第二問!登校すると教室でクラスメイト達が盛り上がっていました。お前はそんな光景を見てどう思う?」


「ボクの悪口で盛り上がっているなって」


ネガティブ!!


「第三問!クラスメイトと言う名前の発情期の猿共が猥談をしています。お前は猥談を聞いてどう思う?」


「一生ボクには縁がない話だなって。後間接的にボクをバカにしているのかな」


ネガティブ!!


「もういいよ!!思わず心の中で「ネガティブ!!」って三回も絶叫してしまったよ!!何でそんな考えが思い付くんだ!?自意識過剰すぎるだろ!?」


「でも本当にそう思うんです。何だか皆がボクのことをバカにしているような気がして……」


むぅ、思っていたより重症かもしれない。今すぐ逃げ出してぇ!……イカンイカン!世界に頼まれたことだ。それに孝は俺の弟子なんだ。だったら師匠として気長にやるしかないか。


「孝の問題点はよくわかった。まず意識改善の必要があるな。カップルを見てどす黒い気持ちになることがあるだろう?そのどす黒い気持ちを言葉にしてみようか」


「カップルを見てもそんな気持ちにはならないですけど……」


「何でだよ!?目の前でカップルがいちゃついていたら、『リア充爆発しろ!』とか『発情期の猿共め!』とかこう心の底から沸き上がるどす黒い衝動があるだろう!?その衝動こそが邪神様の正体なんだ!!」


「いや、そんな事を思ったことはないです」


「クッ!だったら孝がやるべきことは決まった。孝には邪神様の存在を感じることから始めてもらう!!俺についてこい!!」


「えーっと……よろしくお願いします」


こうして俺と孝の辛い修行の日々は始まった。





「そこは違う!!"封印されし魔神の右腕"を開放するときはもっとかっこよく!!時折「うっ!右腕の封印が……」とか意味深に呟くとなお良いぞ!!」


「そうじゃない!!邪神様はもっとどす黒い存在なんだ!!その気持ちをカップル共にぶつけてやれ!!」


「そうだ!良いぞ!お前のスキルが俺には見える!もっと堂々と胸を張れ!「俺って最高にカッコイイ!」そう思いながら宣言しろ!!」





辛い修行の日々も一週間が経過した。俺の修行のおかげで孝は……


「あの、先輩。とても恥ずかしいです。皆がボクのことを笑っているような気がします」


うん。まあ、ぶっちゃけていうとあんまり変わってないよね。だってさぁ、俺は素人だよ?精神科のお医者さんでもない奴が一週間やそこらで人を変えられる訳ないじゃん?


後笑われているのは気のせいじゃないからな。そりゃあ校門前で邪神様とか大声で叫んでいたら嘲笑を浴びるさ。


「よし!今日の修行はこれで終わりだ。今日の反省をするためにファミレスに行くぞ!」


ここ一週間毎日通っているファミレスに行きドリンクバーのメロンソーダを飲みつつ今までの修行を思い返す。


俺が孝に教えた事といえば邪神様の素晴らしさとかっこいいスキルの発現の仕方ぐらいだ。このままで本当にいいのだろうか?


「なあ、孝。お前は変わりたいっていったけどさ、どんな風に変わりたいんだ?」


「先輩みたいに他人の目を気にしないようになりたいです」


「じゃあ、俺みたいになった後は?例えば高校生活はどういう風に送りたいんだ?」


俺がそう聞くと孝は目をパチクリとさせた後、声をか細くさせながら自信なさげに答えた。


「それは……考えてませんでした」


「そうか。……じゃあ聞くが、お前は友達が欲しいと思うか?」


「それは……欲しいです」


「だったら俺みたいになるのは止めた方がいいぞ」


「え?」


「だってそうだろ?俺に友達がいると思っているのか?そりゃあ、俺にも友人と呼べる奴らは数人いるが、そいつらと友人になったのは2年生になってからだ。こんな俺を友人と呼んでくれるやつはかなり珍しいと思うぞ。そんな奴がお前の前に現われる確率はかなり低い」


「そんなこと言われても……」


孝はそのまま黙り込んでしまう。


ここ一週間孝とずっと一緒にいて疑問に思っていたことがある。こいつは変わりたいと思っているんじゃない。変わらなければいけないと脅迫観念的に思い込んでいるふしがある。何がこいつをこんなに追い立てるんだ?


「なあ、孝。俺に教えてくれ。何でお前は俺みたいになりたいって思ったんだ?いや、最初から聞こう。何で堂々とした自分になりたいって思ったんだ?」


俺の質問に孝は中々口を開こうとはしなかった。だが、俺が根気よく孝の答えを待っているとやがてポツポツと語り始めた。


「……高校に入学してもボクには友達が出来ませんでした。元々ボクは人見知りでしたし、そのせいもあって軽い鬱病になったんです。引きこもりとは言いませんが、それに近い状態にはなりました。ボク自身はそんな生活はダメだとは思いましたけど、嫌ではなかったんです。それで……ある時両親の会話を聞いてしまったんです」


「両親の会話?」


「はい。ボクのこと……ダメな子だって。高校生にもなって友達が出来ないなんて異常だって。肉親にすらそう思われているなら他人はボクのことをもっと蔑んだ目で見る。そう思ったら他人がボクをそういう風に見るか気になって仕方がないんです。だから……先輩を見た時凄いなって思ったんです。他人の目を気にしていない。ボクもああいう風になれれば、人間関係で悩まなくて済むのかなってそう思ったんです」


両親に自分を否定される。これは例えいくつになろうが、子供としては絶望的なシチュエーションだろう。それがきっかけで孝はこんな風になってしまったのか。


こいつの問題点はわかった。だったら俺がそれを解決してやる。たった一週間だけど俺はこいつの師匠なんだ。だったら弟子を導いてやる義務がある!


「なあ孝。お前は俺みたいになっても問題は解決しないと思うぞ。お前は俺みたいになれば人間関係で悩まなくて済むって言ったよな?それは大きな間違いだぞ。俺だって人間関係で悩むことがあったり、他人の目が気になってしょうがないことだってある。でもな、俺がそれでも邪神様と声高に叫び続けるのは今の自分が大好きだからだ。お前に足りないのはたった一つ。そう、たった一つだけだ。今の自分に自信を持て!そうすれば少なくとも今よりは他人の目なんか気にならないと思うぞ」


「両親にすら否定されたんですよ?こんなボクに自信が持てるわけないじゃないですか……」


「だったら俺が肯定してやる!!お前の両親がどう言おうと、他人がどう言おうと俺だけはお前を肯定してやる!!お前は変わる必要なんかない!!今のお前でも十分素敵じゃないか!!自分に自信が持てないんなら、俺の言葉を信じろ!!他人の目なんか関係ない!!お前は俺の目だけを気にしていろ!!」


「なんで……何を根拠にそんなことを……」


「根拠なんてない!!でもな、俺はお前の師匠なんだ。俺はお前と一週間いて不快な気持ちになったことは一度もない。一緒に遊んで楽しかったぞ。それで十分じゃないか。俺が断言してやる!お前はダメな子なんかじゃない。異常なんかじゃない。お前は俺の弟子で友達の石井孝だ。お前は素敵な奴だよ。両親の言葉なんて関係ない。俺にはお前が変わらなければいけないって思い込んでいることの方が心配だよ」


「……なんでボクをそんなに心配してくれるんです?ボクと先輩は会ってまだ一週間ですよ?」


「言っただろ?俺はお前の師匠なんだ。期間なんか関係ない。師匠が弟子を心配するのは当たり前だ!……それにお前を心配しているのは俺だけじゃないぞ?世界だってそうだし、それに何よりお前の姉ちゃんがいるじゃないか。姉ちゃんがお前のことを心配して世界に相談したおかげで俺と孝が出会えたんだ。……もう一度言うぞ。自分が信じられないんなら俺の言葉を信じろ。お前は変わらなくてもいい。今の自分に自信を持て」


俺の言葉に孝は顔を俯かせて何も答えなかった。俺はそんな孝を黙って見つめて、孝の言葉をずっと待っていた。


「今の先輩の言葉……凄く嬉しかったです。ボク、姉ちゃんと話してみます。自分に自信が持てるかわからないけど……少なくとも前よりはずっとマシな気分です」


「そうか。うん、そうしろ。さっきも言った通りお前がどんな答えを出しても俺は肯定してやる。だから安心して姉ちゃんと話して来い!両親のことなんて気にすんな!!」


俺が笑顔で孝にそう言うと、孝は初めて俺に笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます。あの……また会ってくれますか?」


「おう!弟子が師匠に会いにくるのに理由なんていらねえよ。いつでも会いにこい!!」




×××




あの日から一週間がたった。あの日以来孝は俺に会いにこない。だから孝がどうなったかわからない。あいつは自分に自信が持てたのだろうか?そんなことを考えながらアンニョイな気持ちになっていると近くに人の気配がした。


「お兄ちゃん。今回は御苦労様!!」


「お?なんだ、世界か」


「さすがお兄ちゃんだね。孝くんを見事に救っちゃった」


「……どうかな。いくら俺が孝のことを肯定しても、やっぱり両親の言葉って大きいと思うんだけどな」


俺が憂鬱気にそう言うと、世界はニッコリと可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「そうかしら?でも、少なくとも無条件で自分を肯定してくれる人がいるって物凄く心強いことだと思うよ。やっぱりお兄ちゃんに任せて良かった。孝くん、前より明るくなったって朱美も喜んでいたよ」


「そっか。あいつ明るくなったのか……」


何だろう?この子供の成長を目撃した父親のような気持ちは。


うん。悪くない。孝は少なくとも一歩は進めたみたいだ。


俺が満足感を満喫していると隣から視線を感じた。


「どうした世界?何か言いたい事でもあるのか?」


「うん。実は朱美からまた相談されたんだけど……」


「何だ?孝に何かあったのか?」


「いや、そういうことじゃないんだけど……その、孝くん、明るくはなったんだけど時折「邪神様が!!」とか「右腕の封印を解放する!!」とか訳のわからないことを叫びだすようになったんだって。そんな孝くんをどうすればいいのかわからないって相談されたんだけど……」


「……」


あれ?これって俺のせい!?

リビングでクーラーをかけながらテレビを見てゴロゴロしていたら姉に雪女を彷彿させるような極寒の視線で睨まれた。


姉曰く、「いい若者が昼間からゴロゴロしてるんじゃねえ」とのこと。


だけど夏休みで学校もなく出された宿題も既に終わっているし、まだ一年生なので受験もあまり関係ないから僕がゴロゴロしていても問題はないはずだ。


僕がそう反論したら姉は僕を哀れみの目で見て、


「あんたは本当に可哀想ね。少しは青春したら?」


とのたまい彼氏とのデートに出かけていった。


出かける姉を追いかけ更に反論しようとも思ったが、あまりにも暇なので今日の僕は姉の言う通り青春をすることにした。


青春するに当たってまず第一に、そもそも青春とは何だろう?


この疑問を解決するために妹や友人に質問をしたらいくつか興味深い答えが得られた。


妹曰く、「青春っていったら恋愛に決まっているじゃん!恋こそが青春だよ!!」


友人(非モテ)曰く、「青春とは男同士の友情なり!リア充など死ねばいい!!」


友人(彼女持ち)曰く、「青春っていったらスポーツかな。野球部が頑張っている姿とか見ると青春しているなって感じるよ」


とのこと。


これらの答えから考えるに、青春とは中高生時代における恋愛・スポーツまたは友人関係に関わることだという結論を得た。


ここで新たな疑問がまた一つ。


青春を感じられるのはどんな状態の時なのだろう?


彼女が出来たことがない僕にはスポーツ・友人関係で判断するしかないが、少なくとも僕は部活をしている時や友達と遊んでいる時に青春を感じることはない。


姉は僕に「青春したら?」と言った。


つまり姉から見ればリビングでゴロゴロしている僕は青春していない状態に見えるということだ。


また友人(彼女持ち)は「頑張っている野球部を見て青春を感じる」と言った。


この二人の意見から推察するに、青春している状態か否かは他人が判断することであって、自分が判断することではないのではないか。


もしこれを真とするなら、誰か僕を見てくれる人がいなければ僕が今日青春したか否かを判断することは出来ないことになる。


困り果てた僕はインターネットで青春というワードを検索してみた。


ネット辞書によると青春とは、《生涯において若く健康の時代》とある。


つまり僕がこうして家でゴロゴロしている状態も立派に青春している状態だということだ。


今日は青春するという目的を達成することが出来た素晴らしい日だった。


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