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犬耳少女と、ご褒美。②

 


「ご主人様ー、こっちとこっち、どっちがいいと思いますですか?」


 チカが水色と白の二セットの上下の下着を持って駆けよってくる。

 レースがなかなか可愛らしい。


「白だな」


「……おうふ。流石ご主人様、即決ですか……わたしの期待した初々しいご主人様は見られないのですよ」

「初々しさか。生後三か月でドブ川に落としたな」

「凄まじい人生ですねっ!?」


 ◇


「ご主人様は白がお好きなのですか?」

「いや、特別好きというではないが。まぁ、嫌いではないな」

「では好きな色は?」

「好きな色か……アイボリー?」

「……すいません、どんな色なのです?」


「象牙色だ」


「そんな下着売ってますかね!?」

「なんだ、下着の色の話か」


 ◇


「で、では、その……わたしの下着の色は、どんな感じがいい、ですか?」


 顔を赤くして上目遣いで尋ねてくるチカ。

 その小さな身体からは、主の期待に添いたいという強い感情が伝わってくるようだ。


「最近の流行りはスカル柄やハート柄、定番は水玉やボーダーか」


「え?そうなんですか?」

「ああ。犬のキモチにのっていたぞ」


「いい加減畜生の方の犬から離れてくださいなのですよっ!」


 あれ?犬のキモチが駄目だというのか……?

 ならばどうすれば良いのだ。テレビか。やはりテレビが絶対なのか!

 だが、似合うと思うんだがなぁ、特にボーダーは。


 ◇


「むぅ、もういいです。自分で選ぶのですよ」

「おう、そうしなさい。自分のものも満足に選べないようでは、脆弱と笑われてしまうからな」

「そういう意味ではないのです……まさかのぷんすかアピールすら通じないのですよ……」


「ぷんすか?がちゃぴんみたいなものか?」


「どこをどう取ったらがちゃぴんにたどりつくですか!?」


「じゃあ俺は適当に店の前で待っているからな」

「……はい、なるべく早めに決めるのですよ」


 ◇


「お待たせしました、ご主人様」


 チカが紙袋を持ったまま、ぺこりと頭を下げる。


「持とうか?」

「いえ、大丈夫なのですよ」

「そうか。金は足りたか?」

「はい……というかこんなにくださらなくても結構でしたのに。わたしたちは“犬”ですので、最低限のもので充分なのですよ」


「の割に顔がだるだるだぞ」


「だるだる!?せめてゆるゆると言って欲しいのですよっ」


 ◇


「次はここか」

「はい!工藤様に教えて貰った、可愛いお洋服のお店なのです」

「そうか、じゃあいってこい」

「何をいってるですか。ご主人様も一緒に入るのですよ!」

「さっきも途中から店を出ただろう?ならば今回は最初から店に入る必要すらないのでは、と思ってな」

「そ、そんなぁ。ご主人様はわたしとお買いもの、嫌でしたか……?」


 今にも泣きだしそうな目でこちらを見つめるチカ。

 つないだ右手を、ぎゅっ、と握られる。


「ふむ、嫌ではないのだが。俺は役に立たんぞ?」


「何を言ってるんですか!ペットのお洋服を選ぶのは、飼い主さんの役割なのですよ!」


 ……!そうだった。

 これでは世のマダムに飼い主失格だと笑われてしまうな、ははっ……


「あれ?ちょ、ご主人様?どうしたのです、いきなりどんよりオーラを出して!?」

「ははっ、俺なんてどうせ……」


「なんでそんな変な所にスイッチがあるんですかっ!」


 ◇


「気を取り直して、さ、行きましょうご主人様」

「ああ、そうだな。安心しろチカ。俺が完璧なコーディネートをしてやろうではないか!」

「あ、なんか凄い不安なのですよ」


「ふむ、これとこれと、これ……いや、こっちの方がいいか」


 なかなかコーディネートというのは難しいものだな。

 とりあえず白をベースにしておくか。


「よし。こんなものだろう。チカ」

「はい、なんでしょう」

「これを試着してみてくれ」

「あ、はい(……大丈夫でしょうか?)」


 ◇


「ご、ご主人様!」


 シャアアと試着室のカーテンが開き、チカが現れる。

 その姿は全体的に白をベースに、所どころに黒をアクセントとしたものだ。

 お洒落はよくわからなかったので、適当にチカに似合いそうなモノを合わせたんだが……

 襟元やスカートの裾なんかはもふもふで暖かそうだし、白いロングブーツに黒のオーバーニ―ソックスもなかなかよく似合っている。

 全体的に、チカの雰囲気と合わせてふわふわと可愛らしい印象だ。


「おお、どうだ、着心地は?」


「なんでこういうところだけセンス抜群なんですかぁぁー!」


「おう、どうしたいきなり」

「ここはダサい感じの服を選んでわたしがご主人様に恩を売りつつわたしの完璧コーディネートでご主人様が悩殺されるところでしょうがぁー、ぐぇ」

「黙れ」

「はい、すいません」


 ◇


「まぁ、気に入ったようでなによりだ」

「そういうご主人様はいっつも濃灰色のジャージですよねー?なんでです?」

「毎日毎日着る服を選ぶのは面倒だろう?どうせならと物心着いた時からこの服と制服しかきていない」

「……」

「ちゃんとこれより二個サイズが上のものまで家に予備としてあるぞ?まとめ買いしたからな。はっはっは」

「残念すぎるのですよ……」

「そうか?いいだろう、ジャージ」


「パジャマはちゃんとしたセンスのいい奴をいっぱいもってるのにっ……!」


 ◇


「ふう、今日はなんだか疲れたな」

「ご主人様でも疲れるのですね」

「それはそうだ。人間だからな」

「ですよねー」

「それに、最近は怪我をしても妙に直りが遅い気がするのだ。歳か?」

「それはないんじゃないですかね、ご主人様はまだ若いのですよ」


「以前なら腕が取れても一晩で生えてきたのに」

「人間じゃねぇですっ!!」


「はは。冗談だ」

「冗談に聞こえないのですよ……」



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