犬耳少女と、ご褒美。①
「チカ」
「はい、なんでしょうか、ご主人様!」
「チカにはなぜ、尻尾がないのだ?下級人類田中に聞いたところによると、普通、犬というのは尻尾まで含めて犬というそうなのだが」
あの時の田中は気持ち悪かった。なんのこだわりを持っていたのか尻尾尻尾連呼して。
それはもう、気持ち悪さがあふれだして地球が汚染されるぐらい気持ち悪かった。
きっと地球温暖化とやらもあいつのせいに違いないな。
「そうですね……“萌え”というやつなのですよ」
「“萌え”?」
「はい。きっと犬耳だけ、という属性が好きな誰かさんがいるのでしょうです」
「成程、わからん」
「まぁ、そういうものだと思ってくださいですよ。田中さんのいう事なんでしょう?」
「……そうだったな。俺としたことが、やつの言葉を真に受けてしまって……すまないな、チカ」
俺はせめてものお詫びに、チカの頭を撫ででてやる。
スキンシップは大事、とテレビでも言っておったからな。
◇
「ごろにゃーん」
「それは猫ではないのか?」
「気持ち良ければ猫の鳴き声くらいでるのですよ~」
「そうか」
チカはすりすりと擦り寄ってきた。
耳の裏を掻くように撫でてやる。
「んぁ!ぁ……ぁぅ……わふぅ……」
こころなし元気が無くなったようだ。
俺の膝に突っ伏して、ときおり肢体をぴくぴくとさせているチカ。
これはまずいか?
「耳の裏はだめ、と。テレビも当てにならんな」
「ぁぁ……いっいえ!そんなことないのですよ!?耳の裏も気持ちいのです!……むしろ気持ち良すぎてごにょごにょ」
「そうか?ペットというのは不思議なものだな」
「不思議なものなのです」
◇
「ところでチカ」
「なんですか?」
「さっきから服が着崩れしすぎだと思わんか?」
「あ!あわわわ……もうぅ、ご主人様のえっt」
「服は正しく着ねばならんだろう!俺のペットとしてそんなことでは駄目だぞ!」
「あ……はい」
「という訳で明日は服を買いに行こうではないか」
「は、はい……へ?」
「いつまでも俺の服ではいけないからな。服を着せるときにはそのペットの体格にあった服を着せよと、テレビでもいっておった」
「ほんとですか!?ぃやったぁ~!」
「はは、はしゃぐなはしゃぐな」
「いえい!ご主人様とおでかけ~!!服を買っtごふっ」
「さわぐなうるさい」
「すみません……」
◇
「というわけで、やってきましたおっ買いものぉ!なのですよっ」
「やめんか恥ずかしい。ひもで其処の支柱に括り付けるぞ」
「めっちゃすいませんでしたっ」
がばっ!と勢いよく頭を下げるチカ。素直なのはいいことだな。
ちなみにチカの今の服は、工藤さんに借りたものだ。
こんなことをいうのはなんなのだが……なんというか、サイズが合っていないな。
工藤さんは女子のなかでもかなり背が高く、170cmぐらいだ。
それに対してチカはせいぜい150cm。襟もとなどもゆるゆる、ぶかぶか。カーディガンからは手が出ておらず、飼い主として恥ずかしい。
世の犬好きのマダムには、見せられたものではないな。早急にチカ専用の服を買い与えねば。
◇
「ふむ、しかし人が多いな」
「休日ですからね~」
「このショッピングモールはここら一帯ではもっとも大きなものだからな。これも道理というものか」
「おっきいですよねぇ~。あ!あれなんでしょう!」
ゲームセンターに向かってふらふらと歩きだしたチカの首を、がっちりとつかんでやる。
服をつかもうとして工藤さんだということを思い出した結果だ。
「ぐぇ……」
「うろちょろするな。俺達はこっちだぞ」
「うう……!そうだ、ご主人様。手をつなぎましょう!」
「手か。それはいい案だな。ほれ」
「んふふー」
差し出してきた手を握ってやると、指を指の間に絡めて握ってくる。
そして満面の笑みを浮かべるチカ。
まぁこれならはぐれる心配はないだろうし、チカも嬉しそうなので良いのだがな。
俺たちはそのまま歩きだした。
最初の目的地は、チカの希望によりランジェリーショップだ。