犬耳少女と、千日ハウス。
「ここだ。さぁ、工藤さん。どうぞ入って」
「結構おっきいねぇ。ホントに一人で暮らしてるの?」
「ああ」
「きゃあ~、ミコちゃん襲われちゃう~」
「入らないのか?」
「あ、すいません」
「いらっしゃい」
「おかえりなさいですよ~!」
「チカ。ただいま。ちゃんとご飯は食べたか?」
「あ、そうですそうです!ご飯です!あれはご飯じゃないのですよ!」
「ん?ドッグフードの種類が気に入らなかったのか?」
「そもドッグフードを食べないのですっ!」
なに、ドッグフードを食べないだと?
やはりうちの犬はよくわからんな。
犬のたべものといえばドッグフード以外になにがあるというのだ。
これはやはり工藤さんを家に呼んで正解だったようだ。
「工藤さん。こいつが例の犬なんだが」
「……うそぉ……?」
「いや、嘘ではないぞ?この通りほれ、耳もある」
俺はチカの耳をぱたぱたとアピールした。
むっ意外と触りここちがいいな。まるで絹のようだ。
「……ぁん、もう御主人様ったら……ひゃぅ」
「どうした?変な声を出して」
「いや、そのですね……ひゃぁんっ!」
この触り心地は、少しくせになってしまいそうだな。自重しておくとするか。
「千日君……女の子を連れ込んで、犬呼ばわりして、耳までつけて、あんあんいわせて……」
「どうした?工藤さん」
「まさか千日君がこんな変態だったなんて」
「変態?おい、なんの話をしているんだ?それよりチカ……この犬の名前なんだが……はドッグフードを食べないらしいんだが。どうしたらいいだろうか?」
「ああ、でもそんな鬼畜な千日君も……いいっ!」
工藤さんが使いものにならなくなってしまったようだ。
とりあえず手を引いて、リビングまで連れて行くことにした。
◇
「そういえばチカ」
「なんですか、ご主人様?」
「そのご主人様というのはなんだ?」
「ご主人様はわたしの飼い主さんですので、ご主人様なのですよ」
「なるほど。それともう一つ」
「はい?」
「おまえ、臭うぞ」
「……がーんっ!」
「千日君、デリカシー、デリカシィー!」
「昨日から同じ服で、更には風呂にも入らず俺のベッドにはいってきただろう」
「いや、その、添い寝はむしろペットとしての義務というかですね」
「まぁそれは俺が言ったことだからまぁいいが。とりあえずは、風呂に入れ」
「え、あ、あの」
「冬は寒いからな。お湯を張ってやるから、少し待っていろ。ついでに着替えもとってこよう」
「あ、はい……」
俺はキッチンへと向かい、手早くお湯を沸かして、紅茶を入れる。
「すまん工藤さん。ちょっと風呂の用意をしてくるから、少し休憩していてくれ」
「あ、ありがとう~。ん、わかったよ。……あ、おいしー」
「それはなによりだ」
◇
後は風呂にお湯を張って、着替えは俺のパジャマの予備でいいだろう。
……いやしかし。一人で風呂に入れるだろうか?
特にあの耳は危険だ。髪を洗えば泡が入ってしまうのではないか?
いくら人間型をしているからといって、チカは犬、ペットなのだ。
俺は二階から着替えをとってきて風呂場におき、リビングに向かって、ソファーに座っていたチカに問う。
「チカ、一人で風呂は入れるか?」
「そそそれは一緒にはいろうという意味でございますですか!?いや、しかしご主人様がのぞむのであれば、その意向に従い精一杯ご奉仕するのがわたしたちなのですよ。ならば、」
「いや、俺は純粋にチカを一人で風呂に入れても大丈夫かどうか聞いたんだが。最悪湯船に顔つっこんで溺れ死なれたら困るからな」
「ご主人様はわたしをなんだと思ってるですか!?」
「犬」
「それはそうなんですけれども!犬は犬でもわたしは畜生ではないのです!むしろ人間と同じなのですよ!?」
「心配なんだよチカのことが」
「ご主人様……」
「拾って来たモノをすぐに死なせるようなやつは、人間失格だからな」
「わたしの扱いがひどいのですっ!断固改善を要求したいのです!」
「お、風呂沸いたな。チカ、はいってこい」
「なんというスルースキルですかっ」
「はやくいきなさい。いい加減臭い」
「すいません」
チカはとぼとぼと風呂場に向かって歩いていく。
「シャンプーとかは好きにつかってもらって構わない。ちゃんと温もってくるのだぞ」
「……あいさー」
と。こっちの問題はひと段落か。
俺は部屋にリセ○シュをかけながら工藤さんに話しかける。
「……容赦ないなー」
「工藤さん。本題なのだが」
「ええと、正直あの子に関してはアタシがアドバイスできる事はないと思うなー」
「なんと」
「うん。ごめんね。アタシが思ってる犬とは違ったみたいだわ……なにか深い事情が?」
「事情?……そうだな、事情、事情」
「ああ、いいよいいよ。話したくないなら話さなくても」
「む?いや、そういう訳では」
「大丈夫、アタシはどんなときでも千日君の味方だから!」
「そうか。それは心強いな。ありがとう、工藤さん」
「いえいえ、どういたしまして!じゃあアタシそろそろ帰るね」
「もう帰るのか?」
まだ来てから30分ほどしか立っていない。
来客をそんな短時間で帰してもいいものだろうか?
「うん。アタシこの後塾あるんだ。ごめんね、突然おじゃましたのに」
「いや、気にしないでくれ。こちらこそ、悪かった」
「いやいや。こっちこそ……って、きりがないか。じゃあ、帰るね、バイバイ!」
「ああ、また明日」
そうして工藤さんはあわただしく帰っていってしまった。
帰り際に、念願の千日君ハウスの写真がどうとかといっていたが、なんだったのだろうな?
◇
工藤さんが帰ってしまい一人になったリビング。
そろそろ夕食の支度でもするかとソファーから腰を上げたのだが、
「食材が、ない」
スーパーに行くことをすっかり失念していた。
あるのはせいぜい卵とご飯と乾パンとドッグフードだ。
卵は明日の朝ご飯になるので却下。
ご飯は炊けばいいとして、おかずになりそうなものがないな。
……しかたない。いまからいって買ってこよう。
チカは先ほどの発言からするに、普通にご飯を食べるらしいから、いつもより多めに食材を買わねばならないな。
俺はちゃんと全ての電気を消し、上着を羽織り、玄関の鍵も閉め、スーパーを目指した。
主人公が鬼畜に見える。なんでだろう?