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犬耳少女と、編入。

 


「ご主人様ー! わたしが学校に行けるってホントなのですか?」

「ああチカ、ただいま。本当だぞ」

「あっ、お帰りなさいなのです」

「……工藤さんからメールで聞いたのか?」

「はい!」

「まあその携帯云々の話はおそらく、チカの父上あたりが絡んでくるのだろうから置いておいて、だ。チカが学校に行けるのは、工藤さんが俺を説得してくれたからなんだぞ? よく感謝しておけ」

「工藤さんが?」

「ああ。あと、一日に何回もメールを送るのはやめなさい。工藤さんも迷惑していたようだし」

「はへぇー。……わかったのです。学校にいければ、お暇になることもないですし!」

「そうか、それは良かったな。……で、だ。お前は来週の月曜日から、うちの学校のうちのクラスに編入する手はずになっているわけだが……まあ、教科書と制服は俺が用意してやろう。細々したものも土日に買いに行けばいい」


「……あの、ちょっと気になってるんですが」

「なんだ」

「話がとんとん拍子ですすんでいるのはいいのですが……なんでそんなにスムーズに進んでるのですか? 普通学校に行こうと思ったら、試験とかが必要だって聞きましたけど……」


「あの学園の学園長とは、ちょっとした知り合いでな」

「ふむふむ」

「……」

「……あれ?」

「ん?」

「それだけですか?」

「ああ、そうだが。それでチカのことをどうにかしてくれと頼んだところ、快諾してくれた」

「ちなみにどういった種類でのお知り合いなのですか……?」

「知りたいか?」

「…………知らない方が良かったり、します?」

「可能性は高い」

「じゃあ良いのです……」


 ◇


 月曜日。


「ぐっもーにん! なのです!」

「ああチカ、おはよう」

「はい、お早うございますご主人様! いやぁ、わたしも今日から学校に行けるかと思うと、わくわくしちゃって昨日は眠れませんでしたよ」

「そうか。張り切るのはいいが、授業中に寝たりはするなよ。あと、教科書はちゃんと読んだか?」

「ばっちしです! そもそも私は里の学校では首位の成績だったんですよ? ぶっちゃけ高校レベルの内容はもう終わっているのです」

「……にわかに信じがたいな」

「失礼しちゃいますね。わたしだってやる時はやるんですよ!」

「まぁ、別にいいんだが……。じゃあチカ、早く朝食を食べて制服に着替えて学校に来るんだぞ」

「あ、はい……あれ? ご主人様、どこに行くんですか?」

「学校」

「一緒に行ってくださらないのですか!?」

「チカが遅いのが悪いな」

「おうふ……」


 ◇


 学校。

 朝のHRの時間に担任に伴ってチカが教室に入って来る。

 千日達のクラスの担任である女教師は簡単な説明をした後、チカに自己紹介を促した。


「えー、今日からこの学校に編入します、藤寺チカなのです。好きなものは甘いものとご主人様、嫌いなものは辛いものとお仕置きなのです。皆さんよろしくお願いします!」


 チカの自己紹介に、担任の表情が若干引きつる。教室もざわめく。

 が、そこは大人。すぐに真顔に戻り、何事もなかったかのように進行をした。


「と、いう訳よ。中途半端な時期ではあるけれど皆、仲良くしてあげてね。えっと確か、千日君の従妹……だったわよね?」

「はい……はい? わたしはご主人様の従妹なのですか? そういう設定なら吝かでもないのですが……」

「チカ、そういうことにしておいた。別に書類上必要だっただけだから、肩肘張らなくてもいいがな」


 教室後方から、千日の声が飛ぶ。


「あ、そうなのですか。……そういうことなら先生、改めまして。わたしはご主人様のペットをしているのですよ!」


『……』


 チカの爆弾発言に、千日と彼女を除いて教室中が凍りつく。

 流石に普段の田中や工藤さんとのやりとりを見慣れたクラスメイトでも、リアルに人をペット扱いしているとは思ってもみなかったようだ。

 ちなみにチカの耳は、ベレー帽のようなかぶり物で隠しているので、今は見えない。そしてこの帽子は、学校にいる間は付けていてもいいと学園長のお墨付きだ。


「あ、あれ? 皆さん、どうしましたか?」

「担任、そろそろ一時限目が始まるのだが……」


 二人が全く普段通りの声色でそんなことを言う。

 ここまで何も気にしてない風だと、自分たちの方が間違っているのだろうか? とクラス中が思うレベルだった。そして皆が思いあたる。


 千日に対して、常識を求めてはいけないということに。


 なるほど確かに、この少女はペットなのだろう。

 きっと千日にとってはそれが当たり前なのだろう、と。


 そして教室が、日常に回帰する。

 今度の興味の対象はチカ自身のことに移り、あちこちで会話が起きる。

 なんだかんだで適応力の高すぎる二年三組の皆さんだった。


 ◇


 休み時間。


「チカちゃん、久し振りー」

「あ、工藤さん! この度はご主人様を説得していただき、有難うございます!」

「いや、いいよー。チカちゃんの暇さ加減が流石にヤバかったからね……」

「はい! ヤバかったのです!」

「何か生産的なことでも試してみればいいものを……てい」

「あたっ。何するんですかご主人様ぁ」


「……何気ない手刀で残像が見えるって、何なんだろうね」


「何か言ったか? 工藤さん」

「やや、なんでもない……チカちゃんも大概丈夫だなぁ。田中ー! ちょっと来ーい」


「うぃーっす。……あ、チカちゃんこんにちは! 俺の名前は田中ぐはっ!?」


「これでいいのか?」

「そうそう、そんな感じの手刀。

 ……うーん、田中でもこうなるのに……チカちゃんホントタフだなぁ」


「あが……が……お、もうちょいしゃがめばチカちゃんのパンツが、」


 ドゴン!!


「……田中。あまりうちの犬に近づくな。潰すぞ?」

「す、すんません……」

「千日君、教室の床に穴開けないで……」

「あとで直す」

「自分で直すんだ!?」


「……はっ! ご主人様、チカは大変なことに気付いてしまいました!」

「どうした」


「今日わたし、パンツはいてません!」


「……てい」

「ぐべらっ!? 痛い……でもしゃがめないのですよぉ……くぅぅ」


「と、桃源郷が『グシャ』」

「千日君。田中の田中から酷い音がしたけど」

「唾でも付けとけ」



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