犬耳少女と、欲求。
ご主人様の鬼畜っぷりがよく分かる一幕。
「ところでところで、ご主人様」
「なんだ、チカ」
「わたし、一つ気になってることがあるのですが……」
「ん、言ってみろ」
「ご主人様って……人間の三大欲求、知ってます?」
「やけに顔が輝いてるが、愚問だな。食欲、睡眠欲、入浴だろう。
……いや、人間の、だから金欲、名誉欲、入浴か?」
「まさかの入浴推しっ!?」
◇
「……私、三大欲求といったら食欲、睡眠欲あと性・欲! だと思ってたのですが、金欲とか名誉欲とかってなんですか?」
「一言で言うと、人間はかくも浅ましい生き物ということだ。一つの説だがな。あと、性欲じゃなくて入浴。なんでそこ強調した」
「なんかどろどろしてますねー……。あと、入浴じゃなくて性欲です」
「……」
「……」
「入浴」
「性欲!」
「入浴」
「性欲っ!!」
「入浴」
「せ・い・よ・くどぶふぁ!?」
「下品な事を叫び散らすな。裸で寒空の下に放りだすぞ」
「すんませんしたぁっ」
◇
「というかチカ。入浴だろう? 別に性欲がなくても生きていけるが、入浴がなかったら死ぬだろ」
「いや、死にゃしませんよ流石に!? てか性欲なかったらどうやって種を残すんですか! 人類滅亡の危機なのですよ!? 個人が死ななくても全体がおじゃんなのです!」
「ふっ。その程度で滅亡するなら、人類もそこまでということだ」
「根本的なところで人類の評価ポイントおかしいですからっ!? 性欲無しでどうやって滅亡を避けろと!」
「分裂しろよ」
「できるかぁあああ!?」
◇
「てか、入浴って欲じゃないのですよ」
「ん? 言葉遊びみたいなものなのだろう?」
「絶対違います」
「……いや、多分そうだろ」
「強情だなこの人! まったく、局所的に頭悪ぃですね……」
「俺の頭が悪いとなると、チカは一体どうなってしまうのだ? そもそも存在しないのか? その獣耳がついた頭はただの飾りなのか? アタッチメントなのか?」
「ほら真顔でこういうこと言うぅぅ……」
「泣くならコタツに汁零すなよ。ティッシュ取って来なさい」
「汁!? この鬼畜ぅ!」
◇
「うう、ぐすん。ちょっとご主人様を性的にからかおうと思っただけなのに、いつの間にかわたしが泣かされる展開に……」
「勝手に泣いただけだろう、チカは。俺が悪いように言うな――本格的に泣かせたくなる」
「……す、すみませんでした……」
「わかればよろしい。……ところで、何故急にこんな話を? 発情期か?」
「デリカシィー! 違いますよご主人様の馬鹿!」
「……俺が馬鹿ならお前は」
「それさっきやりましたからいいですよぅ!」
◇
「しかし実際、発情期じゃないのか? クソド低能田中によると、獣人には大抵発情期がつきものだということだが……アイツ、また嘘をつきおったか。天井磔の刑だな」
「見ず知らずの田中さぁああん!? やめたげてー!」
「いやしかし、田中が俺に対してあることないこと吹き込むのはこれで何度目やら。そろそろきっちりと落とし前をつけてやらねば……」
「……ちなみに、どういったことを吹き込まれたのか聞いても? 主に、わたし関連の事で」
「そうだな……最近は、獣人はメイド服を着せるものだとか。もしくはボロキレを渡して奴隷のように扱うべきだとか。耳の中をこちょこちょすると動きを麻痺させられるとか。裸に剥いて水をぶっかけるといいとか、鎖付きの首輪で調教するべきだとか、夜中に俺に隠れてごそごそとなにかに耽ってるとか」
「はいアウトォォオオオ!! 田中さん○ね! ご主人様にたっぷりオシオキされてしまえっ!」
◇
「で、ええと……あの、今のは全部、田中さんから聞いたことですよね? ご主人様の意見なんかは入ってないですよね?」
「ん? ああ、全て田中産の無駄知識だが、どうした?」
「ああいや、なんでもないんですがね。ちょっと最後聞き捨てならなかったので…………ふぅ。良かったぁ、バレてない…………」
「最後……ああ、そういえばこれだけは田中もまともなこと言っていたな。……チカは最近、夜中にごそごそとなにをやっているんだ?」
「! いっ、いえ!? ナニもやってないのですよ!?
(やっぱりばれてたぁあぁあああああ)」
「いや、そんなことは無いだろう。んっ、だのあっ、だの言う声がうるさくて敵わん。チカの部屋、俺の部屋と隣接してるんだぞ? 外で寝るか?」
「いっ、あの、いや滅相もございませんですよー? ははは……
(しかもきこえてたぁぁあああああ!? ご主人様の聴力侮ってたぁああああ! やばいです、これは不味いです。何が不味いってわたしのキラキラキャライメージが不味いです。大打撃を受けて大ピンチなのですっ。あわわわわ……)」
◇
「おい、汗凄いぞ。そんなにコタツ暑いか? 電源切るか?」
「いやいや、大丈夫です大丈夫です。大丈夫ですのでほら! ご主人様はそろそろお夕飯の準備をしてください、はい。ええ、それがいいのですとも」
「奉仕のほの字も見えない発言に俺は一言注意するべきなのだろうか……まあいい。それよりも確かに、夕飯の準備をする時間が近づいているからな。
ほら、何をしていたのかさっさと吐け。事と次第によってはただではおかん」
「あ、いや…………」
「チカ……?」
ゴゴゴゴゴ
「(あ。ヤバいオーラがくっきり見えるのですよぉ……)
あの、こう……なんというかですね。獣人には別に発情期とかそんな卑猥な時期はないのですが、人間に似ている故にですね、ちょっとこう……生理的なものがごにょごにょするというかなんというか」
「……? どういう意味だ?」
「いやだからそのぉ……ほら、せ……せい、よく……ッ! がッ! こう、なんというでしょうねッ! ええッ!」
「意味分からん。簡潔に」
「く、おぉぉぉぉ…………ご、ご主人様! 耳貸して下さい耳!」
「おお、いいぞ。取り外すか?」
「取り外せんの!? ……じゃないです、今はそんなご主人様のびっくり人間っぷりに驚いている場合じゃ、」
「いや、常識的に考えろよ。冗談だぞ?」
「ドヤ顔うぜぇです!? ああもう……くっ。
……ご主人様、先に言っておきますが、これからわたしが告げることは決して世間様にはばかられるようなことでは無くてですね。むしろ種として正しい在り方なので、その辺りの事情をよく斟酌して聞いてくれると非常に嬉しいというかなんというか、」
「はばかられることではないなら、普通に言えばいいではないか」
「い・え・る・かっ! このド変態鬼畜ご主人様! うう、ぐすっ……」
「む、むう?」
「で、ではその…………ごにょごにょごにょ…………」
「……?」
◇
「……」
「……ぐすん」
「……うーむ。まあ、なんだ。
夜更かしはしすぎるなよ。どうせなら、昼間にやっても」
「いやぁあああぁあああ!! やっぱ忘れてくださぃぃぃぃいいい!!」
……パタリ
「っと、倒れた。……しかし、チカの言っていた行為とは結局のところ、なんなのだろうか……?
田中……は駄目だから、明日工藤さんにでも聞いておこう」
翌日工藤さんが、真っ赤になって学校で倒れたという。




