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犬耳少女と、百均。

 


「おい、チカ。俺は今から百均に行くのだが、お前もくるか?」

「ひゃっきんですか! あの音に聞こえし伝説の均一価格ショップ! いきますいきます超いきますですよ!」

「そんなに行きたいのか。ふむ、なにか買うものでもあるのか?」

「いえ、買うものといえば特にないのですけど。でもひゃっきんっていろんなものが売ってるのですよね? 見てるだけでも楽しそうなのですよ」

「まあ、確かにそうかもしれんな」

「ちなみにご主人様は、何を買いに行かれるのですか?」

「ん? ああ、クリアファイルだな。学校からのプリントを、そろそろ仕分けしないとだ」

「なるほどです」

「今までは学校のロッカーに放置していたのだがな。溢れてしまったので自宅で管理しようという訳だ」

「なにやってんですか!?」


 ◇


「到・着! ほへー、ここがひゃっきんですか~」

「おい、あまりはしゃぐなよ? 飼い主の品位が疑われる。本来なら店の外にでも括りつけておくべきなのだろうが……」

「それだけは勘弁して下さいですよっ」

「まあ毛をまき散らしたりはしないだろうし、お前を信用して店に入れているのだからな。それを裏切らない行動を……」

「わーい! いろんなものがいっぱいあぶべぐっ!?」


 俺は走りだそうとするチカの耳を掴み、ぐいっと引っ張って粗相を阻止。

 さて、


「すまない、店員さん。ペット用のリード……できれば金属製の太い鎖はどこに置いてあるかな?」


「はい、それでしたら、」


「ああああ!! さぁご主人様いきましょう! 文具コーナーはあっちですよー! このいやしき駄犬めが案内してさしあげますから、鎖はやめてください!」

「むう」

「あっ! ほらほらご主人様ー! わたしには鎖よりこういうネックレスとかの方が似合うのですよー」

「……鎖の方が似合うと思うぞ?」

「駄目だこの人ひでぇですよ」


「……最近の若い人の趣味は、ハイカラだなぁ」


 ◇


「このペンも、百円! このいっぱいの消しゴムも、百円! この色ペンセットだって、百円! ひゃっきんさんの文房具にかける熱意はすごいのですね」

「まあ……そうだな。別に文房具だけではないが、物を安く提供しようという姿勢は好ましい」

「凄いですね、ひゃっきん! 流石、里であれだけ噂になるだけのことはあったのですよ」

「まあ細かく見ていくと、明らかに百均以外で買った方が安いものも多数……」

「わー! それ以上はいけないのです! 主にわたしの夢とかが汚れちゃいますよぅ!」

「……ふむ?」


 ◇


「さて、ファイルファイルと……これでいいか。チカ、なにか欲しいものは見つかったか?」

「あ、はい。これがいいです」

「ふむ、ジグソーパズルか」

「はいなのですよ。いつもいつもお家で暇なので、パズルでもやって時間を潰すのです」

「成程……では、大量に購入せねばならんな」


「え?」


「時間つぶしだろう? こんなものでは五分と時間を潰せないではないか」

「……ご主人様の基準で考えないでくださいですよ。普通に一個あったら暇つぶしにはなるのです」

「そうか?」

「うわめっちゃ疑わしそうな顔! ……ちなみにご主人様、こういうものも買おうかなー、なんて思ったのですが」

「ん? 知恵の輪か。これのどこに知恵の要素があるのか、イマイチ俺には理解できん。少し振ったら外れるじゃないか。時間潰しなど論外だな」

「……ですよねー」


 ◇


「ただいまですー」

「ただいま……チカ、結局パズルと知恵の輪を買ったが、本当に良かったのか? 時間を潰すというのなら、まだ折り紙でも買った方が生産的だろうに」

「いいのですよ、わたしは! ……あ、でも折り紙というのは盲点でしたね。今度折り紙の本と一緒に、是非買いに行きたいのです!」

「まあ、そうだな。次の休みにでも買いに行くか」

「やったー、なのですよっ」


 ◇


 カチャカチャ


「ふむ、チカ。早速知恵の輪をやっているのか」

「はいなのです。さすが上級編、どこがどうなってんのか訳わかんないですよ……素直に初級を買っとけば良かったですかねー。解ける気がしないのですよ」

「……はぁ」

「なんですかその頭の残念な子を見るような目は」

「いや……気にするな。少しチカに失望しただけだからな」

「それ滅茶苦茶気にしますからね!? そこまでいうんだったらご主人様がやってみてくださいよ!」


 ブン――チャリン


「ほら」

「何がどうなったのですかぁ!? ほらじゃないです、ほらじゃ!」

「で、ここを持ってかち合せると、」


 カチャン


「こうやって、元に戻る訳だ」

「……えー……なんかもう、私が馬鹿なんですかね……」

「ふむ……何が楽しいのだろうな、これは」

「そりゃそんなポンポン外したり付けたりできれば、楽しいもクソもないのです。……そういう意味では、わたしは恵まれているのですかね?」

「ふーむ。こんな金属片、まだこうやって曲げてここをこうして……うーむ、後は、」

「知恵の輪から、新たな知恵の輪を作り始めた!? 何をどうしたら素手で金属が曲がりますか!?」

「どうって……強いて言うなら、気合いか?」

「気合いで世の中なんでも解決できると思ったら大間違いなのですよ……」



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