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犬耳少女と、雨。

 


「おはよう、工藤さん」

「おお、千日君おっはー。今日もいい天気だね」

「そうか。工藤さんの中ではこのどしゃ降りが良い天気なのか」

「いや、冗談よ? 真面目にうけとって深刻そうな顔しないで!?」

「なんだ、冗談か。すまないな、全く気付かなかった……てっきり工藤さんは頭の方がもうアレになってしまったのではないかと……」

「凄い失礼な事想像されてる!?」


 ガララッ


「うーい、千日、委員長おっはー」

「近寄るなこの濡れモップ。というか教室に入るな。床がカビてしまうではないか」

「そうだよ。一回教室から出て自分の生まれてきた意味を良く考えて、それから惨めったらしく自分の巣に帰りなさい」

「朝から酷いなお前らっ」


 いいながら、素直に教室からでる田中。

 おそらくタオルか何かで身体を拭いてくるんだろう。

 最初からそうしておけという話だが。まったく。


 ◇


「そういえば千日君は全然濡れて無いよね。車で来たとか?」

「俺の家に車を運転できる人間はいないぞ? それは工藤さんも分かっているだろうに」

「あ、そっか……千日君まだ免許持てない歳だったね」

「ああ。何故俺が免許を持っていると勘違いしたのかは知らないが、持っていないな。将来的にも必要はないだろうと思っている」

「そっか……なんか千日君ってなんでもできるイメージがあったからさ、つい……で? どうして千日君は全然濡れて無いの?」


「いや、普通に雨を弾いてきたからだが」

「え?」

「……」

「え? 終了? もっと説明とかは?」

「ないぞ。普通に、雨を、弾いてきた」

「雨を弾くって何!?」


 ◇


「そういう工藤さんは、まだ少し髪がぬれているようだが」

「ああ、うん。学校来る途中に降られちゃってさぁ……早く登校するのも考えものだよね。お陰で全く対策もしてなかったから、学校までぬれ鼠できたわけ」

「そうか。確かに、今日の雨は急に降って来たからな……それでジャージか」

「保健室で借りたんだよ。そのかわり、サイズがどれもきつい上に、ブラがないから……」

「なんだ。もしかして今、上着と半そでしかきていないのか?」

「は、恥ずかしながら……」


「胸が大きいのも困りものだな、委員長! しかしその上着の下はノーブラかぁ……田中、いざまいげはぁっ」


 突如として現れた田中が、一瞬で工藤さんに駆除され、教室の外にK.Oされた。


「おお、その揺れ、そのポッチ……間違いなく、ノーブラ……わが生涯に、一片の悔いぐっぁ……」


 廊下で何やら騒ぐ下等生物がウザかったので、適当に消しゴムを弾いて気絶させる。消しゴムは跳ねかえって俺の手にすっぽりと納まった。


「おおー。流石千日君。技の切れが向上してない?」

「ああ、少しばかり修行に行ったりしてな。ついでに武具の扱いも学んできたぞ? 今度神速居合斬りを見せてやろう……って、ああ、あれは見えないか」

「何を学んできたの!?」

「だから、武具の扱いを少々」


 ◇


「しかし工藤さん、その格好だとやはり寒いのではないか?」

「えっ? あぁ、いや、うん……流石に冬場ずぶぬれにされて、着る服これだけだとねぇ。委員長って立場上強がってはいるけど、本音を言うと今すぐ暖房全開にして入れたい」


 ちらっと自分の格好を見下ろして、それから慌てて胸の真ん中辺りを隠す工藤さん。


 暖房は事務室の方で管理されているからな……つく事は滅多にない。

 まぁ、寒さも暑さもあまり感じない体質なので、俺は別に構わないのだが、問題は工藤さんだろう。


「ううぅ……やばい、これじゃまともに授業受けれない……」

「どうしたのだ? 急に胸を隠して」

「お、女の子にはいろいろあるんだよ千日君」


 工藤さんが恥ずかしがる姿など、珍しいな。

 しかし、授業に差し障りがでてはいけない。俺は自分の着ていた学校指定のセーターを脱いで、工藤さんに渡す。


「まぁ、着るといい。意外と生地が厚いから防寒の足しになるだろう。流石にブレザーはアンバランス過ぎておすすめはしないが、それでも寒かったら貸してやろうではないか」

「え? い、いいの……?」

「ああ。工藤さんが風邪をひいたら大変だからな。なにせ俺は田中の相手を一人でしなくてはいけなくなるわけだし。それに、工藤さんがいないと学校生活も楽しくないというものだろう」

「せ、千日君……ますます惚れちゃうぞ?」

「ははっ。流石にその冗談はわかるぞ」

「……もぅ。じゃ、アタシちょっと着替えてくるね。ありがと、千日君!」

「ああ、いってくるといい」


 ◇


 そして放課後。


「うわぁ……見てみて千日君! 虹だよ虹!」

「そうだな。しかし帰るまでに雨がやんで良かった。まぁ、降り続けていれば俺が工藤さんを送っていくことも考えていたのだが、杞憂だったようだな」

「……ふふっ、ありがとー。それより千日君、セーター返すね」


 既に制服に戻った工藤さんから、セーターを渡される。


「ああ、お役に立てたなら何よりだ」

「うん、凄く助かった。危うく私は、痴女痴女しい格好で教師を悩殺しなきゃいけなくなるとこだった……」

「ちじょちじょしい? なんだそれは。最近の言葉は難しいな」

「あ、うん。そうだね」

「まぁ、良いか。では、俺は帰るからな、さようなら工藤さん。帰り道気を付けるんだぞ」


 そう言って、俺は帰路についた。


「……千日君、なんで歩いてるような感じなのにあんなにスピードがでるんだr……消えたっ!?」


 ◇


「あ、御帰りなさいですご主人様! 見ましたか? お空に凄い虹がかかってるですよ!」

「おお、見たぞ。綺麗だったな」

「ですね。……わたしとどっちが綺麗です?」

「虹だろう」

「がーん」

「お前は綺麗と言うよりも、可愛いという分類ではないのか?」

「そ、そうですか? ですか。まぁ、それならよしとするです」

「それより今日の晩御飯はビーフシチューだぞ。ついでにいろいろ買って来たから、これを冷蔵庫に入れておいてくれ。俺は先に風呂に入ってくる」

「はいっ! ……あぁ、なんて素晴らしく新婚生活のよう……」

「あ、チカ。そういえば昨日散歩に連れていって無かったな。今から行くか?」

「……この扱いさえなければなぁ……」



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