犬耳少女と、帰宅。
「ふぅ、久々に帰ってきました、ジ・我が家!」
「チカ。いろいろ間違っているから、教えてやろうではないか」
「ふぇ? なんです?」
「その一。ジ、じゃなくてザだからな。よくノリで使っている奴はいるが、俺としては出来ればチカにはそんな奴らとは一線を画した、賢いわんこになって欲しいのだ」
「あ、はいすみません……って、わんこ、ですか。そうですか……ですよねー」
「なんだ?」
「いえ、ご主人様はいつになったらわたしを人間扱いして下さるのですかねと」
「何か現状に不満が有るのか?」
「いや、不満が有るかと言われたら……ぶっちゃけほとんどないですが……こう、同居し始めてもういくらか経つですし、そろそろ次のステップに進むのもいいのでは~なんて」
「必要性を感じんな」
「ばっさり!? 酷い!」
「だいたい、わんこだろうがペットだろうが人だろうが、チカはチカだろう? 俺の扱いが変わることはない」
「ご主人様……! ……って、それじゃあ何時まで経っても進展のしの字すら見えないじゃないですかぁ!?」
「さて、では二つ目だが」
「無視はよくないですぅ! そしてそこまだ引きずってますですか!?」
◇
「しかし里での滞在中、いろんなことがありましたね~」
「そうだな。なかなかに楽しめた。また近いうちに訪ねてみなくてな……是非と念を押されているし」
「ご主人様は……初日のインパクトも物ともせず、というかそのおかげで、いつの間にか里のカリスマに成りあがってましたからね……」
「なんだ、その呆れた声は」
「いえ、わたし達の種族はどうしてこんなにも脳筋が多いのかと、嘆いているのです」
「ふむ? まぁ良いのではないか? あ奴らもなかなかどうして、骨のある奴ばかりだからな。ぼろ雑巾のような状態でも、決して闘志を失わなかったぞ」
「それを脳筋と……って、そも単語の意味がわかってなかったですかか? そしてぼろ雑巾とは……ちょっとは手加減してあげてくださいよぅ」
「これでも最大限手加減した結果が、アレなのだがな。全く、気骨は評価するがあの軟弱な身体は頂けないな」
「わたし達獣人を軟弱というのは、ご主人様くらいでしょう……」
◇
「そのうち、あの里で道場でも開いてやるか」
「一応うちのお父さんが里にある唯一の道場の主なのですが……ご主人様になら三秒で乗っ取られるでしょうね……」
「乗っ取りか……それでもいいかもしれんな?」
「いや……ってお父さんはむしろ快諾しそうですね……三日で流派の全てを吸収されたと、豪快に笑いながら言ってましたし。絶対笑いどころじゃないと思うですが」
「しかし交通の便がなぁ……流石の俺も、あそこに行くのは骨が折れる」
「あ、ご主人様でもやはりそうなのですか?」
「まぁな。迫りくる木々の葉をかわしながらの行軍だったからな……」
「え? あの生い茂る植物を全てかわしながら行ってたんですか……!?」
「ああ」
「そういえば、里では汚れ一つなかったですね……もう、何て言ったらいいのか」
「まぁなんとかなるもんだ」
「なってたまりますか!?」
◇
「そーいえばご主人様。里で何か検査をされましたよね?」
「……ああ、そんなこともあったな」
二日目に、獣人共に是非受けてください、などと言われて病院のようなところで大きな水晶玉に手を翳したが。
結局あれはなんだったのだろうか?
「その結果が今手元にあるのですが。見ます?」
「見させてもらおう」
「これです……っと、わたしも見てもいいです?」
「ああ」
ペラッ
「……こっ、これはっ!?」
「ん? なんかおかしなところがあったか?」
俺には基準が分からないので判断のしようがないのだが。
「や、おかしいっていうか、ありえないですね……なんですか、この身体能力全部「EX」って!? 里の検査の最高ランクはSまでのはずですよ!?」
「はずですよ、と言われても知らんが」
しかし、なぜランク分けが英語なのだろうか。
能力検査のようなものなら、数字にしたら分かりやすいと思うのだがな。
というか、Sまで? A~Sまでなのか? 随分と中途半端なことだが。
「身体状況もすこぶる良好、精神ランク「EX」、まじもんの化物じゃないですかやだー……」
「ん? この最後の奴はなんだ? ……異能?」
「……うっわホントだ……これは酷いのです」
「酷いのか?」
「酷いですね。主に別の意味で。内容は……『強化系』『身体強化』『一番』『全強化』に類似。しかし操作系も混ざっているようで詳細は不明…………はは」
グシャ
「おい、何故紙を丸めて外に投げようとしてるんだ?」
「……身体強化一番? しかも全強化? 阿保ですかと。ええ、どこの伝説にでてくる英雄ですかと。ええ、ええ」
「どうした? チカ」
「今までご主人様には敵わない敵わないと思ってきましたが……こんなの敵う敵わない以前に無理ゲーじゃないですかこんちくしょー!!」
ブン! ――キラーン
「おお、紙玉がお星様に」
◇
「ふぅ……ご主人様」
「なんだ?」
「先ほどの異能の事ですが……」
「うむ」
「異能というのはですね。元々わたし達の祖先が暮らしていた世界から入って来たものと言われています。
ここではあり得ませんが、魔法というものも存在したようですね。こちらはこの世界に魔力が無かったので存在を確認されることはなかったようですが……しかし異能は魔力関係無しに、いわゆる個人の才能として生まれますからね。
大方、わたし達の祖先のように世界渡りをした異能持ちが、人間と交わった結果でしょう。
極稀にいるようなんですよね……お父さんはそれを知っていてわたしをご主人様の元に……? ふむ」
「チカの説明はいつも分かりづらいんだが、噛み砕くと異能は希少かつ凄いということでいいのか?」
「わお、噛み砕きましたね! だいたい合ってますけど」
「ふぅん。……そうだ、そろそろ夕飯の支度をするか」
「あ、はい……え? 異能のこととか、もっと聞いたりしないんですか?」
「興味が無いな。できることはできる。できないことはできない、それだけだろう?」
「いや、そうですが……」
「俺の場合、そのできることが少しばかり多いだけだ」
「そう、ですが。一つだけ言わせてくれないですか?」
「なんだ?」
「ご主人様の場合、あきらかに少しばかりとかそんな生ぬるいレベルじゃねーですからね!?」




