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犬耳少女と、里帰り。④

 


「痛い痛い痛い痛い!! お湯とか泡とかが超しみてるんですけど!? やべぇです。チカ死んじゃいます!」

「安心しろ。そんなことでは死なんよ。獣人とやらは特にな……大体、自分で風呂を所望しておったのだ。黙って体を洗え」

「ちょ、ご主人様! てかそもそも、なんでわたし達一緒にお風呂に入ってるんですか!」

「安心しろ。俺はチカの貧相な体を見た程度で欲情するような下衆ではないのでな。そのミミズ腫れを見ると、興奮はするが。まぁ、ただのスキンシップだ。どうだ、嬉しくないのか?」

「うわすっげえドS。そりゃ、嬉しい嬉しくないで言ったら嬉しいですけど……って何言わせるんですか!」


 バシャン!


「おい。顔に水をかけるんじゃない。目に入ったら痛いだろう」

「ぶー、だ! ご主人様は目に泡が入ってちょっとの間目が見えなくなっててくださいー!」

「すまんが、俺は目に泡が入っても普通に目をあけていられる人種だ」

「わお、無駄にすげぇですね!?」

「というかチカ」

「はい?」

「恥ずかしいと言うのなら、まずその俺を凝視する事からやめたらどうだ?」

「―――!! みみみ見てませんぉ!? そんな恥女みたいなことする訳無いじゃないですか!」

「まぁ、湯気を操って詳細を隠しているからな。別にいいのだがな」


「あ、畜生! なんか見えないと思ったらそんな人外の力ずるいです~!」

「おい」


 ◇


 勝手に風呂を使い、勝手に布団を敷いて勝手に人の家で眠った翌朝。


「う~~ん。よくねむれましたぁ」

「おう、おはようチカ。朝ご飯出来てるぞー」

「しゃきっとせんかキャシー。仮にも里長である吾輩の娘が、そんな体たらくでどうする。のぉ、千日殿」

「全くだな。起きたなら起きたで、スグにしゃきっとしなさい」

「え~そんなこと言ったってご主人様、お父さん……お父さん!?」

「やっと覚醒しおったかキャシーよ」

「え? なんでお父さんとご主人様がそんな仲良くなってる感じなんです? 昨日はお父さんも一緒にぶっ倒されてましたよね」

「ふっ。獣人最強と呼ばれたこの吾輩が、手も足もでなかったのだ……戦いの勝者に敬意を払うのは当然だろう? キャシーはいい主人をもったな」

「なるほどー。……後、お父さん。今の私はチカという正式な名前があるので、仮の名で呼ぶのはやめてください」

「おっと、すまんなチカ。つい昔のくせでなぁ。ははは」


 ◇


「そういえばご主人様。里には何時まで居られますか?」

「そうだな……獣人共に武術を教えてもらう約束があるから、冬休みいっぱいは居るつもりだが。あぁ、チカは別に先に帰ってもいいぞ?」

「これ以上どう強くなるつもりですか!? 道場でも開くつもりなのですか。後、さらっと酷い事言わないでください。ご主人様がおられる間はチカもいますよぅ」

「そうか。了解した。では吾輩の人、頼んだぞ」

「はっ。チカの世話はお任せ下さい。……それにしても本当に良いのですか? チカは獣人にあるまじき、奉仕本能の抜け落ちた欠陥品となり下がっています。里にいた時から、周りにちやほやされて育った甘々娘でしたし……千日殿に迷惑をかけないよう、もうこちらで回収しても、」


「やですっ!!」


 立ちあがり、全身を震わせて大きな声で里長の言葉を遮るチカ。その姿には、絶対に捨てられたくないと言う悲壮感がにじみ出ていた。

 実際、千日に捨てられたらチカは里暮らしとなるが、前のようにちやほやはされずに訓練漬けの毎日になる事は容易に想像できる。

 そして何よりも、チカは千日と離れてしまうという事がもう考えられなかった。


「大きな声をだすんじゃないチカ。心配せんでも俺はペットは最後まで責任を持って飼うつもりだからな。そもそも、奉仕だのなんだのと言われても、自分でやった方が圧倒的に効率が良いのだし」

「ご主人様……有難うございます」

「おい、チカ。貴様さりげなく獣人として落ちるところまで落ちているがお父さん恥ずかしいぞ。……そうですか。では千日殿、チカの事を頼みました。できれば、こちらの方も」

「ちょ! お父さん何卑猥な手の動きを……」


「……?」


「あ、わかってなかった! ご主人様が世間知らずで良かった!」

「なんだ、どういう意味があるのだ?」

「それはですな、」

「シャラァアアアップ! その内なんとかしますからお父さんは黙っててくださいっ」


 ◇


「かめ○め波が撃てるようになったぞ」

「嘘ぉ!?」

「なんてな、冗談だ。精々気功で木を倒すのが関の山だ」

「朝方聞こえた轟音はそれですかっ!?」



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