犬耳少女と、里帰り。③
「……な……なんだこれは……」
「おい……皆の魂とも言える武器が……こんなになってるっすよ……?」
「何が起きたんだ……いや、一つ言えることがある」
「っす。それは、あそこいる男が、俺達の敵であるということ……ニコルさん、いくっすよ!」
「あぁ! たりめえだ!」
仲間の死体に驚愕と深い悲しみを隠せない二人だが、その感情をも力に変えるとばかりに即座に立ち直り、懐から自らの得物を取りだした。
異世界より、一際他の種族よりも自らの得物に命をかける戦闘集団、獣人族。
その真髄とも言える自らが求めた得物を手にした二人の戦士を止めることは、もはや叶わないと思われた。
雄たけびを上げ突進していくニコルとボブ。
すると青年はゆっくりと顔を上げ……そして手に持った長剣の鞘を軽く振った。
全く力んでいない、たったの一振り。
ただそれだけで、二人の戦士はまるでボールのように大きく吹っ飛ばされ、頑丈な壁にぶち当たり昏倒させられた。
圧倒的実力の差……どうあがいても覆せない深い隔たりが、青年と二人の間には有るかのようだった。そしてそれを間近で見たチカは悲痛な叫びをあげ――
「ご主人様ーー! 何やらかしてくれやがってますかこのドアホウがぁ!?」
「……ん? あぁ、なんだチカか」
◇
「……なんだとはご挨拶なのです。流石のわたしも、今回ばかりは怒りますよ? さぁ、さっさとこんな馬鹿な事をした理由を吐くのです」
「馬鹿な事とは、なんだ?」
「……まさかご主人様……周りの様子が見えていないとでも? そうおしゃいますか?」
「あ? ああ。安心しろ。誰一人死んではおらんよ。最も酷いものでも、精々三日で治る程度に留めておいてやったからな」
「そんなことはわかってます!」
「ん? では、何が問題だと言うのだ。俺はただこいつらが襲いかかって来たから正当防衛をしただけだぞ? そいつらの相手をしながら、とりあえず一番大きな家に上がり込んで一眠りしようと思ったら、物騒な物を振りかざす輩が増殖してやって来てな……その始末をしていたら随分と時間が経ってしまった。まぁ、大半の時間はこの散らばる武器の方に興味を奪われていた訳だが」
確かに、青年の周りには、円状にずらっと一通りの武器が集められていた。中にはバラバラに分解されているものもある。
「んなことは問題じゃないのですって! 一番問題なのはですねぇ、」
チカは怒りでプルプルと震えながら、千日を指さして言った。
「わたしのお世話をしてくれる獣人が、揃いもそろってノックダウンしてるじゃねーですかぁ!? 折角里帰りしてもう働かないぞーとか思ってたのに。里に帰ったら至れりつくせりが待ってると思ってたのに! せめてお風呂くらいは沸かしてあるとおもってたのにぃ!! なんで全員伸びちゃってるんですかぁあああ!!」
「お前がそれを言うのは、色々と間違っている気がしてならんなぁ」
◇
「……ふう。長旅で疲れましたよわたしは。ご主人様、わたしの疲れを癒してくださいです。具体的にはお風呂に入りたいのです」
「まったく。どうしてこんなにもずうずうしくなってしまったのか……とりあえず、お仕置きが必要だな」
「……ん? あれ? ご主人様? 鞭なんか持ってどうしたのですか?」
「幸い扱い方は何回か見たから完璧だ。ここでは良い経験が積めたぞ? なんせ、無駄に豊富な種類の武器が出てくるからなぁ。俺はもう世界中の一通りの武器を使いこなせる自信がついた」
「んなチートな……」
「それにしても、武器というのはなかなかに美しいものだな……戦闘という行為も、なかなかに気持ちが良い。全力で向かってくる相手を倒す快感……俺はいっそここに住んで、毎日戦いに明け暮れるのも良いかもしれんなぁ」
「……流石にそれはやめてください。わたしが飢えてしまいますです、はい」
「むぅ、甘えが多いなやはり……では――行くぞ」
「え? ちょまじですかご主人様すんません調子のりmぎゃぁぁぁああああ!!」
ビュンッビュンッヒュオンッ!
「くっはははは!」
「ちょ、痛い! 乙女の柔肌がピンチ! やめてくだsにゃぁあああ!!!」
「くはははは!」
ふっははははは!!




