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犬耳少女と、サッカー。

 


「おはよう、工藤さん」

「おはよう千日君~! 後、アタシのことは巫女ちゃんって呼んでー」

「遠慮しておくよ、工藤さん」

「ぶー、けち」

「どこら辺がケチなんだろうか?むしろ文字数は増えているぶんケチとは真逆ではないか?」

「そういう問題じゃないのっ!こういうのはその場の雰囲気でぱっと口を突いて出てくる言葉なんだから、冷静に分析しないでよっ」

「む、すまん」


 ◇


「おはよう、田中」

「お、おはよ、う?」

「今日も良い天気だな」

「お、おう……どうした千日、今日はやけに優しいな」

「俺もたまにはお前に優しくしてやろうと思ってな。迷惑か?」

「いや、迷惑ではないんだけど、こう……」

「こう?」

「すっげぇもやっとする。どうしよう、俺Mかもしんない」

「ハッ、いまさら何を言っているんだ雄豚一号、もとい田中。お前はMで気持ち悪いどうしようもないくらいの下等種だというのは、世の必定ではないか。もしかしてお前はそれを今になってようやく理解したのか?まったく、これだから田中は」

「少しでもお前に期待した俺が馬鹿だったよちくせう!」


 ◇


「今日の体育はサッカーをやるのだったか?」

「ああ、うん。そうだよ」


 俺の質問に答えてくれたのは、明智瞬一あけちしゅんいち

 サッカー部に所属する男気溢れる爽やかハンサムボーイだ。


「明智はいつも大活躍だからな。今日も期待しているぞ?」

「うん、毎回毎回僕の自信をことごとくへし折っていく千日のセリフとは到底思えないね」

「何のことだ?」


 それではまるで俺がサッカーが得意みたいな言い方ではないか。

 自慢ではないが、球技は苦手だぞ?


「俺は球技は不得意なのだが」

「あー、そう。千日の不得意は、僕らにとっての得意以上だからね……」

「ボールを蹴るだけの遊びとはいえ、サッカーはなかなか奥が深いからな」

「遊びって言っちゃてる時点で奥の深さは千日には見えてないよ」

「しかしいつもいつも、シュートのたびにゴールから零れるのはどうかと思うが。蹴った本人が取り行くからな、あれは。毎回グラウンドの端までいくのも一苦労だ」

「そのキック力はもはや人じゃないんだよね……」

「最近のサッカーボールは軟弱で、すぐに壊れるしな」

「そうして僕らの部の備品がどんどん無くなっていくんだね。あと一応言わせてもらうと、サッカーボールが軟弱なのではないと思う」

「はぁ、憂鬱だ」

「うん、僕がね」


 ◇


「ヘイ! 千日! パース」

「田中! 果てろ!」

「おかしくねぇ!?」


 ズッッバァァァァアアン!!


「ぐばふぅ!!」

「「「た、田中ーー!!」」」

「み、みんな……」


「プレイ中だぞ! 休むなら向こう行け!」

「そうだ、グラウンドの真ん中に寝そべりやがって。ちょっとは周りの迷惑も考えろ!」

「ほら、早くボール取ってこい!」


「え、そういう反応っすか」


「ふぅ、こんなものか。サッカーは素晴らしいな」

「二度目になるけど、絶対サッカーの奥深さとか知らないよね?もう趣旨違っちゃてるから。後、このクラスのノリの良さは凄いよね」


 ◇


「千日君、今日のサッカー大活躍だったんだって?」

「ああ、まぁな。自分でも今日はうまくいったと思うのだ」

「おお、千日君がそこまで言うのは珍しいね」


「ああ、なんせ田中が全治二カ月の骨折だからな」

「救急車の音が聞こえたと思ったら、そういうこと!?」


「俺、大活躍だな」

「意味が違ーう。けど、グッジョブ!」


 工藤さんが親指をぐッ、と上に向ける。

 俺も同じく、ぐッ。

 今日も田中の評価は底辺を這っているようで、安心だな。


 ◇


「俺、ふっかぁぁぁぁああああ“ぁぁぁ……」

「うるさい」

「はい、すみません」

「全く、これだから田中は」

「ひでぇ、折角退院したのに平常運転かよ」

「全治二か月はどうした。まだ一カ月とたっていないぞ」

「根性だぜっ」

「そうか、根性か。野蛮だなこのクソザルが」

「その返しは酷すぎやしないかい!?」



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