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犬耳少女と、目的。

 


「チカ」

「はい、なんですかご主人様?」

「散歩に行かないか?」

「お散歩ですかっ!いいと思うです!」

「だろう?では、早速出発だ。ほれ、首をだせ」

「へ?……その手に持ってるものなんなのですよ……?」


「ほら、この前買い物に行ったついでにリードを買ってきたのだ。良いだろう?」


「良いわけありますかっ。リード付きで散歩なんてしてみなさい、ただの変態さんなのですよっ!」

「こらチカ。常識をわきまえなさい!」

「どっちがですかっ!わたしは畜生ではありませんですってぇ……」


 ◇


「今日の夕飯はハンバーグだ」

「おお!お肉ですよっ!」

「そういえばチカ、聞きたいことがあるんだが」

「はい、なんです?」


「なんでチカは俺が夕飯を作ってる時、テレビの前から不動なのだ?」


「……あ“」


「チカは一応俺に奉仕するために来たのだろう?」

「そ、そう、ですねぇ……」


 チカの目が太平洋をざっぱんざっぱんと泳ぎ始める。


「いや、なんといいますかその、いつもご主人様がご飯とか作っちゃうので、わたしは他のところでご奉仕しようかなーなんて思ってる訳なのですよ」

「ふむ、成程」

「決して、ご奉仕の事を忘れて怠けていた訳ではないのですよ?あれはそう、英気を養っていたのです!」

「そうか、ならいいんだが。そもそも手伝ってもらわずとも充分だからな」

「そう言われるとちょっとアレなのですが……」


「ただ、掃除も洗濯も、他の家事は全部俺がやっている訳だが……チカは一体何に対しての英気を養っているのだ?」


「……ぐっはぁっ」


 へんじがない ただのしかばねのようだ


 ◇


「もぐもぐ……いや、わたしはですね、ここぞという時にご主人様をサポートするのが役目といいますかですね」

「ここぞという時?」

「はい!たとえばご主人様がご病気をされた時などですね……」


「俺は生まれてこのかた風邪一つひいたことも無ければ、大きな怪我をしたこともないのだが」

「この先なるかもしれないじゃないですかっ!!」


「それもそうか」

「そ、そうですよ……(ふぅ、なんとかごまかせましたよ)」

「もぐもぐ」


「ってごまかしたってなんなのですかわたしっ!?もはやただの寄生になり下がってませんかわたしっ!?」

「ペットなんだ、気にするな」

「いつまでもペットって訳にもいかないんですってばぁ……」


 ◇


「よし、ではこうしましょう。まずはできるところからですっ!ご主人様、お皿洗いはわたしがやりますよっ!」


「おう、俺の分はもう終わったからな。自分の分は自分でやってくれると助かる」


「……orz」


 ◇


「(こうなったら奥の手……強制的にご主人様にご奉仕ですっ!ご先祖様と違ってわたしは見目麗しい美少女ですからね、きっとご主人様も喜んでくださるのですよ!)」


「チカ、風呂上がったぞ。さっさと入りなさい」

「ご主人様、覚悟ですっ!」


 バンッ!


 常人なら目に捉えることも叶わない速度でチカは千日に飛びかかる。

 反動で床板が軋み、その速さと風圧で空間がたわんだように感じられるほどだ。


「どうしたチカ、いきなり飛びかかって来て。……はっそうか、スキンシップが足りてなかったのか。すまないな、チカ。……おーよしよし」


「馬鹿な、獣人であるわたしの全力をいとも容易くキャッチするなんて……あ、そういえばご主人様は化物だったのですよ……ふにゃぁ」


 ◇


「おやすみ、チカ」

「はい、おやすみなさいなのですよ!」


 二人はそれぞれの部屋へと入っていく。

 そして約一時間後。

 チカの部屋のドアがぎぃ、と開いた。


「ふふふ、こうなったらもうアレしかないですね。よ、夜這いなのですっ」


 がちゃ……

 チカが千日の部屋のドアを開けた瞬間。


 暗い部屋の中から、ぬっ、と何かが立ちふさがる。


「ぎゃぁぁぁぁ!!……ぐは」


「うるさい」

「はい、すいません」


「なんだ、チカもトイレか?」

「あ、いや、その……なんでもないのですぅぅぅ!」


 がちゃ、ばたん!


「何なのだ……?犬というのは不思議な生き物だな」



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