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犬耳少女と、月夜の邂逅。

犬耳少女の扱いがペットなので、一応R15ですが、保険です。

過激描写は全くでないはずです。


注)この作品の本来の形は、会話メインです。というか、二話目以降ほとんど会話しか出てきません。

 軽い気持ちでお読みいただければと思います。


 

 ある月の夜。


 その日は満月で、夜空には雲一つ無く、澄んだ空気が肌を刺す。


 青年は誰もいない並木道を、てくてくと歩いていた。

 手にはコンビニエンスストアのビニール袋だ。


 喋りかける相手もいないので、青年はてくてくと、無言で歩いていく。


 そしてもうすぐ家につく、というところで、なにやら不気味な泣き声が聞こえた。


 少女のすすり泣くような声。

 青年はぴたりと足を止める。恐怖からか?いや、否。

 青年の顔には、なんの表情も浮かんではいなかった。まるで生気の感じられないような怜悧な顔は、月 明かりに照らされてその無機質な感じをより一層強くしている。

 青年の長いポニーテイルにした髪が、しゃらん、と揺れて止まった。


 青年はしばし立ち止まった後、声のする方へと近づいていった。

 なぜなら、それは青年の家の前から聞こえていたから。


 一軒家だが、青年一人で住んでいるその家の前には、なにやら大きな段ボール箱が置かれていた。


 すすり泣く声はその中から発せられているようだ。


 青年は厳重に封をされてある――否、側面には数個の小さな穴が開いていた――とにかくその段ボールをじっと見つめる。

 さながら、その中のものを透視しているかのように。


 青年の気配を感じたのか、すすり泣く声はやんだ。代わりに、


「……ぁの、すいません……宜しければここから出していたただけないでしょうか……?」


 という声が、段ボールの中から聞こえてきた。その声はまだ年若い少女の、それも美少女だと確信させるような可愛らしい声だった。


 青年はそんな声をきき、すぐさま段ボール箱を開ける――事はせずに、段ボール箱を軽々と持ち上げ、門を足で開け、庭へと進む。

 人が入っているであろう大きな段ボール箱を、軽々と持ち上げて――このことから青年が只者ではないことが窺える。


 いきなり持ち上げられた少女と思わしき物体はというと、


「……ぇ? え? ……ちょ、なんなのですか……? 急にふわっと」


 と、突然の事態にびっくりしているようだが、暴れてはいないようだった。

 むしろ段ボール箱にかかる力はずしっ、としていて、少女が暴れない、ではなく暴れることもできない、状況にあるかもしれないことを示唆しているのだが。

 青年はというと、そんな声などどこ吹く風とばかりに玄関で段ボール箱を片手持ちに持ち替え、鍵を開け、家の中へと入っていった。



 俺は今、非常に困っている。


 家の前に段ボール箱が置いてあったので、とりあえず中に運びいれたはいいが、なにやら中からは「出してください、出して下さい」と少女の声。

 まさか怨霊の類であれば、ここでうかつに開けることは愚行。

しかし、中の者が純粋に箱に詰められているだけの只の人間なら、その要望に応え箱を開けるべきだろう。

 俺はしばらく箱の前で唸り、そして天啓を得た。

 つまり、


「怨霊の類に重さは無い。ならばこれは質量をもった生身の人間と判断するのが正しいか」


 という訳で早速封を切る。厳重にガムテープで巻かれていたが、懐からとりだした短刀でさくさくと開封作業を進めていく。


 そして段ボールの蓋をあけると、そこにいたのは、やはり人間の少女だった。


 少女はぐったりとしているようで、そう言えば先ほどは聞こえていた声も発しておらず、まるで死んでいるかのようだ。


 まさか、手遅れだったか?

 ふむ、それは残念だ。遺体は庭先にでも埋めておくか。


 そう思い、少女を抱きかかえようとしたその時。

 少女の目がカッ!と開いた。


「……なんだかピンチな気がするのですよっ!」

「生きていたのか」

「いえ、今にも死にそうなのですよ」

「そうか、埋める手間がかかると面倒だ。生きろ」

「埋める!? ひどすぎるのですよ!?」


 ひとまず少女が生きていることを確認した。

 埋める手間が省けたのは有り難いな。

 俺は少女を抱きかかえたまま玄関へと行き、扉を開けて、少女を玄関の外に立たせる。


「冬の夜は寒いのですよ? なにせわたしは、ワンピース一枚しか着ていないのです」

「そうか、達者でな」


 そういって扉を閉めようとするが、その前に少女が、がっ!、っと足を隙間に挟んできた。


「ぁうあう、痛いのですよ……というか、もう、だめ、なのです、よ」


 そのまま扉にもたれかかり、ずるずると座り込む少女。

 この場合は、どうすればいいのだろうか?

 少女を無断で家に連れ込むことは、いけないことだ。だから外に出した。少女も「出して」と言っていたので、きっと自由を求めているのだろう。

 しかし、現状少女は動けそうには見えない状態だ。

 ならばここは「保護」とい名の下、家においても大丈夫なのだろうか?

 いやしかし、そうなると諸々の面倒そうなことが待ち受けている気がするな。

 やはりここは、


「最寄の交番はどこだったか」

「……ぇ」


 俺は再度少女を抱きかかえ、思案した。



 俺は今、非常に困っている。


 少女を交番に持っていこうとしたら、いきなり暴れ始め、俺の家に住まわせろなどと喚く。

 近所の人の目もあるため、一旦家の中に引っ込んだのはいいものの、そこで少女は不遜にも食糧を要求してきたのだ。

 これは、俺が保護するより他は無いのだろうか?


「ふぅ、食った食ったですよ。おにーさん、ありがとうですよ!」

「ああ、まさか家にあった三日分の食糧を全て食べきるとはな。なんて意地汚い。おかげでまた買い出しに行かなくてはならなくなった」

「ぐっ……いや、それはそのー……ごめんなさいなのです」


 反省したように俯き、目を若干潤ませる少女。

 さて、困った。この調子では国家機関に預けるというのも、無理……ではなさそうだが、無理やりはよくないだろう。


 眠ったところを見計らって、届けに行くとするか。


 ふむ、とすると、日々俺達のために働いてくれている国家の狗どもの負担を、少し減らしてやるか。

 俺は少女に話しかけようとして、なんて呼称すればいいのか迷う。

 お前、では高圧的だし、少女、では特定の個人にたいしての呼びかけとしては相応しくない。そうだな、なにか少女の特徴は……あるな。よし、


「犬耳。名前を教えてくれないか?」

「いぬみみ? わたしのことです?」

「そうだ。その頭に生えているものを他にどう呼称しろと?」


 そう、少女の頭には、髪の毛と同色のブラウンの、ふさふさとした犬耳が生えていたのだ。

 ちなみにタレ耳で、最初に見た時はそれがなんなのかわからず、変な髪型だ、と思ったのだが。


「なるほど、なるほどなのですよ。でも、わたしの名前はあるけどないのですよ」

「……? 名前がないのか?その年で?」


 少女の外見は、俺と3つも離れてないように見られる。少なくとも十代の前半ほどではあると思うのだが。


「名前は飼い主さんに新しくつけてもらうものなのですよ。だから、おにーさんがわたしの名前をつけてくださいです」

「飼い主、だと?」

「はい。わたしの飼い主さんは、おにーさんなのですよ。だから、おにーさんが名前をつけるのです」


 飼い主、飼い主か。犬耳が生えているくらいだ。きっとペットの類なのだな、この少女は。

そうすると家の前に置かれていたのは……


「なるほど、捨て犬か」

「捨て犬!? こんな美少女をつかまえて、その言い草はひどいと思うのですよ!?」

「違うのか?ではやはり警察に……」

「さーいえっさー! わたしは捨て犬なのです!」

「そうか、やはりか」


 捨て犬ならば、国家の狗に届ける必要はなくなってしまったな。同じ犬とはいえ、あそこは人間の面倒をみる場所だからな。

 となれば、この少女は私が飼い続けなくてはいけない訳か。

 流石に拾って来たものを無責任に殺すような真似はしたくない。

 そんな奴は人間失格だ。


「よしわかった。では俺が飼い主だ」

「わーい、なのですよ!」

「早速名前をつけるか」

「かわいい名前がいいのですよ!」


 可愛い名前か、そうだな。


「たま」

「それは猫じゃないのですか!?」

「ぽち」

「ありがちですが、あんまりかわいくないのですよ、というかなぜ先にたまがでるのです!?」

「ぱん」

「ぱん!?名前としては微妙すぎるのですよ!」

「ポール」

「わたしは女の子なのですよ!?」

「ミッk」

「それはなんか駄目らしいのですよ!」

「じゃあどんな名前がいいんだ」


 注文の多い犬だな。名前付けだけでこんなに大変なのか。

 この先俺はこれを飼っていけるのだろうか。


「もっとこう、人間らしいような名前が好みなのですよ」

「人間らしいか。では、チカだ」

「チカ……す、すごいまともなのですよ。わたしは今から、チカなのですよ!」

「喜んで貰えてなによりだな」


 ちなみにチカというのは、俺の名前――千日せんかからとっている。俺は人間なのだから、人間らしい名前を求めていたチカにはこれで充分だろう。


「では、これからよろしく頼む」

「はいなのですよ!」



「ではまずトイレの躾からなのだが」

「わたしは捨て犬ですけど、基本的には人間とおなじにかんがえてくださってけっこうですよっ!それは間に合っているのですよ!」

「そうか。ではトイレの場所は教えなくてもいい、と」

「あ、すいませんなのです。場所だけは教えてくださいですよ……」



 こうして、青年とチカの同居?生活は幕を開けたのだった。

 青年は飼い主として、チカを立派に飼い続けることはできるのか。

 その奮闘ぶりは、いかに。



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