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雨音がしたから

作者: ホタル

なんとなく、とにかく書こうと思っただけなんで…

温かく読んでやってください。

 悲しみは突然やってくる。

 それは雨のようだとも思う。

 そしてその雨はいつだって直ぐにはやまず余韻を残す。水溜りだの、雨の匂いだのと色々ある中で、一番悲しみに似ているのは静けさだと思う。雨が叩く音の後には必ず静けさがやって来て、その瞬間油断をしている人は魂を抜かれるのだと。小学生の頃、近所に住んでいたお婆ちゃんがまことしやかに言ったことを、私は未だに覚えているし信じている。

 それはまるで死神の足跡の様でもあると思う。もちろん死神なんて見たこともないし、足跡なんてどんなもんかなんて知っちゃいないけれど、私はどこかで確信していた。

 近所のお婆ちゃんが死んだ日の朝は雨だった。だからきっと油断してしまったのだと思って、私は雨が降るたびにこのお婆ちゃんを思い出して、油断しないようにした。

 だけど、そう思いながらもどう油断しないようにすればよいのか解らないし、中学生になり、さらに高校に入るととにかく忙しくなった。

 テスト勉強をしなければならないし、遊ばなければならないし、そのためにバイともしなければならない。恋愛だってしなければならない。段々とおばあちゃんのことは忘れ、雨は唯のウザい天気となった。

 晴れの日はテンションが高い。友達とカラオケに行ってわんわんと歌い、友達とサイコー!なんて叫んだり、ボーリングに行って、がこんがこんとピンを倒して、大きなガッツポーズをかましハイタッチを交わしたり、渋谷まで片道四十分の道のりを電車で移動しながら下らないことを大声で笑ったり、彼氏とマックで駄弁った後そのまま彼氏の家に行ってセックスして、アイシテル。なんて言いあってお互いの存在や感情を確認したり。いや、これだけは雨の日も変わらないけれど。

 だけど、やっぱり悲しみは突然やってきた

 まずやってきたのは彼氏だった。

「好きな人ができたんだ」

 まるで私のことなんて好きではなかったかのようにあっさりとそう言って私の親友と付き合いだした。

 ポツリと降った雨はじわじわと小さな水の染みを広げる。

 勉強もする気になれず、期末試験で赤点を二つ取った。母親は激怒しバイトをやめさせられた。

 またポツリポツリと心の中で音がした。

 私が何か悪いことをしたの?

 どんなにそう思っても、何も解決せずに、何かが一つ壊れたことで他のことも次々と脆く崩れて行く。

 母親と喧嘩した夜、雨が降った。

 小さく、優しく降る雨は昔近所に住んでいたお婆ちゃんのようだと思った。

 悲しみが急に近づいてまるで深夜の学校の廊下を裸足で歩くようなひんやりとした冷たさが心を襲った。

 死神だ。

 私はそう思った。

 瞬間、お婆ちゃんの声が聞こえた気がした。小学校の頃のお婆ちゃんの話しが頭によぎった。

 ねえ、お婆ちゃん、油断しないためにはどうすればいいの?

 お婆ちゃんはポカポカ陽気な天気のように笑って口を開いた。

 なに、簡単なことだよ。泣けばいいんだよ。

って。悲しみの感情を表に出せばいいのだと。

 だから私は泣いたんだった。いつからか泣かなくなったのだろう。

 静かに聞こえる雨音が優しく暖かい。

 私は泣いた。

 雨の音が聞こえないくらいに。

 そしてお婆ちゃんの七回忌には挨拶に行こうと思った。 


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― 新着の感想 ―
[一言] 印象的なタイトルに惹かれ、読んでみてさらにタイトルが深くなるような素晴らしい作品でした。お婆ちゃんの言葉や、生きる事に精一杯で涙を忘れてしまう思春期の切ない内容がとても瑞々しかったです。
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