〈第五章〉 神の行く道は○○へと続く
「あ゛ぁず〜い・・・アルク君、お水持ってない?」
「ハイ。」
彼の手に握られたコップには、文字通り、水が湧いて出てくる。
「ありがとぉ」
もう、気にもならない、見慣れた光景。
今はそれよりも、この暑さに驚きだ。
あたしは、色白い小さな手からコップを受け取り、慌てて飲み干した。
生き返る。
遙か頭上には、巨大な太陽。
周囲は、果てなく続く、砂の溜まり。
あたしの下には、鋼の硬度に匹敵する、黒鱗。
ステルコットだ。
隣のアルクも、同じように、この戦闘生物に跨っている。
水も、食料も無い旅だったが、必要なときには『出てくる』。
比較的、快適な旅だった。
「そんな・・あたしが、お姫様なんて・・・・・・本当なんですか?」
「ええ。何故、神である僕が、こんな場所に居ると思っているんです。僕は、スティさんを、無事に首都の王城に連れて行くつもりで迎えに来たんですよ。」
「でも、連れて行ったって・・・・どうすれば?」
「城には、まだ国の高官が生きて、姫の帰還を待っています。誘拐でしたから。あなたが、さらわれた後、そこには、《姫は、何時か必ず返す。それまでに、国を滅ぼすような事は、するな》という置き手紙が、残っていたそうです。身代金も、何もなかったので、おそらく、それは本当だろうと言うことになり、王家交代はされず、今は、代理人の方が、政治を行っています。だから、早く、貴方を連れて帰らなければ」
「そんな・・・でも・・なんでそんなことを・・・」
「いいですか?王家の場合、姫の代役が、政治を行えるのは、女王が18歳未満であることが条件なのです。今日から、約2ヶ月後、それが貴方の18歳の誕生日であり、この国の最後の日の予定日なのですよ。」
「この国・・・・・最後?」
「この国は、国連、つまり国際連盟に加盟しています。その場合、この国に手を出す・・戦争、侵略行為などが行われた場合、国連軍が、その敵国の殲滅を行ってくれます。だが、王女がおらず、18歳を越えた場合、この国は強制的に連盟を脱退させられ、国としてのまとまりを失う。」
「・・・・・・・・・・と言う事は・・・」
「ええ、この国はあっという間に、近隣諸国の植民地ですね」
先程のアルクの言葉が頭を木霊する。
自分が姫だと言うことは、この際信じるとしよう。
なにせ、相手は神だ(多分)。
だが、国が滅びるというのは信じられない。
もちろん、王がいないこの国は、もう滅んでいるモノと考えていたが、それと植民地とは、話が違う。
それだけは避けたい。
「ね、ねぇ・・・・後どれくらいで着くのかな?」
「そーですね・・・・・・・・♂の速さが時速10キロメートル程だと考えて・・一日の移動時間が・・15時間くらい?で、え〜と・・・」
指を折りながら計算を行う男の子を微笑ましく見守る。
結果は数十秒ごに出た。
「約2ヶ月ですかね」
となると・・・・約一ヶ月の余裕か。
(あ、そうだ忘れてた”!!)
言わなくてはならない事が有りましたね。
『♂』とは何か・・・
それは、彼の乗っている黒鱗の馬の事です。
ちなみに、名前の由来は不明。
「・・・・・そうですか、じゃ、あの一番おっきいのに僕乗りますから、スティさんは好きなの選んでください。」
「え〜と、じゃあ、この子で。」
「可愛い子ですね。・・・傷だらけで。」
「その子だって、負けず劣らずに鱗剥がれてるじゃない」
「・・・・・・・・・・・・男の勲章!!」
「・・・・オス?」
「細かいことは気にしな〜い。よし、お前の名前は、今日から、『♂』だ!!」
「え?何で読むのか分からないよ!!」
「『血の国より、神に召し居た地獄の番犬、黒鱗の馬刺』・・を略して『♂』。」
「番犬って犬じゃないよ!ってか、唯一の『馬』って文字が、『馬刺』!?・・・で、略しになってないよ!!」
「で、スティさんの方の名前は?」
「あ、あっさりかわされた!!」
「なぁ〜あ〜に?」
「何その、朝からランドセルからって、玄関先で友達に呼びかけるような声は?」
「もう、いい加減に答えてくださいよ」
「えぇ・・・っと、じゃあ・・・『くろうま』?」
「え〜何か、どっかで呑んだお酒みたいな名前ですね」
「じゃあ、『イッカクジュウ』」
「だめ」
「『ブラック』」
「え〜」
「『ポニー』」
「NO」
「じゃあ、何が良いの?」
「『ディープインパクト』」
「だめよ、そんな大きな名前付けちゃ、プレッシャー感じちゃうでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・名前負け・・・?」
「じゃあ、この子の名前は・・・・」
「モルニー、もうちょっと早く歩いて。出来るだけ余裕で着いた方がいいと思うから」