〈第一章〉 白き目覚めの時
目を開くと、彼の瞳は一瞬で、純白の光に呑み込まれた。
ここは・・・・
訳も分からず周りを見回してみるが、写し出されるのは、白色の輝きのみ。
自分はどうやら眠っていたようだ。
そこで、ようやく自分の置かれている状況を理解し、疲れを感じている目を閉じた。
もう、そんなに経ったんだなぁ・・・・
悲しさと期待の入り交じったその思考の中、嫌がる足を無理矢理に持ち上げる。
「825年・・・・人間はどうなったかな・・・」
ため息と共にそう呟くと、腕を、肩のところまで引き上げる。
頭でも掻くのかと思いきや、次の瞬間、その腕は白い空気を切り裂き、弧を描きながら
振り下ろされた。
「じゅんび完了!」
あらぬ方向へ飛び出した、流れるような銀髪。淡いグレーの瞳。色白い肌。
これら全ての条件をみたす、見た目10歳ほどの男の子は、先程まで塵一つ無かっ
た空間に突如出現した。
「うん。バッチリ。やっぱりこの格好が一番だなぁ・・・実年齢、感じさせないし」
幼げな声でそう言う少年の服装は、長袖、長ズボンの黒上下。
未だ、白色に支配されれる、この部屋の中では、黒子の様に目立っていた。
この事に対し、普通、驚かないハズは無いだろうが、そんな間も与えないかのように、
少年は、手を挙げ、腕を真っ直ぐに伸ばす。
「待ってるかなぁ・・・はやく行ってやろぉ」
自分の指の先を見つめ、口元をゆるませた。
何処か楽しげな少年の瞳が、突然、グレーから漆黒に輝く。
その間も、手のひらは、何もない前方を静かに見据え、微動だにしない。
どのくらい経っただろうか、しばらくの間、沈黙を守ってきた小さな口からは、さっきまでとは違
う、堂々とした音の言葉が唱えられた。
それは、もはや幼さを感じさせる声などでは無い。
全てを支配する、『神のコトバ』。
【神界より生界に繋がりし、扉よ、今、99神年の眠りから目覚め、我が身を『神殿』
へと送れ。】
その言葉はすぐ、白い空気の中に吸い込まれ消えていった。
瞬間、空間が歪みだす。
激流の様な風が吹き荒れ始め、少年の髪を洗う。
それでも、その口が止まることは無かった。
【我が名は、『創世神 アルク』】
叫ぶように発せられた、この言葉のあとに続くかのように、地面が揺れを起こしだす。
それと同時に、何かが現れた。
地面から出てきたと言うより、空気がそのまま固体化したような現れ方をして。
それは、眩しい程に、金色の光を放ち、全てを包むかのような巨大さを誇っていた。
黄金の、高さ10メートルはあろうかという、巨大な『扉』
その中へ、少年は、落ち着いた足取りで足を踏み入れ、すぐに見えなくなった。
彼が先程発した名が流れ出て、木霊の様にどこまでも反響して終わらない。
ただ、どんなに言葉が残っていても、そこに、音源である少年の姿が残っている訳では
無い。
少年の存在は、この部屋から、完全に消え失せていた。
残るは、白い空間と、その名の余韻のみ。