第七話 告白
「ペッ……ペガサスッ………!!?……マジかよ………!!………………………………ゴホンッ!ヨシヒロ!!ユウキ!!俺はペガッ…ンオホンッ……空賊になる!!俺は美人な空賊の美人リーダー美人なルーフの右腕になるッ!!ヨシヒロ!!ユウキ!!まだ!!左腕、右脚、左脚が空いてるぞッ!!お前らも好きなとこになれッ!!一緒に空賊やろうッ!!」
右脚左脚って……。空賊のリーダールーフは合体ロボか何かか?「彼はリーダーの右脚として活躍した」なんて言い回しはねェ……。それと、一回ペガサスになろうとしなかったか?なんてツッコミはしない、しなくていい。この会話自体、乗らなくていい。
ダイヤは直近でその身に起こった事に意識を持ってかれやすい。
もう既にユウキペガサスに興味をそそられているし、おそらくダイヤの脳内は「自分が空賊やりたいからヨシヒロとユウキも空賊に誘う」ことに意識が向いているとかだろう。
だったらそれを上書きしてしまえばいい。そっから流れでこっちに連れ戻す!
「ダイヤ!!俺!!この件が片付いたらココに告白するから!!」
「ええッ!!?な、なんで!?」
「ええっ!!」
「……!!」
「マジか……!!」
ハイ釣れたー。………あれ?四エルドラドも釣れた、大漁だ。……いや、ユウキお前は釣られんな。ユウキペガサスの首を強めにバシバシと叩いておく。
「だって、どう見てもココはダイヤのこと好き好きなのにダイヤが空賊のその……ルーフ…?さん…?についてくって、ココ争奪戦から降りてくれるみたいだから。だったら俺がココに告白しようかなって……」
「ぼ、僕も!!こ、こココにこ告白するッ!!」
「ええッ!!?」
ユウキも乗ってきた!いいぞ!
「こ、ココとダイヤが好き同士っぽかったから、ダイヤが告白したら、みんなのココがダイヤだけのココになっちゃうと思って焦って阻止しようとしちゃったんだ!!ゴメン!!」
「ええッ!!?そ、そうなの……?」
いいぞいいぞ、ダイヤの頭ん中の空賊とペガサスをココとココに告白する俺達で押し退けていけ!そのまま占拠しろ!
「ダイヤ!!お前、孤児院戻んねェとホントに俺達ココに告白しちまって付き合っちまうぞ!!いいのか!?」
煽りに反射で「孤児院に戻る!!」を期待した俺の言葉だったが、予想に反して、ダイヤは空賊のリーダールーフを見上げた。
なんだ?なんでだ?今日、自分を拉致した相手に対して一目惚れはまぁ、まぁまぁ、ダイヤだから百歩譲って納得できる……、として……なんで、そこまでルーフに気が向いている……?ルーフの何がココとの天秤を拮抗させている………?
…………………ああ、そうか!
俺が納得すると同時にユウキも俺と同じ道を辿ったらしい。
「幼稚園のはなちゃん先生、小学校の和泉先生、中学の時の教育実習のさやか先生、そして、ココ。ダイヤはこれまで大人の女の人を一方的に好きになってきた…………でも、今回のルーフはそうじゃなかった、一方的じゃなかったんだ!大人の女の人からの初めての大アプローチ〝誘拐〟があったんだ!それこそがダイヤにとっての重大事件!!ココと迷う程の!!」
いや、バカかよ……。いや、バカがよ……。誘拐だぞ?拉致だぞ?犯罪だぞ?普通、アプローチだなんて思わないだろ、普通……。
あーーもうッ!!仕方ねェな、ココとの七年を信じて、ダイヤ自身に今すぐ答えを出させてやるしかねェ!!
「ダイヤ!!!お前!!!ココとルーフ!!!どっちが好きなんだ!!?」
「そりゃあココだけど」
即答だった。
「ブッッハッハッハッハッ!!そりゃあ、ココとルーフ、どっちも知ってる奴にどっちが好きかを問えば、十割十分ココと答えるだろうよ!!ハッハッハッハッハァーー!!ルーフ!!子どもにフラれてどんな気分だ!!?ああ!?」
笑ったのは俺じゃないぞ、もちろんユウキでもない。
煽ったのも俺じゃないぞ、もちろんユウキでもない。
海賊コーナー・L・ドラド先輩だ。コーナー先輩が初めて海賊の大男らしくデカい体を揺らして大笑いした。
ブチンッ
何か聞こえた……?気がした、いや空耳か。
ルーフは感情の無い真顔でコーナー先輩を見ている。
太陽が雲に陰ったようで日差しが薄らいだ。暗くなっていく。
なんだ?急に雲が出てきた………な!?雲がッ!!尋常じゃない速度で空を流れていく!?いや、違う!!見える範囲の空から全ての雲が一ヵ所に集まってきている!!ルーフの頭上にッ!!
だんだんと積み重なっていく雲の底面はやがて太陽を拒絶する色と成った。
ジジジジ………ジジジジジ………
塊となった雲の中で雲と雲とが擦れ合っているのだろう、フラストレーションの溜まっていく音が聞こえる。
え……?これって………え?ルーフの……?いや、でも、ルーフは〝風の魔技〟使いじゃ………?
「無差別だッ!!!逃げろッ!!!ルートッ!!!」
コーナー先輩の声にハッとする。ユウキペガサスはあの雲から離れるように空を踏んで横に跳ねるように走り出した。俺は乗っているだけ、やれることは………
「ダイヤッ!!!!離れろッ!!!!」
「え?…………なにこれ?」
ダイヤは俺の尋常じゃない目線を追って自分の頭上の天変にようやく気づいたらしい……。いや、暗くなってきてただろうがッ!!!
ルーフの口から風にもならない空気が吐き出される。
「はぁーーーーー、決して誰もココの一番に成れはしない…………。そして、貴様はここで死ね、海髭達磨
アアアアア!!!!〝風から雷へ〟!!!!」
ヴァッ!!!!
太陽と対極の色をした雲塊が創世のような光を放つ。
視界は白に呑まれ、音は途切れ、数秒の間、それ以上の情報を知覚出来なくなった。
視界に焼き付いた白く強い光が俺から世界を隠した。耳には轟音の残響を最後に新たな音は届かない。方向も平衡感覚も何も分からなくなった。
だが、浮遊感はある。ユウキペガサスの背中に俺は接している。ここに居さえすればなんとかなる。ユウキペガサスの空を駆ける動きに連動して上下に揺れる。俺に触れる空気が風になるのを感じる。あとは
ヴァリッ
「ッ!!!!」
「あ」
やっちまったッ……!!
「ヨシィロッ!!?どこ!!?」
「うわッ!!ああああああああ!!!」
やらかした……!!ユウキペガサスの急な動作に反応できずに振り落とされちまったッ……!!
俺は落馬した、ユウキペガサスの背中から空へ。
二度目の空中落下。
眼を強く瞑って開いても世界の輪郭はぼやけたまま……耳をすましても轟音の余韻を乗り越えてくる音は聞こえてこない……視覚も聴覚もまだ回復してない………
ユウキペガサスは視野の拡張と視力の強化をしたって言っていた………おそらくユウキもあの落雷を直に見ちまってる………なら、俺と同じ視界状態………俺を探し出すのは困難………どうする……?
俺は叫んでる、この叫びを頼りに………いや、ユウキも落雷の轟音を耳に喰らってる………どうすれば……
下から上へ風が俺の皮膚を焦がす勢いで摩擦していく。
何も分からない中、ただただ下に海に落ちていく事だけが分かる。
絶望、詰み、海に落ちる、死、これらの答えに思考が支配され、半ば諦め受け入れ始めようとしていた、その時
シュルルルルル…………グルンッギュムッ
「!!?」
落下が止まったッ……!!?何か紐状のモノが俺に巻き付いてきて、落下が止まったッ……!!!助かったッ……!!
けれど、落下の勢いは死に切らずに俺の体にその紐状のモノが食い込んでいく。ぐ、苦しい……。が、そんなのはマシだ、海に叩きつけられて死ぬよりはるかにマシだ。
ザザァ……ザザァ……
海が近い……。ホントに危なかった、助かった……。
あ、耳が、回復してきてる……。そして、その耳に知ってる声が届いた。
「―――粘着帯マン〟!!!」
声のした方を、上を見上げた。まだ見えはしないが、この二つの世界がズレて重なったように見える世界を二分する一本の黒い線、その先にいるんだろう。
「ダイヤッ!!!!」
無事だったか。良かった。
空中落下の次は空中ブランコだった。ダイヤもとい、粘着帯マンが上でビニールテープを巻き取っていってるのだろう、粘着帯マンの小さな動きがここ先端では大きな揺れる力に変わる。酔いそう。
上に引き上げられるに連れてだんだんとダイヤらしきぼやけた輪郭が見えてきた。そして、気がついた。ダイヤがユウキペガサスの背中に跨がっている事に。
ユウキも無事だったようだ。良かった。
だけど、それならユウキが俺を回収に来てくれても……いや、まだ視覚と聴覚が回復していないのかもしれない……
それにしても二人で何かはしゃいでいるような感じがする。
「ダイヤ!!ユウキ!!助かっ」
「避けろッ!!!ヨシヒロッ!!!」
「ヨシヒロッ!!!避けてッ!!!」
ええ!!?何をッ!!?避けるったって……避けるも避けないも今、俺身動きとれないんだけど……、そんな考えの過った頭を棒が掠めた。紫色の棒だった。
『……アカガ……!!!』
「うわあッ!!!紫の悪魔ッ!!!」
急に目の前に現れた紫の悪魔。
空中ブランコの揺れのおかげで偶々偶然避けられた。危なッ……
空振った棒が俺を吊るすビニールテープに当たって激しく揺れる。
次の攻撃に備えて思考を巡らすも、その時は全然やってこなかった。…………ん?紫の悪魔の追撃が来ない、転移もしない、目の前にいるまんま。
棒の方を目線で追って理解した。こいつ、棒がビニールテープに絡まって取れなくなってる!!!棒を捨てられず諦められずにいる!!!これはチャンスッ!!!引き上げろッ!!!と叫ぶよりも先に俺は引っ張り上げられていた。
「一本釣りィィッヤッオラァアア!!!!」
「ちょッ!!!!まああああああ!!!!」
いや、そのつもりだったけどさ、全く俺のタイミングじゃないッ………!!
俺はロケットとかミサイルとかと同じ軌道を空に描いた。
俺と紫の悪魔はあっという間にダイヤとユウキペガサスを追い抜いて上空へと吹き飛ばされた。
ユウキペガサスに跨がるダイヤが俺をエサにして紫の悪魔を釣り上げている絵面だ。
紫の悪魔が棒をテープに置き去りにして別方向へ飛ばされていったのが見えた。チッあのまま捕まえられてたなら……。
「ダイヤッ!!!あの紫のヤツ、倒して捕まえろッ!!!」
「ポ○モンッ!!?」
「違ェよッ!!!バカッ!!!あれ!!!赤い玉ッ!!!」
「どういう……??〝超人変身・両手拳銃マン〟!!!!」
俺の命綱、ビニールテープが消えた。紫の棒が海へ落ちていく、数秒後の俺を暗示するかのように……。
「バカ、ちょッ……!!!」
三度目の空中落下、………にはならなかった。ダイヤ、もとい両手拳銃マンを乗せたユウキペガサスが俺を拾ってくれたから。
「ヨシヒロ!!!」
「ありがとう!!!ユウキ!!!」
俺は両手拳銃マンの前、ユウキペガサスの首を抱き締める形で収まった。ユウキペガサスの背中の安心感がすごい。
「おいおい、一個前にお前を助けたの、俺だぞ?」
ダイヤが左手の銃口を紫の悪魔に向けながら俺の頭を右手の銃でコンコンと突いた。
「ああ、ありがとう。で、あの紫のヤツがお前が孤児院の地下で盗った赤い玉な?赤い玉が赤い悪魔になって赤い悪魔がこの海にあった青い玉を取り込んであの紫のヤツになりました。」
「なんか圧が……。てか、盗ってないってェ!!!」
「とっとと取っ捕まえて孤児院に帰るぞッ!!!」
「はいッ!!!」
ダイヤは両手の拳銃を構えた。
「ダイヤ!!左前!!」
「オッシャ!!」
バンッ!!
外れ。
「ダイヤ!!右前!!」
「オラッ!!」
ババンッ!!
外れ。
「ダイヤ!!右上後ろ!!」
「コナクソッ!!アアアーーー!!!」
バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!バンッ!!
外れ。全く当たらない。余裕な様子で避けられる。俺とユウキが紫の悪魔を見つけて方向を指示して、ダイヤがそれを聞いて狙って打つんじゃ全然遅いんだ。紫の悪魔は転移か瞬間移動をしているから。
「ヨシヒロ!!!お前、なんかねェのかよ!?本当に特別な能力貰ってねェのか!?あっちで死んだ後、神に会ってねェのかよ!?ヨシヒロ!!!」
いや、だから、散々言っただろ、俺に特別な能力は無いって。
「…………」
「ヨシヒロ……!!」
何でこいつら俺が特別な能力を持ってるって信じて疑わねェんだよ!?
「ヨシヒロッ!!!」
あああーーーー!!!もうッ!!!
「…………会ったよ、俺も。神を名乗る爺さんに……」




