第一話 大当たり
通勤電車。
朝から競争に負けた俺はつり革と床とをキューピッドのように必死につなぎ止めている。
電車内であろうと構わず喋る者はいる。
「おはよー」
「はよー。ねむぅふわ~~あ」
「あくびヤバてかさー」
学生か。学生は朝から元気そうだな。
何の情報も持たない音が電車内を通りすぎていく。
「通り魔この辺しょ?」
「それー」
物騒だな!?
「けどうちらならダイジョーブしょ。死ぬにはまだ早すぎー」
「マジそれー」
このあと死にそうだな!?
いやいや、通り魔被害に年齢関係ないだろ。
というか、死に年齢なんて関係ない。
あれは理不尽で突然だ。
我が人生のハイライト学生時代はそれによって突然、幕が下りたのだから。
俺には親友が二人いた。いたんだ。
二人とも幼馴染みだった。
一人は幼小中高と一緒だった。生まれた病院まで同じだった。
彼はスタメンにギリギリ選ばれないサッカー少年だった。試合の後半で登場してくる事が多かった。
明るくてムードメーカーで友達が多かった。
最期の一年はずっと病院のベッドにいた。
血液の病気だった。
顔を見に行けば笑顔を交えてしゃべってくれた。
高二の夏、彼はこの世を去った。
病床でついぞ彼は涙を見せなかった。
もう一人は図鑑が愛読書だった。
三人の中で一番最初に電子辞書を手にしていた。
細かいところによく目が届く気配り屋だった。
中学卒業後、親の転勤に際し、お小遣いでは気軽に会いに行けない程の距離の高校へ進学した。
高二の秋、彼は自ら命を絶った。
いじめに悩んでいたとニュースで知った。
数日後、俺宛に手紙が届いた。差出人不明だった。
「ごめん」とだけ書いてあった。
丸い水滴が乾いた跡があった。
以来、人生が楽しくない。楽しんでいいはずがない。楽しめるわけがない。
何故彼らが死んだ?
何故俺は生きている?
何故俺は死んでいない?
答えなんかいらない問答を永遠に永遠に繰り返し続けている。
あああああああああああああああああ――――――楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しくない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない楽しんではいけない
『霞ヶ関~霞ヶ関~』
ハッ
顔も知らないいつもの声が、いつもの場所へ俺を呼び戻した。
あの宝物のような日々の余力で俺は今、かろうじて死んでいない。今日も死んでいない。
電車を降りて人混みの人間分子のひとつとなって流されていく。
流れる先に流れに逆らう黒い石のような人が見えた。
避けようと心掛けるも、うまくはいかず軽くぶつかった。
トンッ
「あすみませ」
自分自身何と言ったかも覚えていないような反射の謝罪の最中、
ッ!?
ベルトの金具が腹に直接触れたような冷たさに驚いた。直後、自分の体温と似た温度の水がそこを濡らし広げていった。
その違和感へ向けようとした視界は言う事を聞かずに世界を激しく揺すった。
やがて、俺は地面とも分からない底面に突っ伏した。
カランッカッカッタタン
目の前に降って落ちてきた鋭利な光は赤く濡れていた。
俺かよ。
俺は死ぬ。不思議と痛くも怖くもなかった。
ダイヤ………
ユウキ………
俺もそっちに………
俺は死んだ。
ん………。夢を……見ていた……気がする……。眠い……。
何かに包まれている……。花開く前の蕾にでもなった気分だ……。
何がどうとか、どういう状況とか考えるよりもとにかく眠い………。めちゃくちゃ眠い………。
本当に植物になのかもしれない……。植物は常に睡眠状態だという説を聞いたことがある……。
そう思うと、土と木の臭いがしてきた気がする…。
「お婆ちゃーーん!!!こっちーー!!!」
!!!?
声デカッ!!?
子どもか。ものすごく近い。耳元くらい近い。
「婆ちゃーーーん!!!!はやくーーー!!!!」
ちょっと離れた所から別の子どものさらにデカい声が近づいてくる。
その子どもは誰かを先導しているようだ。おそらくお婆さん。
「ゲート!ロード!どきな!」
お婆さんぽい声が聞こえると同時に浮遊感を覚えた。
「ああ……!この子は……ルート!……ルートだよ!ゲート、ロード、新しい家族だよ!」
ゲート:門、ロード:道、ルート:根
俺は拾った子どもに拾った場所の名前をつけるタイプの孤児院に拾われた。




