第六章 町から夜が消える日
その日は、
朝から夜のようでした。
空は明るいのに、
風は冷たく、
影が、どこにもありません。
町の心ぞうは、
今まででいちばん速く回っていました。
ごうん、ごうん、と
低い音が、
地面の下から響いてきます。
大人たちは、
広場に集まっていました。
「これで、完成だ」
「もう、暗くならない」
「不安も、さびしさも、終わりだ」
リオは、
その輪の外に立っていました。
胸には、
あのびん。
中には、
たったひとつのキラキラ。
「……これで、ほんとにいいの?」
だれに聞いたのか、
リオ自身にもわかりません。
そのとき、
心ぞうの前に、
黒い服の人が立ちました。
「最後のキラキラを、
装置に入れろ」
リオの手が、
少し震えました。
「それを燃やせば、
夜は完全になくなる」
「町は、
ずっと明るいままだ」
大人たちが、
うなずきます。
「安全だ」
「便利だ」
「正しい」
その言葉のあいだに、
リオは、
小さな声を聞きました。
「……リオ」
ふり向くと、
影のない地面に、
うっすらと、
人の形が浮かんでいました。
ルナでした。
前よりも、
ずっと薄く、
今にも消えそうです。
「夜はね」
ルナは、
とても小さな声で言いました。
「こわいけど、
やさしいの」
「泣いても、
だれにも見えないから」
「だから、
心は、
夜に休める」
リオは、
びんを見ました。
たったひとつの光。
弱くて、
役に立たなくて、
でも――
胸が、痛くなる光。
「……もし、返したら?」
「夜は、戻る」
「でも、
町は暗くなる」
「さびしくなる」
リオは、
町を見渡しました。
明るい道。
止まらない装置。
でも、
だれも空を見ていません。
「……さびしいのって」
リオは、
びんを強く握りました。
「悪いことじゃ、
ないよね」
だれかが、
何かを言おうとしました。
でもその前に、
リオは走り出しました。
心ぞうの前で、
立ち止まり、
びんのふたを開けました。
「やめろ!」
大人の声。
でも、
リオは聞きませんでした。
びんを、
空に向けて、
傾けました。
――ぽとり。
最後のキラキラが、
落ちました。
地面に触れる前に、
それは、
ふわりと広がりました。
光は、
燃えませんでした。
空へ、
溶けていきました。
その瞬間、
心ぞうが、
止まりました。
音が、
消えました。
町に、
影が、
戻ってきました。
ゆっくりと、
やさしく。
空が、
暗くなりました。
だれかが、
息をのみました。
「……夜だ」
星は、
まだありません。
でも――
空から、
小さなものが、
ひとつ、落ちてきました。
キラキラ。
それは、
はじまりの光でした。
リオのとなりで、
ルナの影が、
少しだけ、
はっきりしました。
「ありがとう」
彼女は、
そう言いました。
夜が、
町に、
帰ってきたのです。




