第五章 キラキラが見えなくなる子ども
それは、ある朝のことでした。
リオは、目をこすりました。
窓の外は、いつもより明るいのに、
どこか色がありません。
丘へ向かう道で、
リオは立ち止まりました。
「……ない」
空から、何も落ちてきません。
夜だったはずなのに、
星も、影も、
キラキラも。
「ルナ?」
呼んでも、
返事はありません。
広場に行くと、
町の心ぞうが、
いつもより速く回っていました。
光は強く、
まぶしくて、
目が痛くなるほどです。
大人たちは言いました。
「よくなった」
「暗さが減った」
「夜はいらない」
でも、
子どもたちは、
どこか静かでした。
リオは、
ルナのことを探しました。
丘にも、
倉庫にも、
どこにもいません。
代わりに、
丘の草の上に、
あのびんだけが置いてありました。
「……空っぽ?」
ふたを開けても、
何も光りません。
そのとき、
胸の奥が、
すっと静かになりました。
あたたかさが、
消えていく。
「……見えない」
リオは、
キラキラが、
見えなくなっていることに気づきました。
こわくはありませんでした。
むしろ、
楽でした。
考えなくていい。
感じなくていい。
「これで……」
そのとき、
びんの底で、
小さな音がしました。
――からん。
ひとつだけ、
とても弱いキラキラが、
残っていました。
「……あ」
それは、
夜みたいな光でした。
強くも、
まぶしくもない。
でも、
目を離すと、
消えてしまいそうな光。
リオは、
それを手に取りました。
すると、
胸が、痛みました。
うれしくて。
さびしくて。
こわくて。
「……この感じ」
リオは、
思い出しました。
夜に、
空を見上げていた自分。
だれかと、
並んで座っていたこと。
「ルナ……」
町の放送が、
静かに流れました。
「本日をもって、
夜間照明の完全化が完了しました」
「これより、
夜は不要となります」
その言葉と同時に、
空が、完全に明るくなりました。
影が、消えました。
リオは、
びんを胸に抱きました。
「……なくなっちゃう」
キラキラが。
夜が。
大切に思う気持ちが。
そのとき、
丘の向こうで、
影が、ひとつ動きました。
月の光みたいな髪。
「……ルナ?」
彼女は、
少しだけ、透けていました。
「リオ」
声は、
風みたいに軽く。
「わたしね、
見えなくなったの」
「え?」
「キラキラを、
集めすぎたから」
ルナは、
やさしく笑いました。
「集めた人は、
夜に近づくの」
「だから……
町から、
はなれないといけない」
リオは、
思わず手を伸ばしました。
でも、
触れません。
「でも、
そのびん」
ルナは、
リオの胸を指さしました。
「最後のひとつ」
「それを、
どうするかで、
夜は決まる」
「……どうするの?」
ルナは、
空を見上げました。
「返すか、
燃やすか」
光のない空に、
かすかな影が、
揺れました。
それは、
選択の形でした。




