第四章 ルナのびんのひみつ
そのびんは、
どこにでもあるように見えました。
少し欠けたふち。
くもったガラス。
ふたは、何度も開け閉めされたせいで、
きしむ音がします。
「ねえ、ルナ」
帰り道、
リオは、ずっと気になっていたことを聞きました。
「そのびん、
いっぱいになったら、どうするの?」
ルナは立ち止まり、
空を見上げました。
まだ昼なのに、
空はどこか夜の色をしています。
「いっぱいには、ならないよ」
「え?」
「キラキラってね、
入れすぎると、
変わっちゃうの」
二人は、
町の外れの小さな丘に座りました。
草は短く、
風はやさしく、
だれも来ません。
ルナは、びんのふたを、
そっと開けました。
すると――
光が、外にあふれ出しました。
でも、逃げません。
キラキラは、
空気の中で、
やわらかくほどけていきました。
「消えてる……?」
リオが言うと、
ルナは首を振りました。
「帰ってるの」
「どこに?」
「心に」
キラキラは、
目に見えないほど小さくなって、
風にまじっていきます。
そのとき、
リオの胸が、ふっとあたたかくなりました。
理由は、わかりません。
でも、
とても大切なことを、
思い出した気がしました。
「ねえ、リオ」
「なに?」
「キラキラはね、
集めるためにあるんじゃない」
「じゃあ、なんで?」
ルナは、少し笑いました。
「返すため」
「捨てられた心に、
そっと、もどすの」
リオは、びんを見つめました。
「じゃあ、町の心ぞうは……」
ルナの顔が、少しだけ曇りました。
「あれはね、
キラキラを、燃やしてる」
「……燃やす?」
「光に変えて、
動力にしてる」
リオは、
胸の奥が冷たくなるのを感じました。
「それって……」
「うん。
だから、夜が短くなる」
ルナは、びんを抱きしめました。
「キラキラは、
夜がないと、落ちてこない」
「夜は、
心が静かになる時間だから」
丘の向こうで、
町の装置が、低くうなりました。
昼なのに、
少しずつ、
影が薄くなっていきます。
「ねえ、リオ」
ルナは、まっすぐに言いました。
「このままだと、
キラキラは、
ぜんぶ燃えて、
ぜんぶ消える」
「そしたら?」
「だれも、
さびしくなくなる」
リオは、はっとしました。
「それって……いいこと?」
ルナは、首を振りました。
「さびしくなくなるのと、
大切に思わなくなるのは、
ちがう」
びんの中で、
残っていたキラキラが、
小さく光りました。
それは、
警告みたいにも、
願いみたいにも見えました。
「わたしね」
ルナは、
とても静かな声で言いました。
「夜を、
取り戻したい」
リオは、うなずきました。
「……ぼくも」
その瞬間、
ふたりの足元に、
小さな影ができました。
昼に戻ってきた、
最初の夜のしるしでした。




