第三章 キラキラを捨てる人たち
町のはずれに、
だれも近づかない倉庫がありました。
昼間でも暗く、
窓は高く、
中の様子は見えません。
「ここね」
ルナは、小さな声で言いました。
「捨てられるキラキラが、
最後に来る場所」
リオは、胸のびんが少し重くなるのを感じました。
まだ入れてもいないのに、
心が先にいっぱいになったみたいでした。
二人は、そっと扉を開けました。
中には、
たくさんの箱が積まれていました。
ガラスの箱、鉄の箱、
ひび割れた古い箱。
どの箱の中にも、
かすかに、キラキラが残っています。
「こんなに……」
「前は、もっと光ってたよ」
ルナは、床に座り込みました。
「でもね、
大人になると、
光がまぶしくなるんだって」
「まぶしい?」
「うん。
キラキラを見ると、
思い出しちゃうから」
リオは聞き返しました。
「なにを?」
ルナは、少し間をあけてから言いました。
「泣いたこと。
失敗したこと。
だれかを好きだったこと」
倉庫の奥で、
箱がひとつ、音を立てました。
そこには、
昼の広場で泣いていた男の人がいました。
彼は箱を抱えて、
小さくつぶやいています。
「いらない……
こんなの、役に立たない」
その箱のすきまから、
キラキラが、もれ出していました。
とても弱く、
でも、必死に光っています。
リオは、思わず声を出しました。
「捨てちゃだめです!」
男の人は、びくっとしました。
「……子ども?」
「それ、心の光なんでしょ」
男の人は、笑いました。
でも、それは笑顔ではありませんでした。
「心なんて、
あると、つらいだけだ」
「でも……」
「守れなかった。
失った。
後悔した」
男の人は、箱を見下ろしました。
「だから、捨てるんだ」
そのとき、
ルナが静かに立ち上がりました。
「……わたしも、捨てたことがある」
リオは、はっとしてルナを見ました。
「わたしの家ね、
夜が好きだったの」
ルナの声は、
とても静かでした。
「みんなで空を見て、
キラキラを数えて」
「でも、ある夜、
お父さんとお母さんが、
キラキラを見なくなった」
「仕事で、
忙しくて、
見るのをやめただけって言ってた」
ルナは、びんを見つめました。
「でもね、
次の日から、
夜が少しずつ、
短くなったの」
リオは息をのみました。
「町の心ぞうが、
キラキラを使いすぎた夜だった」
ルナは続けます。
「家の明かりは明るくなった。
便利になった。
でも――」
声が、少し震えました。
「キラキラが、
落ちてこなくなった」
倉庫の中で、
小さな光が、ひとつ、消えました。
「わたしは、こわくなって、
ひろいはじめた」
「捨てられる前に。
消える前に」
男の人は、
しばらく黙っていました。
そして、
箱を床に置きました。
「……重かった」
「え?」
「捨てるって、
思ってたより、重かった」
箱のふたを開けると、
中のキラキラが、
ほんの少し、明るくなりました。
ルナは、そっとびんを差し出しました。
「まだ、間に合うよ」
男の人は、
ゆっくりとうなずきました。
その瞬間、
倉庫の天井から、
一粒、キラキラが落ちました。
とても小さく、
でも、確かな光でした。
リオは思いました。
大人たちは、
光を捨てているんじゃない。
重すぎる心を、
置いていこうとしているんだと。




