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7、天空都市アトラス

世界観の説明回です。まだまだ街には行けません。



 ♦︎



 都市国家アトラスは大陸の端に位置する半島国家()()()

 

 周りを荒れた海流に囲まれ、唯一大陸と繋がる北西部は、高い峰々が蓋をする。海に突き出たわずかな土地に、都市アトラスは作られ、外界と隔絶された独自の文化を築いて来た。


 そしてその孤立性が、大陸中を焼き払った大陸大戦の戦火からアトラスを守った。


「アリス、大戦の話はどこまで聞いている?」


「……大陸中の国々が争いあって、魔術の多用で滅んだと……」


「そうだ。大国はうちより遥かに魔術が進んでいて、優れた魔術師も大勢抱えていた。彼らがぶつかり合って、膨大な被害を生んだ」


 魔術は物質を操る。形を変え、固定し、崩壊させる。


 その高度な技術が、人を壊すため、街々を破壊するために磨き上げられた。

 相手を屈服させるため、列国はより自分たちの魔術の威力を高め、敵国に放った。優れた技術は、正確にお互いを滅ぼし合った。


 アトラスは辺境故に直接は巻き込まれなかったが、それでも多大な影響を受けた。


「輸出入は止まったし、多くの難民も流れ込んだ。何より列強諸国は、とんでもない魔術兵器を使用したんだ……」


「とんでもない魔術兵器って?」


「……骨と骨をつなぎ合わせるには、関節が必要だろう?」


 レグルスが急に、意図の読めない質問をする。アリスは困惑しながら腕を曲げ伸ばしして頷く。


「え、そうね?」


「物質は全て、それを構成する無数の材料でできている。その材料を組み合わせて構築するのが、俺たち魔術師だ」


 そして物質には、材料同士をつなぎ合わせる、言わば接着剤のような力が存在する。揃えた材料をその力で繋げることで、形が保たれ物質が成り立つ。


 ――ではその力を失ったら?


 列強は、その構成材料の接着力を無効化する兵器を作った。そして敵国の国土を滅ぼすため、あろうことか大地に放った。


 国境を超えて続く大地は、瞬く間に荒れた。一歩歩くごとに地面が割れ、豊かな土壌は砂漠になり、土中の生物は死に絶えた。断層や山脈で隔たれた土地にも、報復、反撃と正当化してお互いに兵器を向けた。

 草木も水も、根こそぎ枯らした崩壊は、やがて連鎖的に大陸全土を巻き込んだ。


 その崩壊は大陸の端の端、山脈を超えて都市国家アトラスをも飲み込もうとした。


「それ以前から、周辺諸国の戦争難民が押し寄せて来ていた。国土の狭いアトラスで彼らを受け入れたら、国が滅ぶ。王室は早々に鎖国を敷いていた」


 けれど国を閉じただけでは大地の崩壊からは免れない。王室は国を守るため、大きな決断を下した。


 国そのものを、空へ移動させることにしたのだ。


 山脈から南のアトラス本土と、周辺のいくつかの離島、そこを結ぶ海域。それらを構成する全ての物質を地上から切り離し、天空へと再構築する。

 

 一歩間違えば全ての物質が崩れ、国土が霧散する。失敗の許されないその壮大な計画は、国中の技術を結集して実行された。




 


 宙に浮かぶ天空都市――アトラスの誕生である。



 ♣



「それが、十年前の話だ」


 レグルスは一度、お茶を飲んで息をつく。そしてまた口を開いた。


「その後、この国は別の問題に追われた。元から鎖国していた上に、物理的に地上から切り離したせいで、必要物資が不足し出したんだ」


 王室は当初、定期的に物質確保の部隊を地上に下ろすと国民に説明した。必要十分の物資を確保して、都市の自由市場を守ると。そして宣言通り、国土の転移後たびたび軍部が遠征に出ている。


 しかし実際のところ、物資は年々流通量が減り、特定の場所に特定の物しか出回らなくなっている。一部ではほとんど配給制の地区も出始めていた。


「遠征部隊が上手くいっていないのかしら?」


「そもそも地上に物が無いんじゃありませんの? 大戦でどこも荒廃しているのでしょう」


 アリスとポルックスが、お互い首を捻る。

 レグルスはその会話を、複雑な表情で見ていた。何かを言いかねているような顔だ。やがて、迷い迷い言葉を続けた。


「……どのみち、この世界情勢では多くは手に入らない。今は、食料関係は政府の農水産省が、それ以外の日用加工品は、知識階級が魔術をフル活用して賄っている状況だ」


 中古品をかき集めて魔術で復元したり、特定の材料を取り出して新たに加工したり。そもそも新しい物資が必要にならないように、今あるものの物質データを固定させて、壊れないようにしたり。


 知識階級は、今や国の骨子だ。


「魔術の理論を理解しているのは、知識階級だけだ。だから魔術で物品を工面するには、一度そこに物資が集まる」


 そこから再度市民に渡るわけだが、そもそもの絶対量が少ないので十分には行き渡らない。


 困窮した市民が、物資を大量に抱える知識階級をどう見るか、子供でもわかる話だ。


「政府としても出来る限り市民に物資がいくよう、手は打ってはいるんだが……」


 それで市民の腹は膨れない。


 ……国政においては「何をしたか」ではなく、「どれだけの成果を上げたか」でしか人心は繋ぎ止められないのだ。



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