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6、談合

今回は少々短めになります



 ♣︎



 図書館に戻ると、天井からアリスが生えていた。


 よくよく見ると、壁の向こう側で扉上部に拵えられた装飾用の欄間にぶら下がっているだけだったが。

 その下では、カストルが両手を広げて控えている。本人も楽しそうに笑っているので、緊急事態ではなさそうだ。


「本当よ、本当にこんな感じなの! ビックリするでしょう? だから私、驚いちゃったの。決して、あなたが怖くて叫んだわけではないのよ、ポルックス!」


 本当に、本当なんだからっ! と足をバタつかせてアリスが何か主張している。

 それを下にいるポルックスが、笑いながら制する。


「わかりましたっ。わかりましたわ、姫様。わたくし、気にしておりませんわ。ですから、どうか、降りてきて下さいましっ」


 ヒーヒー息を切らしながら、ポルックスが懇願する。


「何がどうして、こうなった?」


 レグルスはつい先ほども言ったような台詞を繰り返した。


「殿下のお友達です、レグルス殿」


「はぁ?」


 カストル曰く、アリスの友人が天井を突き抜けて現れたせいで、アリスが驚いて悲鳴を上げた。ちょうど、その向こうにポルックスがいて、アリスが自分のミートパイに怯えているのかとショックを受けたことにショックを受けたアリスが弁明のために欄間によじ登って――


「お前、説明する気ないだろう」


 聞けば聞くほど、意味がわからない。カストルの言葉を遮って、レグルスはアリスを床に下ろす。


 レグルスが見てきた街の様子を報告するため、全員連れ立ってダイニングに移動した。その間に、アリスたちは今日一日の出来事を話す。

 移動しながら幽霊少年のことを聞いたレグルスは、ダイニングテーブルに座ると深いため息を吐いた。


「つまり……図書館には、数年前から不審者が住み着いていた訳か……」


「不審者じゃないわよ、『ユメノ』よ」


 いい名前でしょう、とアリスが胸を張る。

 レグルスはさらに頭を抱えて呻き声を上げた。


 国家の機密情報も扱うこの施設で、誰にも見られず、どこでも入り放題の存在がずっと潜んでいたのだ。もし、アリス以外に意思の疎通が取れる者がいたら、いったいどんな悪用されたか、わかったものではない。

 レグルスは今更ながらに背筋が寒くなってきた。


「それで、街の方はどうだったの? あなたの、その、顔は……」


 アリスが、少し言葉を選びながら尋ねる。

 レグルスも意識を切り替え、街で見聞きしたことを伝えた。特に、市民の中にアリスを探している勢力がいることを。


「幸い、俺の顔は割れていなかったし、お前も姿絵などは出回っていない。街に出ても、すぐにバレることは無いだろうが……」


 アリスは今まであまり王宮から出ず、外部に顔を見せることは少なかった。今回は、それに助けられた。


「だが、軍部だけでなく市民にも警戒するとなると、かなり厄介だぞ。言ってしまえば、街中が監視網だ」


「……街の人々を疑うのは、嫌だわ」


「あぁ、そうだな。反体制派は、かなり深く街に広がっているようだから、どこまで警戒したものか……」


 レグルスの嘆息を滲ませた声に、アリスが首を振る。


「……お父様が、治めていた街だもの」


「――っ」


 その街の住民に、恨まれて討たれたのだと言えるほど、レグルスは無神経ではなかった。


「市街地は今、そんなに困窮してるんですか?」


 カストルが横から聞く。彼らもアリスに従って、ほとんど王宮から出なかったため、街の情勢には疎かった。


「一般層まではそうでも無いが、貧困層がだいぶ追い詰められている。ここが食うに困ると、犯罪に走って表の治安も荒れ出す」


 そして一般層にまで貧困が広がり、負のループが始まる。けれどそれは、たとえ軍部や市民に政権が移っても、すぐには解決できない問題だった。


「そもそも、どうしてそこまで物資が不足しているんですの」


 ポルックスの芯をついた問いに、レグルスがテーブルを囲む全員を見渡して口を開いた。








「お前たちも知ってるだろう。この国が――宙空に浮いているのを」


 

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