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盈月  作者: tr
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第一話

「平和な時代に私のような人間は不要…か。」

そう呟きながら、ぼんやりと部屋の天井を見つめる。先日、傭兵としての契約を突然打ち切られた。貴様のような野蛮な者はいらん、とのことらしい。散々私をこき使ってきたくせに…。そう思いつつ僅かばかりの報酬を受け取るとすぐに追い出されてしまった。傭兵生活を始めて5年、目的も果たせずただ無駄に放浪する日々。この生活はいつ終わるのだろうか?アレは見つかるのだろうか?海の中で真水を探すように無茶な話だ。だが、そんな無茶を叶えようと思考を巡らせるたびに深い海の底に沈むような感覚に陥る。暗く冷たく、光すら届かない水底の冷たさが体の熱を奪う。私はその寒さを紛らわせるために、傍に置いてあった剣を抱き寄せ眠りについた。かつての温かな日々を思い出しながら。


 遮るものなにひとつない朝、陽の光は部屋へ差し込むと、水光のように部屋を薄く照らす。そして光と共に窓からは町の活気溢れる人々の声も入ってくる。それは平和への讃美歌のようでもあり、私への呪詛のようにも思える。私はため息を吐きながら、鏡の前へ向かう。鏡の中の私は眉間に皺が寄っており、目の隙間からは赤い光が輝いている。いつものようにさっさと支度をしようと思ったが、契約を打ち切られたことを思い出す。時間があるので、私は気まぐれに白い髪をある形にまとめ始めた。

「…この髪型にするのは久しいな。」

髪をまとめてしばらく、鏡に映ったのは頭にお団子を二つ乗せた自分の姿だった。最近は時間がかかるのでしていなかったが、手は覚えていたのだろう。あの頃となんら変わらない綺麗な形に満足し、思わず笑みを溢す。部屋に戻り旅仕度を進めていると、次の仕事はいつありつけるだろうかとぼんやり考える。仮に傭兵業をやめ、それ以外で生きようとしたとて、この生き方以外知らない私には自殺行為に等しい。平和に馴染めない者の末路を想像し、思わず目を細める。とは言えこの町にもう用はない、最後に帽子を被ると私はドアを勢いよく開けた。


 宿を出た私は街の外へ向かっていると、往来の人々は私を…いや、私の背負う武器を親の仇のような視線を飛ばす。不愉快極まりない視線に、私は街の出口を目指して足を早める。しかしその刹那、背後からの声が私の足を引き留めた。

「お、ごきげんようティアの嬢ちゃん!」

威勢の良い声に振り向くと、豪快そうな男が屈託のない笑みを浮かべていた。私はため息は吐きながら

「はぁ…相変わらずその挨拶は慣れないな。」

「ははは、相変わらず変わってるなぁ嬢ちゃんは。にしても、随分久しぶりな格好だな、どこか出かけるのかい?」

「いや、この町を出るんだ。契約は打ち切りのようだからな。」

すると男は少し寂しそうにしながら

「そうかい、そりゃあ寂しくなるなぁ。うちの酒場が賑やかになってたってのに…。」

「まぁそう言うな。仕事のなくなった傭兵のやることと言えば、決まっているだろう?短い間だったが世話になったな。またここに寄ることがあれば、飲みに行くさ。」

そう言って足早に去ろうとする私に、店主は不思議そうな顔を浮かべながら

「んでも、ここ最近のご時世じゃ傭兵の仕事ってのはあまりねえんだろ?嬢ちゃんどっかあてがあるのかい?」

「うっ…。」

店主の質問に図星を突かれ、思わず足を止める。そんな私の反応に店主は片目を細めると、

「その反応じゃあてはなさそうだな。じゃあ丁度いい、ひとつ手伝ってくれねえか?」

「…却下だ。タダ働きは御免だ。」

そう突き放すように言うと、店主は豪快に笑う。

「なぁに、勿論わかってるさ!報酬だろ?それに関しては嬢ちゃんもわかってるはずだぜ?ちゃんと出すし、ついでにサービスもするからよ!嬢ちゃん、どうか頼めるかい?」

そう言って店主は私に真剣な眼差しを向ける。店主はここでは珍しい、私を"そういう目"で見ない人物だ。そんな人物にここまで言わせてしまっては…。いや、依頼に私情は持ち込むべきでない。だが金勘定に関しては信頼はできる、どうしたものか…。私はしばらく考えた後、

「…わかった、その依頼受けよう。」

「ありがてぇ!助かるよ嬢ちゃん!」

そう言うと、店主は私にニカッと笑った。そんな店主の笑みに釣られ、私も思わず微笑む。

「それじゃあ…契約成立、だな。」

そう言って私は右手を差し出した。

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