その1:救世の聖女様、ですと?
「……そのようなわけで、あなたをお招きしたのだ」
長々とくっちゃべってた青年が、ようやく話を終えた。
「要約すると、あなた達は敵に比べると弱すぎるので、敵に勝てる人間を招いた、という理解でよろしいですか?」
丁寧に話してやる気すら蒸発して消え失せたけど、そこはそれ、文明人だから多少は丁寧に答えてやろう。自動翻訳とやらが、謙譲語と丁寧語の違いをちゃんと訳してくれるかどうかは知らないけど。
「貴様無礼だぞ!」
青年の傍にいた、剣で武装した男が唾を飛ばして喚く。
「あなたに聞いてないけど。あなた、そちらの若い人と同じ身分なの?」
「なんだと貴様ぁ!」
『あなたに聞いてません!!』
腹に力を入れて『圧』を込めて怒鳴り返す。
あら、おじさん吹き飛んだわ。
「なんなのあの人。あなたに取って代わるつもりだったみたいよ?」
青年が目を丸くしているところに、言葉を被せてやった。
「あなたの部下、鍛え直したほうが良いんじゃない?よその女を呼ばなきゃいけないくらい弱いくせに、あなたに成り代わって喋ろうとするなんて、生意気でしょ」
「弱い、などと」
「あら、役に立たない人ばかりしかいないから、私達を呼んだんでしょ?」
にっこり。
誤魔化そうったって無駄ですからね?助けてくれる人を求めて呼んだ、と説明したのだから、そういう事なんですよ?
「しかし、かの者の武勇は近隣に知られておる」
「でもその武勇は役に立たなかった。そうでしょう?」
「女のくせに生意気ぐぇっ」
ポケットに入っていた飴を、手首のスナップをきかせて投げつけた。
思ったより勢いよく飛んでいきました。
「生意気なのは話に割って入るアンタでしょ」
横から割り込んで怒鳴ろうとした奴に言い聞かせたけど、飴玉をデコにくらってひっくり返ってたから、聞いてたかどうかは怪しい。
「あのさ、あなたってこいつ等のなんのわけ?」
そして青年に聞いてみた。
「我は第二王子だ」
「ああ、つまりこいつらの御神輿」
「不敬だぞ!」
事実を指摘しただけなのに、怒鳴られました。
「え、口をはさんでくる奴は黙って出しゃばらせといて、今さら何言ってんの?」
「我が飾りであるなどと!」
「割り込んで勝手に喋らせてる時点で、舐められてることに気が付きなよ?」
好き勝手に怒鳴ったり喚いたりしてる時点で、周りの筋肉どもはこの青年を舐めてますって。
「偉い人が誰かと話してる時に、勝手に割り込まない。これ、最低限の礼儀ってやつだから。その、最低限の礼儀すら守ってもらえてないのが、君なの」
めっちゃくちゃ舐められてるからね?
「下手に出ておれば付け上がりおって!」
「誘拐犯が尊大に振舞うとか、頭おかしいわよ。あ、頭がおかしいから犯罪をやるのか」
「誰が犯罪者だ!」
「あんたとあんたに指示を出した人。この場にいる下っ端は共犯者ね」
もう丁寧に話さなくって良いか。
「生意気な!判らせてやる!!」
『伏せ!!』
どうやれば良いのかは何となく分かってたので。
『相手に強制する』意思を込めて圧をかければ、こっちにとびかかろうとした青年はそのまま、床に這いつくばった。
「どうやって『判らせる』つもりだったか、話してもらおうか?」
「女なんぞ、犯せばいう事を聞くものだろう!」
「わ下衆い~、強姦していう事聞かせるつもりだったとか無いわー」
「女は黙って股を開けばいいんだ!」
『一生、勃たないようになりなよ』
これもついでに押しつけとこう。こいつはもう一生EDでいいや。
「なん、だと……ぐぬぅ!」
這いつくばった姿勢から動こうとしたけど無理だった模様。そりゃ、筋肉が言う事聞かないもんね。動いて良いなんて言ってないからね。
『この場にいる全員、武器を捨てて地面に伏せろ。両手足を広げて、床にべったり貼り付け』
ついでだから全員伏せててもらおう。邪魔だし。
「で、話は元に戻るんだけどさ。あんた、なんであたしを呼んだわけ?」
「説明、して、やっただろう!」
「いちいち怒鳴らないでくれない?」
ウザい。
「あんたとあんたの部下が弱っちいから仕事を丸投げできる強い人を呼んだ、て事は理解したから。で、なんであたしらなの?」
「口うるさい女に、用は無い!」
「女が嫌なら、男を呼べばよかったんでは」
「男が孕めるわけがなかろう!!」
「わーお、孕ませ目的の誘拐だった。サイッテー」
「ほんっと、サイッテー」
それまで黙ってた瑠璃ちゃんが、ここでようやく発言した。
「だ、誰だ貴様!」
そして怒鳴る第二王子とかいう人。
「気が付いてなかったっぽいね?」
「最初っからいたのにね?」
瑠璃ちゃんは目立たないように気配を殺してたけど、ずっと隣にいたんだけどな。
黙って何をしてたかって言うと、私らの足元にある魔法陣?みたいなのを観察していた。
「解析終了だよ、ちょっと書き換えちゃうね」
「できるの?」
「見かけがファンタジーぽいけど、これ、プログラミングと同じような書き方してるから。直せる」
「すごっ」
「なんか知らんけど、直せる自信はあるぞよ?」
「天才じゃん」
「我、天才。我を崇めよ、わっはっは」
瑠璃ちゃんはおどけてみせながら、手にした油性ペンで足元に書かれた文字を描きなおし始めていた。