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第8話 護衛という名の軍事オペレーション



「お嬢様、こちらへ」



瑞希が短く告げると、スマホを耳に当て、何やら低い声で指示を出し始めた。

内容はよく聞き取れなかったが、「至急」「迎えに」「配置」という単語が聞こえた時点で、もうただの送迎じゃないことはわかった。


(……これ、護衛っていうより軍事オペレーションだよな?)



「お待たせしました。車を回します。倒れているこの者は、私の部下が運びますので」



そう言うやいなや、公園の奥から黒スーツの男たちがすっと2人現れた。

彼らは周囲の視線すら自然に避けながら倒れているレイナに近づくと、迷いのない動作で両脇を抱え上げた。



「うおっ……ちょ、ちょっと乱暴じゃ――」



言いかけた瞬間、レイナの頭がガクンと揺れた。

その様子を見て、思わず胸がズキリと痛む。


(おい(レイナ)……あんたほんとに生きてんだろうな……?)


やがて公園の前の道に、一台の黒塗りリムジンが音もなく滑り込んできた。

全長は普通の車の二倍以上。艶やかなボディは昼間の太陽を浴びてギラリと光る。

道行くおばちゃんたちが「あら誰かしら」とヒソヒソ話をしている。



「お嬢様、どうぞ」



ドアが開くと、内部からふわっと漂う革張りの香り。

中は広くシートは向かい合わせで、まるで会議室のようだ。

そしてなぜか隅には小さな冷蔵庫とワイングラスまで完備されている。


(なにこれ……高級タクシー? いや、もはや動くラウンジじゃん)



「お嬢様、こちらにお掛けください」



瑞希が当然のようにエスコートしてくる。

その完璧な所作に、思わず「は、はぁ……」と頷いてしまった。


レイナは後部座席の片側に横たえられ、黒スーツ二人が無表情で見守っている。

シートベルトは丁寧に固定されているが、その姿はどう見ても搬送中の負傷者だ。



「……これ、絶対通報案件だよな」



小声で呟くと、瑞希がすかさず返す。



「ご安心ください。全て正規の手続きで行っております」



(正規ってなんだよ……護衛業界の正規ルール? そんなの信用できるか!)


車が動き出すと、外の景色がスルスルと流れていく。

車内は驚くほど静かで、タイヤが地面を転がる音すら聞こえない。

その静けさの中で、瑞希が口を開いた。



「お嬢様、先ほどは危険な目に遭わせてしまい申し訳ありません」


「あ、ああ……別に……(いや、危険な目に遭わせたのはほぼお前だろ)」


「この者に関しては、今後も十分な監視を続けますので――」


「いやいやいや! 監視とかいいから! あの、その……今はもう大丈夫だから!」



慌てて笑ってごまかす。

今ここで「実は入れ替わってます」なんて言ったら、次は俺の身体が制圧される未来しか見えない。


…制圧っていうか撲殺…?


ガチめに抹殺される未来しか見えない。

不可抗力とは言え、絶賛“お嬢様”の体を乗っ取ってるわけだ。

捉えようによっちゃ犯罪だもんな…?


いやいや、俺は全く悪くないんだけどね!?!




しばらくして車は大きく右折し、やがて重厚な鉄製の門の前に停まった。

門の左右には、まるで美術館のような石造りの塀が延々と続いている。


(……え、これ、レイナんち?)


瑞希が窓を少し開けると、門番らしき男性が深々と一礼。

すると、巨大な門がギィィィィ……と開き、リムジンはそのまま敷地内へ。


次に目に飛び込んできたのは――庭。

とにかく庭。芝生がゴルフ場のグリーンみたいに整ってる。

その中央には噴水があり、そのさらに奥には……もう一個噴水があった。

二段構えの噴水って何のためだ。


(なにこれ……庭が公園サイズ……いや、区立か?)


さらに奥には、白い大理石の階段を持つ建物がそびえていた。

柱はギリシャ風、窓には金色の装飾。

そして屋根の上には、なぜか翼を広げた女神像がドンと立っている。



「お嬢様、到着いたしました」


「……え? え、ここ?」


「はい。天城家本邸でございます」



(“本邸”ってことは別邸もあんの!?)


車がゆっくりと玄関前に停まり、瑞希がドアを開けてくれる。

思わず降りるのをためらった。

だって目の前の玄関、両開きの扉が人間よりデカい。

しかも両脇にはスーツ姿のドアマンが二人立っていて、完全にホテルか何かの入口だ。



「……お、おじゃま……します?」



思わず疑問形になる。

瑞希は何事もなかったように、優雅な所作で案内してくる。


玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、レイナ(蓮)の脳は一瞬停止した。

大理石の床はピカピカに磨かれ、中央には直径三メートルはあろうかというシャンデリア。

天井は吹き抜けで、上階の回廊からも人影がちらほら見える。

壁際には絵画や彫刻が整然と並び、その中には明らかに博物館級のものも混じっている。


(……うん、わかった。レイナんち、やばすぎる)


後ろでは、黒スーツの男たちが気絶したレイナを静かに運び上げていく。

その光景が、ここでは日常の一部であるかのように自然に溶け込んでいるのが一番恐ろしい。


(あー……これ、しばらく住むことになったら確実に元の生活に戻れないやつだ)


レイナ(蓮)は深くため息をついた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



■ 天城家本邸


天城家本邸あまぎけほんていは、神奈川県川崎市の海岸沿いに所在する大規模邸宅であり、天城家の居住および接客拠点として利用されている。豪奢なギリシャ風外観と広大な庭園を備え、建物内部には美術館級の装飾と高級ホテル並みの設備が整う。敷地は高い警備体制で守られ、正門から玄関に至るまで徹底したセキュリティが施されている。



◆ 概要


天城家本邸は、天城家の本拠として日常生活のほか、国内外の来賓接待や社交行事、非公開会議の会場としても利用される。敷地は海岸沿いの高台に広がり、正門から主屋までのアプローチは数百メートルに及ぶ。庭園は公園規模の広さを誇り、複数の噴水や芝生広場、樹齢百年を超える植栽が整備されている。



◆ 立地


本邸は川崎市南東部の海岸沿い、高級住宅街の端に位置する。南側は相模湾を一望できる開けた景観で、晴れた日には遠く房総半島まで見渡せる。海風による塩害対策として、外壁や屋根材には耐腐食性の高い素材が採用されている。周囲は高木と石造塀に囲まれ、外部から内部の様子を直接確認することは困難である。



◆ 敷地と外観


正門は高さ約3メートルの鍛鉄製で、左右の石造塀は美術館を思わせる装飾を有し、100メートル以上にわたって敷地を囲む。門番が常駐し、出入りには事前許可が必要である。敷地内の車道は石畳で舗装され、夜間は間接照明が足元を照らす。


庭園は、門から玄関までの間に二段構えの噴水が配置され、整えられた芝生が広がる。芝生の手入れは日々行われ、ゴルフ場並みの均一な緑が保たれている。庭の一角には温室や小規模な果樹園も存在し、来客用の散策路として整備されている。


主屋は白大理石を基調としたギリシャ風建築で、正面には複数のコリント式円柱が並び、屋根上には翼を広げた女神像が設置されている。外壁には金色の装飾モールディングが施され、昼間は太陽光を反射し、夜間はスポットライトでライトアップされる。



◆ 建物構造


主屋は地上3階建て、地下1階構造(地下の詳細は非公開)で、延べ床面積は数千平方メートルに及ぶ。


・1階:玄関ホール、応接室、メインダイニング、執務室、来客用サロン、厨房、警備室

・2階:家族用居室、来賓用スイートルーム、図書室、音楽室、回廊

・3階:娯楽室、アートギャラリー、小規模ホール、展望テラス

・地下:ワインセラー、倉庫、従業員用施設、避難用通路



◆ 玄関ホール


玄関は両開きの特注扉(高さ約3メートル)で、両脇にドアマンが立つ。内部に入ると高さ10メートル超の吹き抜け空間が広がり、中央には直径約3メートルのクリスタル製シャンデリアが吊るされている。床はイタリア産大理石張りで、壁面には古典絵画や彫刻が整然と配置され、博物館級の美術品も含まれる。上階の回廊からはホール全体を見下ろすことができ、来訪者への壮大な印象付けを意図している。



◆ 警備体制


天城家本邸は24時間体制で警備されており、複数の専属護衛(黒スーツ姿)が敷地内外に常駐する。正門には門番と監視カメラが配置され、敷地内には赤外線センサーと監視ドローンが導入されている。護衛は車両の送迎も担当し、黒塗りリムジンや防弾仕様車を使用。リムジンの内部は革張りシートの対面配置で、会議室のような構造を持ち、小型冷蔵庫やワイングラスも備える。



◆ 交通アクセス


本邸は一般には非公開であるため、公共交通機関による直接のアクセスは存在しない。関係者や来賓は専用車両により送迎され、最寄りの都市中心部からは車で約30分。海沿いの道路からは直接敷地に入ることはできず、裏手に設けられた私道を経由する必要がある。


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