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この世界が異世界だと認識してからは、目に映る物に疑問を抱く事は少なくなった。
どれだけ珍しかったり、不思議なことでも「そういうものなんだろう」で片付いてしまう。
…子供の成長って部分で考えたら良くないのかもなぁ。
初めて座った日、はいはいをした日、1人で立った日、歩いた日、毎年の誕生日。
ユウもマイもことある事に喜び褒めてくれた。
3歳の頃、興味本位でユウの剣を勝手に握った時、2人から本気で怒られた。多分初めて本気で怒られた。
何かの間違いで怪我をしたら大変だ、当たり前だろう。
でも、ユウはその反面喜んでもいた。
自分の人生とも言っていい剣に、自分の子供が興味を示したのだ、それも当たり前かもしれない。
あと、どうでもいいんだけど、ユウが髪を伸ばした。理由?そんなの知らん。
月日は流れていき、俺ももう5歳になっていた。
面白いもので、この時にはもうこの異世界にびっくりするほど馴染んでいた。
とは言っても、おれが知ってる世界はまだ家の敷地内だけなのだが。
どういう訳か、ユウもマイも家からあまり出かけたがらないのだ。
田舎だからなのか勿論何も無いんだけど、家族で隣町に出かけるなり、ちょっとそこまで散歩をするなんて事も無かった。
それに、両親が他の村人達とコミュニケーションを取っている所もほぼ見たことが無かった。
何か必要な物がある時は、ユウが仕事で隣町に行ったついでに買ってきてくれる。本当にそれくらいしか両親が外に出てるのを見たことがなかった。
それと、かなりびっくりなのがユウとマイの年齢だ。
おれが生まれた時、2人はまだ16歳だったみたいだ。
もしかしたらこの世界では普通なのかもしれないが、その辺はまだ分からない。
何はともあれそうなってくると、勝手に色々察してしまい、おれ自身も家の敷地から出るって選択肢が選べなくなった。
「パパー!今日も剣の稽古したい!」
あの一件があり、ユウが子供用の木剣を買ってきてくれた。
あ、ちなみにユウとマイの事はパパママと呼んでいる。これは生前もそうしてたからだ。
28歳ニートのパパママ呼び……それはそれは痛い光景だっただろう。
「ようし、シエル。今日はちょっと本格的に稽古をしてみよう。」
「本当!?やった!!」
本格的な稽古!!これを待ってたんだよ。
ユウが仕事から帰ってくる度に、土産話を聞かされていたから何となく分かるけど、この世界は所謂魔物が当たり前に居る世界だ。ユウの仕事は依頼を受けてその魔物を討伐する、言わば「冒険者」なる職なのだろう。直接依頼が来ない時には、冒険者ギルドに行ってフリーの依頼を取っている。
恐らく冒険者と言っては居るが、ハンターに近いかもしれない。
最初、父が冒険者と聞いて「おぉ!」と興奮したけど、そんなに珍しい話でもなく、どうやら農夫や商人などの世にある普通の仕事から溢れた人達がなる仕事。つまりだいぶ下の階級の職業のようだ。
それでも、腕がいい冒険者はどんどん名声を上げて周りからリスペクトされ、王国に直接私兵として雇われたり、中には貴族になった人も居るとか。
ハイリスクハイリターンの仕事のようだ。
さて、父親は冒険者、母親は主婦。土地も家も借り物だし、自分たちの畑も持っていない。
そうなると、大人になったおれが付ける職業は勿論冒険者だ。
どこかで普通の仕事を雇ってもらいさせてもらう事もできなくは無いけど、その辺は基本的に奴隷を買って済ましてる人が多いから、鍛治職人のような職人仕事でもない限り難しいようだ。
そんなこんなで、庭に出て剣の稽古を始めたのだが……。
「違うだろシエル!足さばきはこうだ!!」
「付きには下から払う!さっきも言っただろ!」
「無闇に剣を振れば言い訳じゃない!もう1回!」
……スパルタすぎる!!
ねえパパ!ぼくまだ5歳!!もっと優しく包み込むように手ほどきしてくれよ!
「……パパ、一旦休憩させて…」
「ダメだ、実際の戦闘の時にまだ倒してない相手は休憩させてくれるか?」
おいバパさんよ、5歳に正論言って楽しいか?
「でも……」
「ダメだ」
コノヤロー
「パパ…」
「ダメだ」
「……ママ」
「ダメだ……え?ママ?……」
はぁ…自業自得だ。
ユウが恐る恐る振り返ると、そこには見た事のないくらい満面の笑みを浮かべながらも全く感情の篭ってない表情を浮かべたマイが立っていた。
笑顔を貼り付けるってこういう顔のことなんだな。
「あなた…?シエルは何歳?」
「5歳です……」
「稽古を始めて、どれくらいの時間が経った?」
「………………3時間です。」
「シエルの顔を見て?どんな顔をしてる?」
「はい、ごめんなさい。」
たっぷり絞られてるユウが何だか気の毒に思えてきた。仕方ない、助け舟でも出してやるか。
「パパ、最後に1回お願いします。」
その言葉を聞いて、どうすればいいか分からずチラチラとおれとマイの顔を見るユウの姿は、まるで子供のようだ。
いつもは、すごく優しく穏やかな父のここまで熱い姿と情けない姿、初めて見る一面を2つも見てしまうとは驚きだ。
「…あなた、やってあげなさい。」
マイからの許しも出て、ラスト1回付き合ってもらうことになった。
「シエル、おいで。」
…足さばき。教わった足さばきはおれが思っていたのとは違って、何だかダンスのようだった。
徹底的に、相手との間合いを自分有利に運ぶためにと考えられたであろうステップ。
「よし、最後に全力で打ち込みなさい。」
一気に、距離を離して木剣を胸の前で真横に構えたユウに向かって、全力で駆け寄り、思いっきり飛び跳ね、ユウの剣に力いっぱい振り下ろした。
ガンッ!!
今日一番の木剣と木剣の合わさった音が辺りに響き渡った。
お、おれ………
「シエル!!すごいじゃないか!」
おれを抱き抱えながら、嬉しそうにはしゃぐユウ。
「完璧だったぞ!しかもその跳躍力、とんでもなかったぞ!!今日はお祝いにしよう!」
何故お祝いなのか……。
それにしても自分でもびっくりした。
まさかあそこまで高く飛び上がれるとは思わなかった。
どういう訳か、ユウが受け止めてくれたから怪我はしなかったものの、そのまま地面まで落ちて着地を失敗してたらそれなりの怪我だ。
何はともあれ、今日の稽古がかなり有意義だったのは間違いない。
おれはこれを続けていこうと決意した、この異世界を生き抜くために。