ノータリンパンダ
佐々木正樹は高校の入学式を終え、今日から高校生になった。新たな一歩を踏み出した彼は、早速自分の目標に向かって行動を開始する。音楽を愛し、軽音楽部に入部したかった佐々木は、職員室へ向かうと、扉を開けて一番手前にいた浜田という職員に声をかけた。
「軽音楽部に入部したいです!」
しかし浜田は、少し残念そうに言った。「軽音楽部は去年で廃部になったんだ。君の前にも新入生が来たけど、その新家という生徒は、その知らせを聞いて屋上に行ったよ」
「新家仁だな?」佐々木は聞いた。
「そうだ」と浜田は答えた。
佐々木はその言葉を聞いてすぐに屋上へ向かった。彼の胸には、まだ見ぬ新しい仲間との出会いが待っていることを確信していた。
屋上に着くと、ドアの向こうから誰かが歌っている声が漏れ聞こえてきた。佐々木はそのメロディに心を奪われた。それはミスターアダルトの「君がいた冬」という曲だった。何気ない瞬間に過ぎないかもしれないが、佐々木はその瞬間に何かを感じ取った。
ドアを開けると、右手でギターを弾きながら後ろを向いて歌っている人物が見えた。新家仁、それが彼の名前だった。
「君が新家か?一緒にバンドをやらないか?」佐々木は声をかけた。
新家は一瞬だけ黙り込んだ後、少し驚いたように振り向き、言った。「お前は誰だ?」
「同じ新入生の佐々木正樹だ」と佐々木は答えた。
新家はギターを弾きながら、冷静に問いかけた。「お前は何のために音楽をやるんだ?」
佐々木はすぐに答えた。「君がさっき弾いてた『君がいた冬』、俺もそんな感じのバンドをやりたかったんだ。でも、俺はただ音楽を楽しみたいだけじゃなくて、君と一緒に新しい何かを作りたかった」
新家はうなずきながら言った。「俺は、ドクターチルドレンを踏襲するんじゃなく、蹂躙するためにバンドを作りたい。俺たちはただのコピーになりたくないんだ」
佐々木はその言葉に胸が熱くなった。「それなら、俺もミスターアダルトを踏襲するんじゃなく、蹂躙する! ミスターアダルトを越えてやる!」
新家はにやりと笑い、言った。「それなら、バンドを組んでやる。だが、四人組にしたいんだ。お前、メンバーは誰か思いつくか?」
佐々木は即答した。「中学の時、野球部に入るつもりの伴隆ってやつがいる。ギターが弾けるんだ」
新家はさらに続けた。「俺にはドラムのやつがいる。名前は永田瞬也。高校には進学しなかったが、複数のバンドでドラムをかけ持ちしてる」
佐々木は嬉しそうに言った。「じゃあ、それで決まりだな! バンド名も決めよう!」
その日の帰り、佐々木と伴は一緒に歩きながら、次第にバンド名の話になった。佐々木は思い出した。中学生の時、修学旅行で行った東京の動物園で見たパンダのことだ。「ノータリンパンダってどうだ?」
伴は大笑いし、「それ、すごくいい響きだな! それで行こう!」
その日の夜、四人が再び屋上に集まり、バンド名「ノータリンパンダ」は正式に決定した。新家は言った。「さあ、まず一曲作ろう。君はどうだ?」
佐々木はうなずきながら言った。「前からタイトルだけは決めてるんだ。『君の日陰に僕がなる』って曲だ」
他の三人はそのタイトルを気に入り、佐々木はギターを持ち、歌い出した。メロディと歌詞は自然と溶け合い、そこには深い思いが込められていた。
「いい曲だ!」と新家が言った。
「メロディも歌詞も素晴らしい!」と永田も賛同した。
その曲はインターネットの動画サイト「ヨウチューブ」にアップされると、あっという間に百万回再生され、レコード会社からのオファーが舞い込んだ。そして、「ノータリンパンダ」はメジャーデビューを果たすこととなる。
デビューシングル「君の日陰に僕がなる」の大ヒットをきっかけに、次々とアルバムをリリースし、人気は爆発的に広がった。『あのパンダ、ノーパンだ』『パンダの尻尾は何色?!』『ホワイトハート&ブラックハート』と、次々と世に放たれるアルバムはどれもヒットし、ノータリンパンダはまさにトップアーティストとなった。
数年後、佐々木と新家は、初めて会った時のことを思い出していた。「ドクターチルドレンを蹂躙できたな」と、新家が静かに言った。
佐々木はそれに続けて言った。「ああ、俺たちは確かに越えた。そして、次はどこに行くんだろうな?」
二人は空を見上げて、未来の広がりを感じていた。ノータリンパンダは、ただのバンドではなく、時代を変える存在になっていたのだ。