43話 ファーストデート・プランニング
後夜祭が終わりかける頃を見計らって、まずは誠が先に教室を出て、それから間を置いてから凪紗も教室を出る。
二人はそれぞれ別の方向から校舎を出て、さも偶然かのように装いながら二人並んで校門を潜る。
それから凪紗の自宅のアパートまで送ってから、誠も帰宅する。
鞄を床に置いて、どっかりとリビングの椅子に座る。
「速水先輩と恋人同士、か」
全学年の男子が血涙流して羨ましがるだろう、『凪紗とお付き合い』と言う栄誉を手にした誠だが。
今一つ、実感が無い。
お互いに告白し合って、お互いにその気持ちに応え合ったとは言え、その後の会話は日常会話と大差なかったのだ。
果たして自分と凪紗は本当に恋人同士として付き合うことになれたのか、半信半疑だ。
けれど凪紗は確かに誠のことを「恋愛として好き」と言ったのだ。
そうだと言うのなら、"そう“なのだろう。
「っと、ぼーっとしてる場合じゃない」
誠はスマートフォンを取り出し、早速明後日に控えたデートのためのプランを立てる。
この近辺でのオススメデートスポット、と検索し、いくつかそれらしい候補が挙がってくる。
「(速水先輩が普段行かなさそうで、なおかつ騒がし過ぎない場所か……)」
凪紗はスポーツをやっていたのだからアグレッシブな方がいいかと真っ先に考えたが、香美屋と言う閉鎖的な空間に入り浸っていると言う側面もあり、ある意味で相反した感性を持っている。
テーマパークは騒がし過ぎるし、アトラクションからアトラクションへ移動する合間も忙しないだろう。
ゆったりと歩きながら、なおかつアトラクション性もある場所……
検索結果を上からスワイプしながら眺めていた誠の目が『水族館』で止まる。
「そうか、水族館があるじゃないか」
デートスポットとしては定番だし、遊覧しながら楽しめて、イルカショーなどのアトラクション性もある。水族館特有の閉鎖的な空間と言うのも、凪紗の肌に合うかもしれない。
誠は早速近場にある水族館について調べ始めた。
途中で夕飯と入浴も挟みつつ、じっくりとデートプランを煮詰めていく。
一方の、凪紗は。
誠が片付けて掃除してくれた部屋に鞄を下ろし、制服から部屋着のジャージに着替えて、ベッドに寝転がる。
「椥辻くんと、恋人同士、か」
自分でも未だに信じられない。
それもそうだろう、特定の男子とお付き合いすることになるなど、少し前の自分ならば考えもしない、それどころか煩わしいだけだった。
誰が最初に"不攻不落の速水城塞“を口説き落とせるか競うゲームに興じるなど、正気の沙汰とは思えない。そんな輩とお付き合いするなどまっぴら御免である。
素っ気なく塩対応で返し続け、『私は恋愛に興味ありません』と主張しているにも関わらず、"城塞攻略者“はヒートアップする一方。
おまけに学園の外でもストーカー紛いな輩にも絡まれるときた。
そりゃぁ、「自分に言い寄ってくるような男は大抵ロクでもない」と言いたくもなる。
そんな矢先に現れたのが、椥辻誠と言う一個下の男子。
紆余曲折に紆余曲折を重ねた結果とは言え、彼のことを好きになり、そんな彼も自分のことを、"不攻不落の速水城塞“ではなく、ただの速水先輩として好きになってくれた。
そうしてついさっき、恋人同士となったわけだが、なんとも現実味の無い実感だ。
けれど、あの、「俺と付き合ってください」と真っ直ぐにぶつけてきた想いに、胸の奥をぶっ貫かれるあの暖かな"ときめき“ばかりが、ぶっ貫かれた部分を燻らせる。
「~~~~~っっっっっ」
羞恥のあまり、凪紗は胸を押さえながらベッドをゴロゴロと右往左往する。
違う、そうじゃなかった。
もっとこう、先輩として余裕を持って振る舞うつもりだったのに、デートに誘われたくらいで動揺してしまったりして。
「……椥辻くんは、落ち着いてたな」
ピタ、と転がっていた身体を止めて。
緊張こそしていたように見えたが、率先してデートに誘ってくれたし、なんならデートプランまで考えてくれると言う。
分からないのでとりあえずおまかせにしてしまったが、
「ちょっとくらい、意見出しても良かったかも……」
まだお互い、好きなものや興味のあることについて、何も分かっていない。
それなのにデートプランを立てますと言う誠は、何だか手練れていた。
早苗と親しいようだったから、女友達と遊ぶことも慣れているのかもしれない。
異性に接し慣れていない自分と、異性との相手に慣れている誠。
「(ってよく思い返したら私、付き合ってもいない男子を何回も部屋に上げてたし、掃除も片付けもされて、……あれ?もしかして私、女として見られてない!?)」
がばちょと上体を跳ね起こす。
いやいやいやいや、それはさすがに無い……だろう、多分、きっと、恐らく、そうかもしれない、らしい。
――そんなことはなく、誠は凪紗の無防備な部分を見る度に理性を働かせているため、ちゃんと異性として意識しまくっているのだが――
なんだか急に申し訳なさが込み上がってくる。
もう一度、ぽふんとベッドに背中を預けて、胸の部分に手を添える。
熱。暖かな燻り。
誠も、これと同じものを感じているのだろうか。
とにもかくにも、明後日のデート。
彼がプランニングしてくれるデートだ。
おまかせと言ったからには、こちらは彼に身を委ねるつもりで赴かなければ。
良い具合に空腹感を覚えてきたので、スーパーへ今日の夕食を買いに出掛けることにした。




